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俺は今日、犯罪を犯すつもりでここに来た。二年間付きまとっていた女性を、ついに俺のものにするために。
君の涙を人差し指でそっとすくう。俺の指先に、大きな水溜りができた。
「あなたが私に付きまとっていたのはずっと前から知ってたわ………こんな風に愛情たっぷりな愛撫をされたのは初めてだった。ありがとう、ストーカー君。遺書はそこの箪笥の一番上の引き出しに入ってるから、私を殺したらテーブルの上に置いといてね。」
それが君の望みなら………それが俺の愛する君の願いなら、俺は叶えてあげるべきなのか?
「俺が原因か?君が死にたいと思うのは。」
「ううん、違う。私ずっともう何年も……上司からセクハラを受けてたの。そのお陰でリストラを免れた私は同僚から陰で淫乱女呼ばわりされてた。私がこの世に存在している意味なんて、無いの。誰も私を必要としてない。」
「俺には君が必要だ。君の居ない世界に俺の存在する意味なんて無いよ。本当だよ、信じて。君がどうしても死にたいのなら、君を殺した後に俺も死ぬよ。」
「………ダメだよ、私の為に誰かが傷つくのなんて、ダメだよ……」
「黙れ…………!!!」
君は俺のものなんだ……そんな君がさ、勝手に死のうだなんて許さないよ。君の命は俺のものなんだから。その苦しみも、涙も、全て…………。
怒りが込み上げてしまって仕方が無いよ。俺の物であるはずの君が、どこぞの男に弄ばれていたなんて、そのせいで、俺の愛する君が死にたいと思っていたなんて。
許せないよ。そんな君の苦しみを、俺は何も知らなかったなんて。
「お願い、殺して…………」
………もう、何も言うな。悲しい事しか言えないその口を、もう開くな。
俺はそう心の中で叫び続け、その弱々しく可哀そうな君の口を自分の口で必死に塞いだんだ。俺に首を絞めさせようとしたその華奢な憎い手と、この手をしっかりと絡め合わせたんだ………。
散々君のことを追い回していたストーカーからこんな事を言われても、嬉しくなんてないだろう。………気持ちが悪いだろう。だけど、言わせてくれ。
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