第52話
――いや、俺には関係の無いことか。
そう、自分に言い聞かせる。
大体、見ず知らずの人に手を差し伸べるほど、俺も余裕がある訳ではないからな。
「それでは、自分は授業がありますので、これで失礼します」
あとは理事長の問題だと考え椅子から立ち上がる。
「ああ、今回は本当にありがとう。また、後程――、お礼にいく」
「特に、そういうのは必要ありません。困っている人がいたら助けるようにと両親から言われていますので」
まぁ言われた事は無いが、そう言う事にしておくとしよう。
「そうか。素晴らしい両親だな」
「ありがとうございます」
どうやら間に受け取ってくれたようだ。
それは、それで楽でいい。
保健室から出たあとは、自分の教室へと向かう。
教室に入った時には、生徒達からの視線が俺へと向けられてくるが、俺は黙って自分の席に座った。
しばらくしてから金子先生が戻ってくると、授業が始まり――、休憩時間になっっところで純也が近寄ってくる。
「優斗。聞いたぞ? 3年の先輩から」
「何を聞いたんだ?」
何故か楽しそうな表情をしている純也。
これは、何か変な情報を仕入れた可能性があるな。
「何が?」
「ほら、うちの高校のマドンナの山城綾子生徒会長を優斗が助けたって」
「助けたというか、倒れたところを偶然見かけて、保健室まで運んだだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。おかげで、体中が痛い」
「そうなのか。なんだよ、都の件があったから山城先輩には関わらないようにと忠告に来たのに……」
「何故に、そこに都の話が出てくる」
「だって、ほら! あの美人な生徒会長様だぞ! お近づきになりたい男子は多いだろ!」
「お前と一緒にするな」
俺は溜息をつく。
「まったく、優斗は、それだから彼女が……って、すでにいたな」
意地悪そうな表情を浮かべる純也。
誰のせいで、都と問題事になっているのか、コイツは理解しているのか?
そう思ったところで――、「ほら! だから言ったじゃないの。優斗は、特に何か問題を起こすようなことはしないって!」と、後ろから都の声が聞こえてくると同時に、後ろから俺に抱きついてくる。
その際に、Fカップ以上は確実にはあると考えられる大きな柔らかい胸の感触が後頭部を包み込む。
「都、そこは3年の先輩方も、ある程度のドラマ性を持たせて語ったと思うんだが……」
「純也のドラマには興味ないから」
「――いや、俺じゃなくて浮いた噂の無い山城先輩に対する3年の先輩達の想像なんだが……」
「だから興味ないの! ね! 優斗もそうよね?」
胸を後頭部に押し付けながら、俺の頭を撫でてくる都。
椅子に座っている事もあり、自然と良い感じにフィットする。
「俺には分からないが……」
「もう! それより、山城生徒会長は無事だったの?」
「――ん? ああ、無事だが……。何か、問題でもあったのか?」
山城綾子の無事を確認するかのような都の発言に違和感を覚えた俺は、都に聞き返す。
「何かね、最近、学校内で噂になっているの」
「噂? 生徒会長に関してのか?」
「ううん」
「――?」
俺は首を傾げる。
「何かね、最近、噂になっているの。校内で角を生やした鬼を夕方以降になると見かけるって――。それでね……、その噂が流れるようになると同じくらいして山城生徒会長が、何度も気を失って倒れるようになったんだって」
「偶然だろう?」
「でも……」
眉を潜めながら、心配そうな都。
そういえば、コイツは小さい頃から心霊現象とか苦手だったよな。
そんな事を思いながら――、俺は鬼と山城生徒会長の間には何かがあると推測する。
「まぁ、でも、その鬼と山城生徒会長が何らかの関わりがあったとしたら、気になるよな」
そんなことを、横で話を聞いていた純也が口にする。
「うん。でね! こんなうわさ話があるの。純也は聞いたことがない? ここの学校の敷地って、元は神社があったって話」
「いや――、初耳だな」
二人の会話を聞きながら、『神社か』と、俺は一人、心の中で呟いた。
「それにしても、都は心霊現象の話が苦手じゃなかったか?」
「苦手だけど、噂くらいなら……」
「なるほどな」
俺は都の言葉に頷く。
そして純也と言えば――。
「そういえば、ここ千葉県立山王高校は、山々を切り開いて建てられたんだっけ?」
「うん。――でね、山王高校の校舎裏には原生林が残っているよね? あそこに神社の社があるらしいの」
「そうなのか。それにしても都は、なんで? そんな話に詳しいんだ?」
「決まっているの。女子同士は噂話が好きだから」
「なるほどなー」
呆れたような声で都に同意する純也を見て、俺は山の中の神社についての情報だけを心に刻んだ。
それから午後の授業が終わる鐘が鳴り響くと、ホームルームを教師が行い、部活をする者は校内に残り帰宅部は、そのまま真っ直ぐに自宅へ帰る。
もちろん、俺は帰宅部に属していることもあり、純也や都を残して帰ろうと思っていたが――。
昇降口で、上履きから靴に履き替えていると都が、話しかけてきた。
「ねぇねぇ! 優斗!」
「ん? どうした? 部活はいいのか?」
「うん。今日は大事な用事があったから……」
「大事な用事?」
「お父さんの件か?」
まだエレベーターの怪異は、全容が究明されていない事と、事実は交錯している事もあって警察内部でも対処しきれないのだろう。
テレビでも同じ内容を流すだけになっている。
「ううん」
「それじゃ、大事な要とは?」
「ほら! 一度、胡桃ちゃんに挨拶しておいた方がいいかなって……」
「どうして、妹に改めて挨拶をする必要があるんだ?」
「だって、ほら……」
都が何か言いかけたところで――。
「1年B組の桂木 優斗君。至急、職員室まで来てください」という校内放送が流れてきた。
「優斗、職員室って何かあったのかな?」
「さあな……だけど、悪いな、都。今日は、先に帰っておいてくれ」
「それって、山城綾子さんを助けたことなのかな?」
「ああ、たぶんな。大した事はしてないんだが……」
「へー、私で良かったら待っているけど?」
「そうだな。すぐに終わるだろ?」
都は、どうやら俺を待つ気満々のようだ……。
「いや、どのくらい時間が掛かるか分からないからな。それに、あまり遅くなると帰りが遅くなるぞ? 少なくとも、ここからは、電車も乗り継いでいかないといけないし、家まで遠いんだし」
「大丈夫! 優斗に送ってもらうから」
ニコリと笑みを向けてくる都。
それに俺は――。
「分かった……」
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