第10話 帰り道
「せ、せんぱい? 大丈夫ですか?」
日が傾き始めた頃、校門で待っていた白鳥さんと合流した。僕はフラフラとした足取りで、産まれたての小鹿のようになっていた。
白鳥さんが教室に来たことにより、僕は暴徒と化したクラスメイトからボコボコにされた。そして今に至るというわけだ。
彼らに手加減などなく、太ももや背中にはアザができている。
「う、うん。顔にアザができてないだけマシだと思う……」
あいつら、絶対に見えるところは殴らないつもりだな。というか、まだリア充な訳でもないのになんでここまでするんだよ……
本当にこの先一年が不安でしかないが、まあ楽しくは過ごせそうだ。
「私、行かない方が良かったですか?」
「うーん、またボコされそうだね」
「あの様子だと……そうですね」
普通、会って一日のクラスメイトにボコボコにされることなんてあるのだろうか。
「そうしたらさっきみたいに校門で待っていますね!」
「うん、その方が助かる」
とりあえず今週くらいは、白鳥さんが迷子にならないように一緒に帰ろう。別に部活に入っている訳でもないし、ハルも何かやっているようだし。
「それで、白鳥さんはどう? 花の女子高生一日目は」
「そうですねー、早速友達は出来ましたよ」
白鳥さん程のコミュ力があれば初対面でも友達の一人や二人くらいなら、すぐできるだろう。そのコミュ力が羨ましいかぎりだ。
僕はといえば、初日からボコボコにされるほど嫌われたようだ。こんなに可愛い後輩がいるから仕方がないと割り切ることにしよう。
「せんぱいは……きっと仲良くできますよ!」
「アイツらと仲良くしたら命がいくつあっても足りない気がするけどね」
そんな文句を垂れながら並んで帰っていると、まるで彼女のように感じてしまう。特に帰る場所まで一緒、ということに違和感が凄い。
彼女はどう思ってるのかと思い、白鳥さんの方を向く。
「せんぱい? どうかしましたか?」
キョトン、と音がなりそうな様子で不思議がっている。こうしてまじまじと顔を見ていると、知らなかった部分が見えてくる。
例えば、長いまつ毛やシワひとつない白い肌。よく手入れをしているんだなと感じさせる彼女の顔を見ていると、なんだか不思議な気分になってくる。
どこか懐かしいような、それでいて新鮮というか。自分でも気持ちがまとまらないので考えるのをやめよう。
「せんぱーい、私の顔になにか付いてます?」
「ああ、ごめん。綺麗な顔をしているな、と」
僕がそう言うと、一気に白鳥さんの顔が耳まで赤くなる。
あ、ワンチャン告白にも捉えかねないようなことを言ったな。
「せせせ、せんぱい! 急にどうしたんですか!」
「いや、本当のことを言っただけなんだけど……」
「……!」
フンフンと顔を横に振って、白鳥さんは手で顔を覆ってしまった。
嬉しいのか恥ずかしいのか。言った当人の僕は、恥ずかしがるタイミングを見失ってしまった。
と、いうか白鳥さんの反応が可愛すぎて見入ってしまっていた。
「ほら、みどり荘も見えてきたから。そろそろ前向いて」
「誰のせいだと思ってるんですか……!」
そうして僕達は敷居を跨ぎ、家であるみどり荘に帰ってきたのだった。
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