第45話
「今日からこの訓練に参加させていただきます。改めましてよろしくお願いします。」
四谷と新垣が頼み込んだ成果か、それとも黒田先生が最初からそのつもりかどうかはわからないが心さんが訓練に参加することになった。
「はい!では、今日から僕も含めた8人で訓練を行なっていく。主に心にはS級ゲートの経験から得た教訓と駆け引きを教えてもらうから。
それで、早速なんだけど傑と葵、それから同じチームで晶と手合わせしてもらう。
A級を経験している3人は後は技術を磨くだけだからさ。経験が果てしなく足りていない3人は存分に経験してね。」
S級の人との手合わせ。
黒田先生とならやったことがあるが手抜きのそれだ。主に天道さんと一緒に魔力のコントロールを教わった。
戦闘の駆け引きとは言葉で聞きはするが実際の戦闘で使った事があるかと言われれば試した事はなかった。
「えっと……その。俺が教えられることなんて大したことじゃ無いと思うけど、それに傑さんと葵さんにそれと晶さんに俺が教えるなんてそんな大層な事……」
「心!アンタ、相変わらずね。
なんなの?遠回しに私達にケチつけてんの?」
「いや、違います!そんな事は!!」
「じゃあ!さっさと構えなさいよ!!」
「は、はいぃぃ!」
どちらが上か下かの立場が明らかに逆転してしまっている。
精神面なら新垣はS級ハンターと同等のレベルなのかもしれない。
「行くぞ、霜崎。気合い入れろよ。
心は目の色が変わったら強さは尋常じゃないから気をつけろ。」
「わかった。」
天道さん達が訓練場の脇にあるベンチに腰掛けた。この場に残ったのは手合わせをする四人。各々が武器を手に取る。
これまで、弓を使っていた四谷が2本の青い線のある黒い短剣を手に取っていた事には驚いた。
どのような訓練をしたのか聞きたかったが僅かにピリついた空気は俺の舌を硬直させる。
「ふぅぅ……--。」
心さんが目を瞑り息を吐く。
「……あっ。」
そんな声が漏れた。
なぜ、そんな声が漏れたのか。
心さんの気配がまるで先ほどの人とは別人と思ってしまう程に変わったからだ。
まるで、黒田先生を目の前にしているようなそんな気さえした。
「行くぞ。3人とも。」
声のトーンが低くなっている。口調も違う。
それに、目の色がオレンジ色に輝いていた。
おそらく魔眼の類だろう事は想像がついていた。
黒田先生の青い魔眼と同じものだろうか。
「こい!」
私は薙刀を構えた。
心は圧倒的な近接タイプだ。
距離を保って戦闘をするのが定石。
ダンッ!!
そんな大地が踏み砕かれたかのような音が響くと心は私の前にいた。
瞬きの間に懐に入られている。
最初から長物にセットしておいたのが仇になる。
「動きを止めるな。」
凄まじい速さの拳が迫ってくる。
しかし、途中で拳を止めると横から割り込んで来た傑の剣をグローブで防御する。
奇襲を掛けた一撃なのに顔色一つ変えやしない。楽々と俺の短剣を受け止める。
小豆畑さんの体も斬れる剣なのにグローブには傷一つ入りはしない。
それが高級な素材で出来ているからと単純な回答ではない。
グローブの周りが僅かにオレンジ色に輝いている。
それは、絶対的な防御力を誇る魔力の壁。
雫の魔法だ。
「そんな、使い方ができるんだな。」
「軽口を叩いている暇はないぞ。」
受け止めた短剣をそのまま握ると心は四谷の胴体に重い拳を撃ち込む。
防御が追いついたのかどうかはわからないが四谷が地面を転がっていく。
「……ぉおおおおお!!」
ただ、凄さに眺めている場合ではない。
一気に距離を詰めて、刃が心さんに当たるその瞬間に龍衝を発動させる。
完璧に捉えて、肩口に吸い込まれる刃はまるで鋼鉄を叩いたかのような音を響かせた。
「……!」
……なんだこれ。
龍衝がいとも容易く受け止められた事には驚いた。
しかし、それ以上に炎を扱う魔法使いだと思っていたが目の前にある三十センチほどのオレンジ色に光るラウンドシールド。
魔力を固めた盾なのだろうか。
だが、もし魔力ならおかしい。
魔力を吸収できない!
「自分の魔法を主軸に戦う事はいい。
でも、相手に魔法が通用しない事を前提に戦わないとこの先には通用しないぞ。」
腹部に強烈な衝撃が走る。
あらかじめ、新垣に回復魔法の付与をしてもらってはいるが腹に風穴が空いたのかと思うほど一撃で吹き飛ばされる。
空中にいる間に回復しきり体勢整えようとするが目の前に心さんの脚が迫っていた。
手と足に灯された赤い炎。
それを推進力に変えての素早い追撃。
さらに、踵に点火された炎は蹴りの速度を加速させる。
「やられたと感じたらすぐに防御だ。」
「……ッ!」
両腕に全ての魔力を集中させる。
「受け身はしっかり取れ。」
その一言の後にムチのようにしなる脚は凄まじいインパクトを伴って俺の腕を打ち付ける。そのまま、数メートルの高さから地面に叩きつけられた。
意識が飛びそうになるが持ち堪える。
「……はぁ、はぁ。」
僅かなうちに息は上がる。
すぐに立ち上がらねばと痛みを堪えて立つ。
わかってはいたがこれほどまでとは思わなかった。
この人、めっちゃくちゃ強い!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます