先輩と二人だけの部室

 俺の体が二つになってしまう所だった。

 危うく死にかけたが、同じクラスで学級委員にして、オカルト研究部の部長『田村』さんに助けて貰った。


「鐵くん、大丈夫?」

「あ、ありがとう……田村さん。おかげで分離しないで済んだよ」

「うん。桜坂さんも篠原さんも気を付けてね」


 釘を刺される二人。

 学級委員に注意されてしまい、恐縮していた。でも先輩はひとつ上だから実は関係ないんだけど、気づいていない。それから、先輩も篠原も申し訳なさそうに頭を下げる。俺に。



「ごめんなさい、鐵くん」

「ごめんね、紗幸くん」



「大丈夫です。それより、どうするんです?」



 みんなで仲良くという手もあるが、なんだかそんな空気感でもなかった。となると――俺が決めるか? いや、それはキツすぎる選択だ。ここは二人で決めて貰うべきだ。



「じゃあ、ジャンケンにしましょ」



 篠原が提案する。

 なるほど、それは名案にして公平だ。



「わ、分かりました。篠原さん、恨みっこなしですよ」

「いいですよ、先輩。あたし、これでもジャンケンは強いですよ!」

「ま、負けませんっ」



 二人とも一歩も譲る気はない。

 メラメラ燃え、その熱気が伝わってくるようだった。なんて熱さ。激アツだッ!



 先に篠原が「じゃんけん……」と言葉を発し、次に先輩が「ぽん」と締めた。その結果…………!




 先輩:グー

 篠原:チョキ




「やったああああっ!!」



 大勝利に飛び跳ねる先輩。

 まさかの先輩が勝利。



「うそ~!! 負けた事なかったのにい……」



 がくんと項垂れる篠原。

 可哀想ではあるが、勝負は勝負。しかも、じゃんけんを提案したのは篠原である。



「篠原、今日はすまないがクラスの女子とよろしくやってくれ」

「……うぅ、悔しいなぁ。明日は勝つからねッ!」



 ガチで悔しそうに唇を噛み、教室に戻る篠原。どんだけ俺とお昼したかったんだ。でも、ちょっと嬉しくもあり、惜しくもあった。まあ、今後のじゃんけんに期待しよう。



「じゃあ、行きましょうか」

「先輩、どこでお昼にします?」

「もう決まってるの。ついてきて」


「ほ~、どこだろう」



 期待に胸を膨らませていると、先輩が俺の手を握った。……うぉッ。先輩から手を繋いできた。あまりの不意打ちに俺は心臓がドクンと高鳴った。これはズルい……。


「鐵くんの手、大きいね……」

「……せ、せんぱいは手が小さくて柔らかい」

「このまま行こう」

「は、はい……」



 俺は今、最高の幸せを感じていた。


 お互い顔を真っ赤にして廊下を歩く。辿り着いた先は学校の二階の隅にある『ボードゲーム部』だった。



「ここなら二人きりだから」

「先輩ってメイドだけど、実は引っ張ってくれるタイプなんですね。最高っす」

「も~、揶揄からかわないでよ~。でもそうかも。わたし、鐵くんを引っ張っていきたい」


 ええ、ぜひ引っ張ってください。

 引っ張っちゃってくださいッ。


 寧ろ、もっと縛ってくれ!

 先輩から束縛されたい(願望)。



 なんて欲求は心に留めておき、パイプ椅子に腰掛けた。先輩も隣に座る。かなり近い距離に。



「あの、先輩。俺、お昼は何もないんですけど……」

「大丈夫。わたしが作っておいたから」

「お弁当を作ってくれていたんですね」

「うん。おにぎりとか簡単なヤツだけど」



 そっか、だから朝早くから起きていたんだ。感心していると、テーブルに『おにぎり』と『卵焼き』、それに『ウィンナー』が添えられた。スタンダードな母親お弁当セットだけど、うまそー!



 先輩は割箸を割って、卵焼きに箸をつける。それを俺の口元へ。



「はい、あ~ん」

「先輩っ、ありがとうございます! あ~ん」



 ……ぱくっと味わっていただく。



 美味すぎて涙が出た。

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