第42話

 その瞳を見て、俺は一瞬戸惑うが――。


「何を言っているんだ? 俺は俺に決まっているだろ?」

「本当に?」

「本当だ」

「――そう……」


 一瞬の空白。

 そして――。


「ごめんね――、優斗。変な事を聞いて」

「気にするな」


 俺は肩を竦めながら答える。

 言葉では――、態度では納得しているように感じるのに……、どうして……そんなに寂しい目をしている?

 どうして、泣きそうな顔をしているんだ?

 俺が、嘘をついているからか?

 

 ――だが……。


 もし本当の事を言ったらどうなる?

 どういう説明になる?

 俺の力――、俺が得た力。

 それは何を代償に――、何を捨てて――、何を守れなかったのか。

 それを都に説明するというのか?


 そんな事が出来る訳がない。

 俺が都を守れなかったことを告白できるわけがない。

 

「帰るか」


 都にだけは知られるわけにはいかない。

 例え、どんな理由があったとしても……。


「……うん」


 二人して、千葉ポートタワーから千葉駅前まで戻ったあとはバスに乗り千葉城付近で降りる。

 そして、都を家まで送ったあと自宅への帰路へ着いた。




 公団住宅の扉の鍵を開ける。


「ただいま」

「おかえりなさい」


 元気そうな妹の声を聞き、俺は扉を閉めてから鍵を掛ける。

 リビングには、ソファーの上で寝転がりながらテレビを見て寛いでいる妹の姿が。


「今日は、どこにも出かけなかったのか?」

「中学あったから」

「そういえば、うちと違って休校じゃなかったんだよな」

「うん! それよりも、都さんとのデートはどうだったの? うまくいったの?」

「デートじゃなくて荷物持ちだ」


 冷蔵庫から牛乳を取り出しコップに注いだあと、コップと紙パックを手に持ったままリビングのソファーに座る。


「お兄ちゃん、私、寝ていたんだけど……」


 ブスっと不機嫌そうな妹。


「お前だけのソファーじゃないだろ」

「ふーんだっ!」

「それよりも、熱心にテレビを見ていたけど、何を見ていたんだ?」

「トータチス特集だよ?」

「トータチス?」


 テレビを見るが、そこには小惑星が地球に近づいてきているという報道というか特集で番組が作られたようで放送されていた。


「ねねっ! この小惑星って恐竜を絶滅させた小惑星よりも大きいんだって!」

「そっか。それは良かったな」


 テレビでは軌道的に地球に小惑星が落ちる可能性は0.5%以下になったと放送していた。

 そして、小惑星の規模や地球に衝突した際の特番が流れていたが――。


「こういう番組見ていて楽しいのか」

「お兄ちゃんだって、昔はよく見てたよね?」

「そうか?」


 覚えてないな。

 考え事をしていると、電話が鳴る。

 

「もしもし――。お兄ちゃんなら、さっき帰ってきたよ。お兄ちゃん、純也さんから」

「純也から?」


 一体、何の用事なのか。


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