第61話
「霜崎!大丈夫か!」
「ああ!」
イラの腕が弾かれる。
ダメージを負ってくれたかはわからない。
でも、僅かに隙が生まれた。
ここだと言わんばかりに刀を振るう。
ガンっ!
しかし、刃は通らない。
イラの表皮と俺の刀の間で火花が散る。
「剣に鞘つけた状態で俺が斬れるかよ!!」
弾かれた手は無傷。
もしくは、瞬時に回復された。
その手は凄まじい魔力を込めた拳を作りだす。
「はぁあああああ!!」
横から薙刀の刃をがイラへと突き刺さる。
だが、同じように火花が散り、表皮で刃が止まっている。
「かてぇな畜生が!!」
「効かねぇよ!!」
「そうかよ!!」
薙刀の柄が半分に割れ、二振りの剣になる。
しかし、イラの攻撃は二本も武器があっても防ぎきれない。
振りかざされる腕目がけて俺は刃を振り下ろす。
少しでも威力を下げようと持てる全ての力でイラの魔力を吸収。
ズキッ!!
「……ッ!」
僅かに右腕に痛みが走った。
それと同時に不思議と魔力量が増大する。
一瞬のうちで吸収した僅かな魔力と増大した魔力を刀に流し込むと僅かにイラの表皮に刃が食い込むのを視界で捉えた。
斬れる!!
「鬱陶しいんだよ!」
しかし、振り上げられた腕は気にする素振りもなく俺の顔面を撃ち抜いた。
一撃で意識が飛びそうになる程の攻撃。
体は宙に浮く程の威力だが顔の骨が砕かれた感じはしなかった。
確実に威力は落ちている。
地面に体が接する時うまく受け身で転がりダメージを最小限に抑えた。
「てめぇが1番最初に死ね。女ぁあああ!」
「やってみろ!カス!!」
私が使用できる限界の武器強化魔法をこの二本の剣に付与した。
そして、目に魔力を集めて動体視力の強化。
防御に徹すればある程度持ち堪えられるはずだ。
でも、コイツから感じる魔力はやばすぎる。
そんなにもたねぇぞ、四谷!
連続、何十にも重なった音が響く。
火花も瞬きの間に同時に何十個も咲かせた。
相手は素手だ。
しかし、ガタが先に来るのは自分の剣を見るまでもなく私だ。
「おおおおおお!!!」
俺は全ての魔力を右手に乗せて、イラの顔面に放った。
新垣に集中していたイラに対しての完全な不意打ちだ。
増大した魔力も全て込めた一撃はイラをビルの壁面に叩きつける。
しかし、土煙が上がって僅か一瞬でイラは体制を立て直して、土煙から凄まじい速度で飛び出す。
「クソどもがぁあああ!!」
イラの表情が今までにない程の剣幕になり、更に魔力が上昇したのを感じた。
完全にイラがブチギレた時の表情だ。
……アレ、なんで--
俺はコイツの表情を--
「葵!霜崎!」
四谷の声が響く。
はっと意識が我に帰る。
四谷の手には今までに感じたことのない魔力量を持った青い弓矢が引き絞られていた。
「霜崎。」
その声と僅かなアイコンタクトでこれまでの短い付き合いだがやりたい事を頭の中で瞬時に新垣達がやりたい事を理解し、同時に走り出す。
俺の仕事は一瞬で良いからイラの動きを止める事だ。
刀に魔力を込め、龍衝を発動させる。
イラを深々と切り裂いた程のものじゃない。
でも、十分な威力は持っていると確信している。
僅かにでも動きを止めるのなら狙いは足。
下段に構え直し、地面スレスレの位置に刀を構え、姿勢を低くし、更に加速をつけた。
「はぁああああ!!」
振るった刃。
しかし、狙いがやはりバレている。
イラは飛び、刀をやり過ごす。
「馬鹿が!」
目線は完全に俺に向いている。
だから、背後に飛んでいる新垣の存在にイラは気づけていない。
新垣が鎖付きで一刀の剣をイラの脇下を通し、その剣は俺の左手に収まった。
そして、魔力を全て足に込めてイラの間合いから外れ、それと同時にイラの体に鎖が巻きつく。
「今だ!傑!!」
新垣が叫ぶのと同時に濃い蒼天にも似た色を持つ弓矢がイラに向かって放たれた。
そして、深々と刺さるのと同時に青い鮮烈な光を挙げて弾け飛んだ。
ジャラジャラと新垣からもらった剣に付いている鎖は砕けた状態で地面に垂れ下がり、周りから弾け飛んだ鎖の破片が音を鳴らして地面に落ちていく。
そして、次に響いた音はそれ以上の爆発音と生々しく粘りのあるような肉と血の滴る音だった。
「……え?」
イラのいた場所に浮遊していた土煙は跡形もなく消し飛んでいた。
目線はただ、音のあった方向へ向いていた。
弓が地面に落ちる音。
「ぁぁぁ--」
四谷の腹にイラの手が貫通している。
目の前に映る情景に思考が追いつかない。
ただ、覚えのある風景と感じた。
頭に痛みが走る。
あのゲートの中での出来事をまた見せられていると感じた。
「ぁあああああ!!」
新垣がイラに飛び込んでいく。
怒りの声を滲ませて、刃を振りかざす。
しかし、四谷の腹から抜かれた血に濡れた拳で新垣の脇腹を撃ち抜いた。
新垣はビルの壁面に叩きつけられ、意識を無くしたのかその場に倒れ込んだ。
……ダメだ。
やらなくちゃ。
頭の中に直接鎖が叩かれるような音が響く。
ガンガンガンガンとうるさくなっている。
本能が見てはいけないと叫ぶ。
だが、意識はその先に鎖の向こうに何かがあると感じている。
パキッ……。
鎖にヒビが入ったような音が鳴った。
それと同時に魔力が溢れる。
だが、まだ足りないと意識が言う。
記憶がその先に力の扱い方があると。
……俺はただその鎖を引きちぎった。
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