第41話

「それはないだろ」


 俺は手首を鳴らしながら、都に答える。

 そもそもボーリングピンを粉々に破壊できるほどの力を一般の人間が出せるなんて、一般の人間は考えもしない。

 それよりも――問題は……。


「お客様、大丈夫ですか?」

「大丈夫です」


 俺は、極めて好青年のフリをして言葉を返す。


「そうですか。よかった……。本日は、レーンの点検を致しますので、申し訳ありませんが退館して頂いても宜しいでしょうか?」

「構いませんが――」

「ありがとうございます。それでは、本日のレーン代と靴代はお支払い致しますので――」

「あれ? え?」


 俺とボーリング場の店員の会話を聞いていた都が首を傾げていたが、これは当然の成り行きだ。

 

「都」

「――う、うん? あれ?」

「帰るぞ」

「う、うん……」


 都の手を引いて、返却してもらった靴代を受け取ったあとボーリング場から出る。

 もちろん都のマイボールとボストンバックも回収済みだが――、それよりも俺が気になったことがあった。

 大型ショッピングモール1階のカフェに入り、カウンターへと向かう。


「いらっしゃいませ」


 そうカウンターの女性が話しかけてくる。

 俺はコーヒーを注文したが、都と言えば不思議そうな表情で首を傾げている。


「都は、どうするんだ?」

「――え? あ……えっと! 黒糖ラテで!」

 

 二人分の飲み物を注文したあとは、ガラスで外と仕切られているテーブル席へと移動する。

 持ってきたコーヒーを口にしたあと、俺はジッと都を見るが、どこか落ち着かない様子の都。


「都」

「えっと! 困ったね! いきなりボーリングレーンというかボーリングのピンが壊れちゃて!」

「そうだな……。――ところで、どうして都は俺が弁償する事になるって言ったんだ?」

「え? わ、私……そんなこと……言ってないよ!」

「そうか?」

「うん!」


 俺はコーヒーを口にしながら、明らかに都が何かを隠しているということを察する。

 ただ――、問題は……、それを都に確認するのは躊躇われる。

 何せ、都が俺の真実の姿を知っていたら……。

 そして、何処まで知っているのか……。


 何かがあれば……、それは誰かから聞いたか、それとも――。


「――ならいいけどな」

「それより、優斗との勝負が有耶無耶になっちゃたね」

「有耶無耶になった方がいいだろう。どうせ、俺が勝っていただろうし」

「…………やっぱり、……優斗は少し変わったよね」

「そうか?」

「うん。すごく自信満々になったし、何か……」


 都は、そこで口を閉ざしてしまう。


「ううん。やっぱり何でもないの」

「何でもないならいいけどな。――で、今日は帰るのか?」

「ううん! カラオケにいこっ!」

「カラオケか」


 もしかしたら、都が何かしら口を滑らしてくれるかも知れない。


「また勝負とか言い出したりするのでは?」

「そんなことないよ!」


 ニコリと微笑んでくる都。

 どう考えても嫌な予感しかしない。

 

「分かった。約束したからな、今日は付き合うって――」

「うん! それじゃ行こう! 優斗!」


 千葉駅前のカラオケハウスに連れていかれ数時間、時間を潰したあとは千葉ポートタワーへ。

 最上階に上がったあとは、ぼーっと景色を見る。

 都は、外の景色にテンションが上がっているからなのか俺の腕を強く抱きしめたまま、外を見ている。


「ねえ……」

「――ん?」

「優斗は、優斗なんだよね?」


 思いつめた表情で――、しかも夕日に照らされ潤んだ瞳で俺を見上げてくる都。





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