第40話

刀に魔力を集めているせいで体が重い。

いつもより、景色が変わる速度が遅く、地面を踏み切れていない感覚だ。

魔力を凄まじい勢いで這っている。


「……ふっ!!」


大振りの一撃は簡単に避けられてしまう。

当たり前だ。降っている自分ですら遅いと感じてしまう攻撃が格上相手に当たるわけがない。

そのままでと言われたが集中力は龍衝の維持に持って行かれ、このままでは普通の戦闘訓練にすらならない。


刀から意識を途切らそうとした。

青い炎が小さくなっていく。


「龍衝を解いたら貴方の刀折るわよ。

そのまま、続けなさい。その感覚は少しずつ慣れていくものよ。」


「そんな事言ったて……!」


「龍衝が発現する魔力量を見極めなさい。

貴方のそれは全魔力を適当に込めているだけ。体に魔力が回らないのは当然の事よ。」


刀の青い炎に意識を向ける。

どれほどの魔力なら龍衝という現象が発生するのか。

自分に必要な魔力量は後回しだ。

必要な量を見極めろ。


そして、余った魔力を身体強化に回し、天道さんに刃を振るう。

しかしまだ、簡単に避けられる。

地面に刀が深々と落雷が落ちたような痕を残して突き刺さる。


もう少し、身体強化に回すしかない!


ボッボッという炎が揺れるような音が小さくなっていく。それと同時に龍衝という火が消えた。

それに気づかずに刃を振るってしまった。


「……消えてるわよ。」


天道さんの刃が刀に迫る。

言われて、目にした刀には青い光はなく、ただの武器強化状態になっている。


……しまっ!!


折られる、そう思って瞬時に刀に全魔力をまわそうとするが追いつかない。

ならばと、刀を振るって前のめりになった体重を利用して、真正面からの衝突を避けるために前転して回避する。

だが、天道さんはすぐに二撃目が迫る。

なりふり構わず刀に魔力を注ぎ込み、圧縮。しかし、そんな早く龍衝のオフからオンにできるはずがない。


折られる……--!


目の前で剣風が吹き荒れる。

刀は傷ひとつなく原型を保っていた。

それを見て、ほっと肩を撫で下ろす。

刀を見ていると天道さんの手が目の前に差し出された。

それを掴んで立ち上がる。


「しばらくは龍衝の維持と切り替えね。

実践形式で試すにはまだ早かったようでごめんなさい。」


「いえ、裁量を間違えた俺の責任です。

正直、龍衝の維持がここまで難しいとは思いませんでした。考えなくても、道門さんが一回振るったら解けてしまう事を思い返せば当然の事なのに。」


「そんな事ないわよ。少しのアドバイスで龍衝が形となって現れただけで十分よ。

焦らないでいきましょう……。」


言い終えようとすると天道さんがふらつき始める。顔色もどこか青白い。


「ごめんなさい。少し休むわ。

私の魔法は血を使うからすぐに……」


そして、地面に倒れ込んだ。


「肩を貸してもらっていいかしら?」

「え、ええ、もちろん!」


「そこのベンチまでお願い。」

想像以上に疲れた。龍衝の維持を偉そうに説明してはいるが正直私もキツイ。

それに、この人の相手をしていると外傷ないのに血を流してしまう。

魔力の消費か血液の消費かを常に選択を迫られていながら戦わなければならない。

この、訓練は霜崎君に教えるのもあるだろうけど私も訓練させられてるわね。


ベンチに腰を下ろして鉄分補給のタブレットを水で流し込む。


日和さんが来たから忘れていた。

貧血の症状。ベンチで横になる。


「大丈夫ですか?」


「ええ、まあ、少し休めば。

でも、私がこんな状態でも龍衝の発現速度と維持の訓練はできるわ。

横になっている状態で申し訳ないけど手を叩くからそれでオンオフを繰り返して。」


「わかりました。」


パッンっとそんな音が約5秒間隔で鳴り響く。

青い炎が点火、消失を繰り返す。

別に体を動かしているわけではないのに額から汗が滴り落ちる。


「ペース落ちてる。」

「はい!」


それから数分後に俺も魔力が枯渇して土を舐めた。

足から一瞬で力が抜けたせいもあって口の中がジャリジャリと嫌な音がする。


「もうバテちゃってるじゃん。

しかも、2人揃って。」


「……先生。」

「あー、魔力の枯渇はホイッと!」


一瞬で全身に魔力が戻るのを感じた。

すぐさま立ち上がり、お礼を言うと口に入った砂を吐き出そうとトイレに駆け込んだ。


「月見ちゃんは貧血だよね。」

「あ、私は大丈夫です。」


「そんな、無理しなくても僕の手に掛かれば貧血もあら不思議と……」


「いえ、本当に……。」

日和さんのならいいがどうにも目の前の胡散臭い人の魔力で作られた血液が体に入ると思うとどこか嫌悪感を感じてしまう。


「月見ちゃんは意外と僕のこと嫌いだよね。」


「は……いえ、そんなことは。

とても、信頼はしています。」


「ねぇ、今は信頼云々じゃなくて好きか嫌いかで話してたんだけどな……。」


段々声のトーンが落ちていき、砂の上に落書きを始めた。社員に嫌われていると思うとすぐに拗ねてしまう社長。


「すいません、やっぱりお願いします。」


「まっかせなさーーい!!」


しかし、跳ねるように立ち上がると嬉しそうに貧血を治していく。


「社長の魔力は底なしですね。」

日和さんも日に何度も私の貧血を治せない。

それに、社長は霜崎君の魔力も回復させたばかりなのにも関わらず顔色ひとつ変えず優々としている。


「後、数百回くらいなら余裕余裕。

2人が強くなるためだ。遠慮なく言ってよ。

他の会社はどうか知らないけどウチは社長に迷惑かけてなんぼなんだからさ。」


そう言って他の人達のところへと歩いて行った。



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