第14話 天野さんと小説執筆

俺は画面に向かいながらキーボードを叩く。

今は文芸部の活動中だ。

ちらりと隣を見ると天野さんも同じようにキーボードを叩いている。

俺がちらりと画面を見る。

天野さんは気にする素振りもなくそのままキーボードを叩いていた。

内容はサスペンスものだった。

ある日、学校で女子更衣室に監視カメラが仕掛けられていて、犯人が主人公だと思われ、身の潔白を証明するようなものらしい。

天野さんは俺のほうをちらりと見ると

「私の見たんだから緑川君のも見せて」

と言ってくる。 

別に見せても問題はないのだがいかんせん恥ずかしい。

顔も知らない人に見られる分には何も思わないんだがそれが顔の知った友達となるとなぜか恥ずかしくなる。

俺は「完成したらね」とごまかし画面を手で隠す。

天野さんは「けち~」と言いながら自分の画面に向き直った。


天野さんは俺とは正反対で、自分の書いている小説を見せてくれ、そしてアドバイスを求める。

俺が天野さんの小説を読んで、感想を求められる。

今読んだシーンは、主人公が自分が犯人じゃないという証拠を見つけ、それをクラスのみんなに見せようとするシーンだ

「いやぁ、バッドエンドみたいな終わり方にしようかなぁって思ってて、どう思う」

と天野さんが俺に聞く

「え?主人公の潔白が証明されて終わりのハッピーエンドじゃないのか?」

俺は思っていたことをそのまま言う。

てっきりそうだと思っていた。

「いやぁ、主人公は最後まで犯人と決めつけられたまま終わるっていう終わり方にしようかなぁって」

この天野さんの小説は最初から途中までもずっと主人公が犯人と決めつけられ、悲しい描写が多い。ずっと暗いままだ。

なので最後ぐらいは明るくハッピーエンドで終わるものかと思っていた。

そもそも天野さんは明るい作品しか見ないイメージがあったから意外だ。

ちなみに俺は暗い作品が結構好きだ。こういう感じの作品も大好きだ。

「でもそれって多くの人に受けないんじゃないか?」

俺は思ったことを口に出す。文芸部が書いた小説は大体文化祭に出されるかネットの小説投稿サイトに投稿されるかだ。そしてたまにどこかの賞に応募する。

俺はみんなが面白いと思う小説を書きたいと思って書いている。そしてみんなそうだと思っている。

だが天野さんの小説は多くの人が苦手にする感じのやつだ。

「ちっちっち、違うんだよなぁ」

天野さんはこちらを見ながら右手人差し指を左右に振る。

「みんなが読みたい、面白いという小説を書きたいんじゃないんだよ」

天野さんは間を置いて

「誰か一人にとても面白いと思ってもらえばいいんだよ、実際に緑川君はこういうの好きでしょ」

「まぁ確かに」

俺は天野さんの言葉に納得する。

天野さんは言うだけ言うと満足したのかもうっ回画面に向き直った。

そして俺も画面に向き直った。



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