コンバット・ザ・ビースト
Ray
プロローグ 星と獣と
エリクリアル星。それはこの広い宇宙に浮かぶ数多くの星の中の一つ。この星ではかつて、文明があり、人々が賑やかに暮らしていた。
しかし、ある時突然、戦争が起こった。今となっては、戦争が起こった理由もわからない。戦力は、数々の軍に分かれ、対立し合った。人々は争い、殺め、破壊した。
こうして、栄えていたこの星は一瞬にして崩壊してしまった。
その戦争は、今も尚続いているもう100年以上続いているであろう。最早何故自分等が戦っている理由など、皆忘れた。ただ、皆先祖が言った通りに動くしかないのだ。
文明が滅んだ後も、生き残った人々が子孫を残し、皆口々に同じことを言った。
敵軍を殺せ、と。
◆
時は現代、エリクリアル星━━━━
俺の名はルイネス・ロギアロード。皆んなからは「ルイ」って呼ばれてる。役職はスナイパー。自分で言うのもあれだが、射撃精度はかなりのものだ。一人物陰からスコープを覗き込み、相手の頭を撃ち抜いてやる。これが俺の仕事だ。
…一匹狼?とんでもない。確かに種族こそ狼だが、俺には頼れる仲間がいる。ま、それぞれ役職が違うから共闘することは少ないんだけどな。
…おっと、敵のお出ましか。相手は…敵軍の武装兵5人か。銃なんて構えやがって、小癪な。まぁ俺の射程圏内に入った以上は始末させてもらおう。
俺は弾倉に弾を込め、スコープを覗き、相手の頭に照準を合わせる。距離は600mと言ったところか。風向き、弾の落ち具合を考慮して…。よし、この位置だ。
俺はゆっくりと引き金を引いた。ライフルから放たれた弾は、相手の頭を見事貫いてみせた。
残りの敵は動揺し、何かを叫び合っているようだ。そりゃそうだろう。仲間の一人がとこからともなくやってきた銃弾に貫かれ目の前で倒れたのだから。
しかし、この場に留まれるのも時間の問題だな。相手はまだ4人残っている以上、俺がいる場所がバレるのも時間の問題だろう。
…いや、もう一人くらい始末しておいた方がいいかもしれない。スコープ越しに見たところ、あいつらは固まって動かないでいる。絶好のキルチャンスじゃないか。
俺は再び玉を込め、銃を構える。さっきと同じ様に照準を合わせ、引き金を引いた。
俺が撃った弾は、またしても相手の頭を貫き、そいつはその場に倒れ込んだ。へっ、あいつらの仲間、また騒いでやがる。
よし、そろそろ潮時だな。俺は気配を消しながらその場を去った。本部に戻り報告せねば。
本部とは何か?
この星では、数々の軍が存在する。俺が所属しているのは『エリク軍』という軍だ。どの軍も仕組みは割としっかりしている。細かく説明すると、複雑故に正直俺もよく分かっていないため、言わないでおく。まぁ取り敢えず、軍のトップに位置する存在が『本部』という認識で構わない。
…にしても、昔の人々は思いもしなかっただろうな。自分たちが建てた建物が今や戦場の場となっているなんて。
この星が栄えていた時代…。一体どんな感じだったんだろうか。俺が生まれた頃には既にこんな状況だったから想像に困るな。…まぁ、昔のことを考えても仕方がないか。さっさと本部に戻ろう。
◆
本部に報告を済ませた俺は、自室へ向かうため廊下を歩いていた。因みに本部はちゃんとした建物だ。と言っても、過去に作られたデカい建物をそのまま流用しただけなんだがな。本部の建物の中には寮部屋的なものもあるため、実質『本部兼寮』の様な感じだ。
『寮』…と言うよりかは『班』と言った方がいいのか。実は『軍』と一口に言っても、正確には幾つかの班により構成されている。俺が所属している班は『B3』という班だ。アルファベットはAからGまで存在し、数字は1から6まである。『A1』から始まり、『G6』で終わる。一班の人数は五人から七人程。『B3』は俺含め五人で構成されている。
…さて、部屋に着いた。他の仲間は帰ってきているのだろうか。もしかしたら俺一人だけかもしれない。
俺は部屋の鍵を開け、ドアを開く。
「ただいま」
「ん、おかえり」
俺の帰りを迎えてくれたのは、同班のアルドーラ・トライアブル。虎柄の猫獣人だ。俺は「アル」って呼んでいるが、他の人は「タイガー」と呼んでいる。しかし、本人はあまりその呼び方は好きじゃないみたいだ。
