第58話
おっと、もう終わってしまった。
液晶パネルに映し出されていた、戦いはとても白熱していた。
本来の目的を忘れてしまいかけるほどに充実した時間。
楽しい時間はどうしてこうも早く流れてしまうのだろうか。
『目標を確認した。』
『ペルビア。始めろ。』
リティアの声とイラの声が頭の中で響く。
早く、作戦を開始しろとイラが声音で訴えかけてくる。
グーラの霊章保持者を見つけ、早く叩き起こしたいと焦っているのだろう。
リティアも手に入れたい魔法を持つ心君を目の前にしてウズウズしている。
今までは近くに黒田がいるかも知れないから逃げていたが今回は大丈夫だからどこかソワソワしている雰囲気だ。
青白い自分の髪が視界に入る。
気になり長く伸びてしまった髪を後ろで一本に縛り、会場の外へと足を運ぶ。
『一応言っとくけど今回はエシーの霊章を使わず黒田を抑えられるかどうかの実験。
すぐに結界が壊されても文句は言わないでよ!』
『わかったから早くやれ!』
「はーい。」
グダグダ言わずに早くやれと怒られてしまった。二年ほど自由行動させてもらったツケなのか。
だから、今回は気合を入れて行かなければいけないと言う人並みの責任感は感じる。
「いっくよぉお!! よーい、ドン!!」
私の体から青く光る文字が無数に会場中に巡っていく。そして、会場をドーム状の光の壁が覆った。
私の中でも最大級の結界魔法だ。
「お願いだから、破らないでよ!」
そう念じながらより一層強く魔力を結界に込める。
***
戦いが終わった音が鼓膜に響く。
高城さんにやられずに終えられたがどうやら負けてしまった。
手足に灯していた炎を消し、一息つく。
「ありがとうございました。
とても、戦い方の勉強になりました。」
「いえ、こちらこそ。」
そう言って握手を交わした。
今回の戦いで俺がまだS級の強さに差し掛かったばかりだと思い知らされた。
このまま、戦っていたら俺は負けていたとすら思う。
やるべき課題は山積みだ。
「ふぅ……--」
一つ息を吐いた。
疲れたからだろう。
無性に肺に空気をいっぱい入れて吐き出したくなった。
それで、不意にビルの上に視線が言った。
日が傾き始めていて、視界に日光が差し込み目を細める。
人影……。
ビルの上に誰かいる。
僅かな人影だったがなんとか認識できた。
そこらへんの建物の中には最低限の応急処置ができる人がいると聞いている。
だから、その人達だろうと思った。
でも、どこか胸がざわついた。
息が詰まりそうなほどの感覚。
「……えっ?」
無意識にグローブと靴に雫の魔法であるオレンジ色の魔力の光が纏う。
そして、だんだんとそのビルの上に立つ銀色の長い髪色をした男へとフォーカスが合っていく。
感覚が研ぎ澄まされていく。
ああ……見つけた。
そう思った時には俺は手と足に全開の魔力を流して、高速で飛翔していた。
「久しいな。心とやら。」
どこまでも憎たらしい澄ました顔。
雫がこいつの魔法で消えていく姿が脳裏に描かれていく。
「ぁあああああああ!!」
右手に全力の炎を灯す。
限界まで加速した速度と最高の一撃。
だが、その一撃は空を切った。
自分でも空を切った理由はわかっている。
打ってからゾクリとした嫌な予感で頭が冷静になっていく。
怒りで安易に安直に攻撃をしてしまった。
男の右手が首筋に向かって伸びてくる。
避けないとあの手には触れてはいけないと本能が叫ぶ。
だが、限界まで加速していた体は言うことを聞いてくれない。
やられるとそう思った。
バチッ--!
そんな音が鼓膜を叩く。
俺と銀髪の男の手の間に剣が入り込む。
「貴方、何者ですか?」
「……ほう。速いな。」
高城さんがそう質問しているがその間にも左手が高城さんに迫る。
触れる前に上体を捻って、鞭のようにしならせ炎で加速させた蹴りを男の肩に叩きつける。
手応えがあったがまるで鋼鉄な何かを蹴ったような感覚。
魔力で完全に防御されたのだろう。
「……ッ。」
状況判断が出来るほどには頭が冷静になった。左手で高城さんを抱えて右手と両脚の炎を噴射して一旦距離を取る。
「あの手には触れるな。
なぜかはわからないが危険だ。」
「……わかりました。
ところであの人は何者なんですか?」
「アイツは一年前の都市消失事件の主犯だ。」
「……ッ!」
一時はこのニュースで持ちきりだった。
知らない人はいない事件。
これだけでアイツは危険だとわかるはずだ。
高城さんの援護を期待して、攻められればこの魔力を消費した状態でも戦えるはず。
黒田先生が来るまで時間を稼ぐ。
高城さんを地面に置き、もう一度銀髪の男に向けて飛翔する。
今度は安直な攻撃ではなく真正面からの攻撃に見せかけ、目の前で瞬間的に加速し、背後を取る。
後頭部に向けて右足を打ち出す。
しかし、目の前から男の姿が消え、腹部に衝撃が走った。
「蹴りとはこう打つものだ。」
「ガハッ!」
腹部にめり込んでいく銀髪の男の足。
衝撃で吹き飛ばされて、ビルの中に飛び込む。無人都市だから中には何もなく誰もいないこの場でホッとする。
巻き込まれる人が誰もいないから。
だから、目の前の男にただ視線を向けることができる。
この都市を焼き散らしてでも目の前の男を倒すと誓って立ち上がった。
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