第57話

耳につけている機械からどこかに繋がった音、僅かなノイズ音と風の音が鳴る。


『霜崎だ。火蓋さんと岩倉さんを倒した。

このまま、魔石の破壊に向かう。』


格上相手に勝ってなんて声で伝えてんだ。

とても、朗報を伝えるような声のトーンではない。疲れ切った声。

もっと喜べよと思いながら木の根とツルを斬りつける。


「どうする?このまま、時間稼ぎして霜崎が魔石を砕くまで待つか?」


少し挑発気味の声のトーンで葵が話しかけてくる。言いたい事はわかる。

このまま、心みたいに先に行かれていいのかとそう言っているんだ。


「いいや。一気に畳み掛ける!

火蓋さんと岩倉さんが戦闘不能になったなら上代さんを倒した先には誰もいない。

この人を倒せば俺達の勝ちだ。

全ての魔力を出し切るつもりでやるぞ!」


「了解!!」


俺もこの一瞬で全てを出し切ろうと、両手の短刀に持てる全ての魔力を込める。

黒い短刀がひび割れていき、青い光を放ち、黒いメッキは剥がれ、内側の青い短刀が姿を現す。


「行くぞ!」

「おう!」


大地を踏み切り、神城さんとの間にある木の根とツルは何の抵抗力も感じずに切り伏せられた。襲ってくる物も一振りで真っ二つに割れる。

葵も相当武器に魔力を込めたのだろう。

次々と木の根とツルを切り伏せていく。

再生速度よりも切り伏せていく速度を上回らなければ上代さんとの距離は縮まらない。

息つく暇もなく両手を動かし、後ろに向かって地を蹴り続ける。


あと少し!


木の根とツルの間から僅かに日光の光が差し込む。だが、ここで最初に青い短刀に注入した魔力が尽き始め、灰色へと。

最後の一息だと魔力を込める。

先程よりも強く青い光を放っていると感じられるほどに眩く光を放つ。

光だけじゃなく、硬度も先程よりも数段上と感じられる。

だが、もう後はない。

葵に全て任せてぶっ倒れるのも一考だと思った。

青い短刀が光を放ち、その形を変えていく。

青い短刀は刃渡り70センチ程の長さまで刀身を伸ばしていき、青い刀へと姿を変える。


「ぉおおおおお!!」


たったの一振りで何回もの手応えが手に伝わる。その後に発生した衝撃でも木の根とツルが何本か切れた手応えもあった。

だが、もう一振りは必要だと刀を振るう。

景色が晴れる。

上代さんが視界に捉える。


「葵!!」


「任せろ!」


一気に駆け出して、薙刀を上代さんの胸元に向け突く。しかし、上代さんは短刀を取り出し、それを防ぐ。


「は?」


火花が光、瞬きした瞬間だった。

私の体をツルが巻きついている。

指先一つですら動かす事ができない程に巻きついている。


「クソッ!」

上代さんの短刀からツルが伸びている。

接触した瞬間にツルを伸ばしたのか!

大地から伸びてくる木の根とツルからこれぐらいの速さで囚われることを想定しておくべきだった。

私の完全な失態。

でもまだ、傑がいる!


葵を死角にして、背後から飛び出す。

刀は魔力が持たず、短刀に戻っている。

だが、短刀である条件は同じ。

しかし、葵を捉えたツルの攻略方法がわからない。

あのツルはおそらくどこに刃を切られそうな場所からツルを伸ばして、縛ってくるだろう。

弓に切り替えるべきだったか?

いや、弓を取り出しているコンマ数秒さえも惜しいこの僅かな時間。

迷うな! 振りきれ!!


「身体強化魔法が切れかかっている状態でやるべき特攻じゃなかったね。」


「……ッ。」


分かっていた結果だ。

全身をツルで固定されている。

魔力切れで短刀も色をなくして、空気中に溶けて消えていく。


「もう一人いたら勝てたかもね。」


上代さんは肩を叩き、そう言い残して俺達の魔石がある方へ走っていく。


「上代です。四谷さんと新垣さんを拘束。

私はこのまま、魔石の破壊に向かいます。

他の状況報告の応答を願います。」


そう、無線機に向かって語りかけるが返答してくる様子はない。

光さんは心君と戦っているからわかるが私の花を潰していたD級の霜崎君を倒しに向かった二人は何をしているのだろうか?

もう、終わってもいい頃合いかもっと早く肩を付けていてもおかしくないはずだ。

やられてしまったのかとそう頭によぎる。

どちらにしても破壊を急いだ方が良いと身体強化魔法を掛けて走り出す。


***


誰からも返答はない。

一人でなんとか、敵の魔石の前に来た。

周りには誰もいない。

この青い石を砕けば俺達の勝ち。


「……ふっ!」


一思いに刀を振るう。

魔石が粉々に砕ける音が鳴り響き、破片が飛び散るだろうと覚悟した。


「なっ--!」


魔石の周りを木の根とツルが巻きついている。恐るべき硬度。

刀は火花を散らし、弾かれる。

歯を食いしばり、なけなしの魔力を振り絞って刀に込めてもう一度振るうが結果は同じだ。僅かに切れ込みが入るだけ。

魔力は吸収しているから何度も切りつけていけば俺の魔力はある程度回復して、いつかは切れる。

だが、そのいつかまで待っている余裕なんてなかった。

刀を置き、拳に魔力を込める。

打撃による衝撃なら割れると踏んだから。


「だぁああ!!」


ビシッとひび割れた音が鳴る。

割れると思った。しかし、ヒビが全体に入る前にひび割れが止まる。

もう一撃で割れると拳を振りかぶった。


『ただいま、クローズワークスの魔石が破壊された事を確認しました。

今回の結果はゲート・カーの勝利です。』


虚しく、その言葉が鼓膜を揺らした。

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