「アル、帰ってたのか」
「まぁな、ある程度殲滅してきたから」
アルの役職は前衛。簡単に言うと、前線に立ってどんどん敵を倒していく、という感じだ。後方から遠距離攻撃を行う俺とは対象的な役割だ。一番前に出て戦うため、かなりリスクを伴う役割でもある。
「怪我とかしてないか?」
「してねぇよ、相変わらず心配症だな」
アルが少し笑いながら答える。まぁ、怪我してないならいいか…。
「あ、そういや三人は?」
「まだ帰ってきてねぇよ、そろそろ帰ってくる頃だとは思うが」
その時、部屋の鍵が開いた。
「うい、ただいまー」
「お、噂をすればなんとやら」
「お、なんの噂?」
「丁度誰か帰ってくる頃かなって話してたんだよ」
今帰ってきた図体のデカい熊獣人が、同班のガイア・マーズレス。実はアルとは幼なじみの関係だ。
「え、まさか心配してたとか?タイガーちゃんにしては珍しい」
「お前妄想ヤバすぎだろ。あとタイガーは止めろ、ちゃん付けも止めろ」
「えーいいじゃんちょっとさぁ」
「お前これで何回目だと思ってやがる」
「5回とか?」
「片手で数えられたら苦労しねぇよ」
「…なんか、この面子だと俺がここに来た時を思い出すな」
「あーあん時か…」
「あれかぁ、懐かしいな」
◆
「今日から二人と同班になる、ルイネス・ロギアロードだ。よろしく」
「おう、よろしくな。俺、アルドーラ。アルドーラ・トライアブルってんだ。呼び方は好きにしてくれ」
「あぁ、よろしく。アル」
「お、アル。初めてその呼ばれ方された」
「え、他の奴は違う呼び方するのか?」
「あぁ、他の奴は━━━━」
「よろしくなールイ。俺はガイア。ガイア・マーズレスだ。こいつのことはタイガーって呼んでな」
「おい、話に割って入ってくんじゃねぇよガイア」
「いいじゃねぇかちょっとくらい」
「ちょっとどころじゃねぇよ今のは」
「タイガーって呼ばれているのか?」
「あぁ。見た目だけで判断しやがって」
「だってお前、パッと見虎じゃねぇか」
「どう見ても猫だろ」
「ルイはどう思う?」
「正直虎に見える」
「あ、裏切りやがったな」
「最初からタイガーの味方でもなかったと思うけど」
「あぁまたタイガー呼びじゃがってこのクソ熊が」
「お、やるか?俺の力舐めんなよ?」
「まぁまぁ落ち着けって…」
◆
「あれってどの位前の話だったっけな」
「三年位前じゃね」
「はっや、もうそんなに経つのかよ」
「あん時はまだ三人しかいなかったんだよな」
「そっか、あの二人が来たのはもうちょい後の話か」
三年、か…。もうこいつらとそんなに一緒にいるんだな。
…俺がアルに対して恋心を抱いてからも三年経つのか。
…そう、俺はアルに恋心を抱いている。きっかけは正直覚えていないが、無意識にアルのことを目で追っていたり、アルのことを考えるだけでやたらドキドキしたり、正直、予兆は数え切れないほどあった。
そんな時気づいたんだ。俺、アルのことが好きなんだって。
そもそも、俺はガキの頃から女性に対してあまり興味がなかった。正確には恋愛的な目で見れなかった。周りの奴等が異性に興味を抱いていくのに対し、俺は異性ではなく、同性に対して興味を抱くようになった。
当時の俺は、戦争続きのこの現実のせいで自分が狂ってしまっているのだと考えていた。しかし、いつまで経っても同性への興味は消えてくれなかった。それどころか、寧ろ興味が加速していった気がする。
その加速が行き着いた先がアルだった。
「おーい、ルイ?」
「……」
「おい、ルイ、起きてるか?」
「ん、あ、ごめん。考え事してた…」
「そっか、悩みあったら言えよ」
「やめとけ、タイガーに相談したところでロクな回答帰ってこねぇよ」
「うっせぇなこの野郎」
悩み、か。言えるわけ…ないよな。こんなこと。俺が…同性を、アルのことが好きだなんてさ。
でもいつか、何時になるかは分からないが、言える時が来たら…。
俺はその時、ちゃんと気持ちを伝えられるのかな…。
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