第44話

大きなパーティー会場。

色とりどりとな飲食物が沢山置かれている。

そして、一番前の舞台の上で恥ずかしそうに話しているのが皆んなのいう心と言う人なのだろう。

高城光の記録を塗り替えた最速のS級到達者。


「全然強そうにみえないでしょ。」


「天道さん……。

はい、思っていたより失礼かもしれませんが弱々しく見えます。」


最強の炎魔法が扱えると言われるほどのおよそ覇気と呼ばれる物は何も感じない。

年齢相応の人物像。


「でも、四谷と新垣の話から凄い人なんだと言う事は知っています。」


ひとしきり活動記録を言い終えると舞台から降りると多くの社員が集まっていく。

その中に、四谷と新垣も楽しそうな笑みを浮かべて話し合っていた。


「天道さんは行かなくていいんですか?」


「人混みは嫌いなの。

話したい事は後で言うわ。」


「白菊さんと小豆畑さんはどうしたんですか?」


「白菊君はほら、あそこの席で食事中よ。」


小柄だが相当食べるのだろう。

テーブルにはこれでもかと食べ物が置かれている。肉体を削る魔法なだけあって相当食べなければいけないとは聞いていたが。


「小豆畑君は……」


「心!!」

人混みの中から一際大きな声が響き渡る。

他の人達を退けて心さんを担ぎ上げた。


「胴上げをまだしてないよなぁぁ!!」


「いや、そんな、していたぁぁぁ!!」


悲鳴をあげて高々と空を舞うS級ハンター。

遠目からわかる程に涙と鼻水まみれの顔を浮かべている。

それを見て、社員達が集まり、小豆畑さんを中心に胴上げをし始める。


「あっちはなんだか盛り上がっていて楽しそうですね。」


「ええ、そうね。」


「……ありがとうございます。」


天道さんはこの新人社員には混ざり難い空気を察して俺のところに来てくれたのだろうと思った。

本当は心さんと話したい事が沢山あるのではないかと不安が胸の内で疼く。


「ん?何か言った?」


「いえ、すいません。

お手洗いに行ってきます。」


少し空気を入れ替えようと盛り上がる会場を背に向けて会場を出た。

何か飲み物が欲しいと同じ階にある、自動販売機コーナーに足を向ける。

廊下を歩き、角を曲がった。


「あ、日和さん。」

自動販売機コーナーのベンチで座る同じく時期に入った女の人がいた。

缶コーヒーを持って疲れた顔を浮かべている。


「霜崎さん。

どうしたんですか?」


「少し、別の空気を吸いたくて。」

本当なら先輩社員に挨拶しに行くべきなのだろうがそう言う空気ではない。

それに何処となく馴染めない空気感。

まだ、自分がこの会社に馴染めていないのだろうと思い知らされる。


「それより、言い忘れていましたがクローズワークスへの入社おめでとうございます。」


「いえいえ、霜崎さんこそおめでとうございます。」


「あの日、助けてくれた日に初めて日和さんが入社していた事を知って驚きましたよ。

なんで、教えてくれなかったんですか?」


「ははは、社内で会って驚かせたかったんですけど会う機会が無くて。言いそびれてました。でも、そう言う霜崎さんも急にいなくなったじゃないですか!!」


「お、俺はもしかしたら夢かもしれないって思ってて……。勘違いだったらなとか。」


ムスッと日和さんの眉間に皺がよる。


「私より理由が酷いじゃないですか!

しかも、それから連絡一つ寄越さないのはどういう事ですか!!」


「いや、ははは……。忙しくて。」

この会社に入社できる現実に受け入れきれなくて連絡なんかすっかり忘れていたなどと命の恩人に対して口が裂けても言えなかった。


「そう言う日和さんも連絡してこなかったじゃないですか。」


「私もほら、忙しかったの!」


「同じじゃないですか。」


プッと二人揃って吹き出して、自動販売機コーナーから笑い声が溢れた。

お互い様だとそれが面白おかしくて笑った。


「おや、二人の姿が見えないと思ったら揃ってこんなところで。」


道門さんが角から姿を見せた。


「道門さんはもういいんですか?」


「ああ、もう十分楽しんだよ。」

自動販売機に硬貨を入れて、コーヒーを三本取り出した。


「おや、すまない。

もう既にコーヒーを飲んでいたか。」


「いえ、ありがたくいただきます。」


道門さんは日和さんと俺にコーヒーを一本ずつ渡し、日和さんから飲み終わった缶を受け取り、ゴミ箱に捨てた。


「二人とも調子はどうだ?」


「楽しくやらせていただいてます。」

「私も楽しくやってます。」


「そうか。それは良かった。」

道門さんはホッとしたような肩を撫で下ろすと缶の口を開けてコーヒーを飲む。


「道門さんは最近何されているんですか?」


「私は古い仲間達とゲートを回っているよ。

ただ、最近はやはり歳が来て、仲間内でヒーヒーと嘆いてばかりいるよ。

そろそろ、引退の時期だよ。」


「道門さんの実力ならまだまだいけますよ。

私なんか3人についてくだけで精一杯なんですから。回復役だから3人の後ろに隠れてばかりで……。」


「でも、白菊君達が霜崎君たちの訓練に付き合っている間、他の人達とゲートを回って体術の訓練をしていると聞いたぞ。」


「そうなんですか?」

そういえば訓練の時、一度も日和さんは顔を出した事はない。

そんな事をしているのだと初めて聞いた。


「まだ、強くなってる実感は無いですけど。

霜崎さんは月見さんから龍衝が使えるようになったて聞きましたよ。

最近、月見さんは霜崎君の話ばかりしてるんですから。」


「……そうなんですか。」

どんな話を聞きたいが辞めておこうと思った。普段からそれなりにキツイ事を言われているから影でどれだけ酷い事を言われているのかまでは耳を塞ぎたかった。

それに、天道さんが俺の話をする理由など朝から晩まで訓練に付き合ってくれているから話のネタがそれしか無いからだろう。


「なら、今度私にも霜崎君の龍衝を見せてくれ。それと社長と話してまた一緒にゲートに行こう。勿論、日和さんもだ。

ゲートをクリアしたらまた3人で何か食べよう。楽しみにしてる。」


「はい!是非また。」


差し出された手を握り返す。

日和さんも道門さんの手を握る。


「じゃあ、私は家に帰るよ。

女房に怒られてしまうからな。」


「「お疲れ様です。」」


……今日、道門さんが結婚している事を初めて知った。

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