『トイレが捻れるとき』

N(えぬ)

トイレが動くのか あなたが動くのか

「しっかり、一歩前に出て用を足してください」

「正しい姿勢で、深く腰掛けてください」

「あとから使う人のため、清潔に使いましょう」


そんな生やさしいお願いでは何の効果もないということを長年の経験で便器は知っていた。

どうすればこうなるのか?という状態にする人間がいることをその身に嫌というほど解らせられた。


ある日、長い年月の末に魂を宿した便器は、答えを見つけ、それを実行にうつした。


「うぉ?」

用を足しに来た男が声を上げる。彼の体は便器の脇から出て来た無数の腕で抱きかかえられ、もう「外れ」様がない姿勢で便器に押さえ込まれた。


だが、魂を宿した便器はそんな優しい奴だけではなかった。

きちんと狙い澄まして正しく使う人間を恐怖に陥れる便器が現れたのだ。


「な、なんてこった。この便器、体を拗って避けるぞ」いくら便器のど真ん中を狙っても右に左にと便器は巧みに身をかわす。

男は思わず呻った。

「クッソーっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『トイレが捻れるとき』 N(えぬ) @enu2020

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