第38話
「じゃあ、葵構えろ。
お前は手を抜かず、俺を殺す気で来い。」
「白菊さんに手を抜くなんて馬鹿な真似私がするとでも思いますか?」
「手を抜くやつではないな。
初めは新しい武器に慣れる為にも準備運動くらいで軽くやっていくぞ。
段階的にペースを……」
「冗談!最初から殺す気で行きます!」
柄を合わせて、カチッと一度音を鳴らす。
相手との力量差がわかっているのに安易に距離を積めるのは得策ではない。
初撃は遠距離攻撃で意識を逸らす。
右手の包丁に魔力を込めて投げ飛ばす。
しかし、その包丁は軽くあしらわれる。
「安易に距離を詰めないのは正解だ。
だが、その後はどうする?」
「後ろから攻めるんですよ!!」
ワイヤーを引っ張り背後から包丁。
それで、白菊さんは後ろを警戒するはずだと睨んで一息に距離を詰めて、左手を振りかざす。
前と後ろからの同時攻撃。
それで、勝ったと思いたいがやはりそうもいかない。
カンッ!っと音が響く。
白菊さんの背中に刃は直撃した。
しかし、弾かれたのは包丁の方だった。
……ッ骨の鎧、やっぱり厄介。
白菊さんは自分の骨を粉末に変え、汗腺などからその粉末を放出。
それを身に纏ったり外部で再構築し、武器、防具に変えたりできる。
自らの骨を削る為、そう何回も形成できるわけではないが武器強化は要らず自己強化の魔法で全てが完結するから魔力の移動はかなり速いし、魔力そのものの効率はかなり良い。
それに、相手の骨に魔力を流せば自分のもののように扱える一撃必殺の技持ち。
それはその右手にもっている骨の剣が相手の骨に触れても同様にできる。
絶対に当たってはいけない攻撃だ。
骨の剣と包丁の刀身が空気を震わし、オレンジ色の光を作り出す。
このまま鍔迫り合いになれば魔力の総量と自己強化魔法の練度で劣る私にはまず勝ち目がない。
右手でワイヤーを引っ張り手元に戻し、白菊さんの顔面めがけて一直線に振り下ろす。
しかし、視界が体が右に大きくふらついた。
「……な!」
私の刃は白菊さんの剣の上を火花を散らして滑っていく。
左手の包丁が横に流されていた。
手元に戻すときに一瞬、白菊さんから目を離した隙を突かれた。
前方に傾いた体制はすぐに戻らない。
しかし、足を前に出し踏ん張れば振り返った先にあるのはきっと白菊さんの剣だろう。
地面が近づく。
背後は見るまでもなく刀身か鼻先目先にあるだろうな。
……なら!
包丁の柄を合わせて、捻る。
カチッっと音が鳴り、薙刀に姿を変えた。
一つの刃を地面に突き刺し、腕の力で体を捻り白菊さんの正面に向ける。
そして、すぐに地面から抜きもう一つの刃で白菊さんを狙った。
だが、さすがに反射神経がいい。
薙刀での初撃が弾かれる。
「まだまだ!!」
薙刀を円を描くように振り回す。
両方の先端に武器がついたことで円を描くように振り回すことで今までの倍の攻撃回数が可能になった。
一秒の間に何回も火花が散る。
「まるで、扇風機に刃をつけたようだな。」
「その、表現はセンスないですよ!」
しかし、そんな攻撃でも白菊さんはいとも容易く上下左右斜めから次々と襲いくる刃をたった一本の剣で捌く。
このままではいつか見切られるだろう。
もしかしたら手を抜いていてくれて既に見切られているか。
弾かれて仰け反らせられるか武器を弾かれる前に次々と攻撃方法を変えていくのが勝つ方法だろう。
それにその多彩な攻撃方法がこの扱いにくい武器の長所だ。
……--カチッ!
薙刀を分裂させて二振りの包丁に戻す。
攻撃のタイミング、一度分裂する時の時間の緩み。そして、それによって生まれた緩急を利用して一気に二刀での連撃による激しい攻撃で攻める。
瞬きする一瞬で十のオレンジの光が瞬いた。しかし、全てに金属音が含まれている。
……クソッ!!
最後に響いた盛大に鳴り響く反響音。
宙を待っている二振りの自分の剣を目で追い、それは地面に突き刺さった。
「惜しかったな。」
「息一つ切らさないで言わないでくださいよ。惜しくも何ともないじゃないですか。」
「文句言う暇あったら武器を拾ってこい。」
「はーい。」
気の抜けた返事。
撫で落とす肩。
どうやら、二つ上のランクの俺に本気で勝つつもりだったようで少し笑みが溢れる。
「葵。」
「なんですか?」
冗談じゃなく本当に惜しかった。
まだ、使い慣れていない武器でよくあそこまで戦えるなと思った。
しかし、今与えるのは褒め言葉ではない。
強くなるためのアドバイスだ。
「武器になれていないのはわかる。
だが、変形時の僅かに手元を見てしまう癖がその武器の良い点を殺してしまっているし遅れになっている。
次は失敗しても良いから手元を見ない事を意識してやれ。」
「はい!」
手元がまだまだおぼつかない。
それに、武器強化の魔法もだ。
二刀から薙刀に姿を変える瞬間に魔力の遅れが生じてしまっている。
白菊さんが手を抜いて、壊さないように調整してくれているから良いがこれが実戦なら何度この剣が壊されたか数えられない。
それに、その遅れに怯えて無意識的に二刀から薙刀への変形を恐れてしまって判断を鈍らせている。
課題は山積みだ。
「次、お願いします。」
「おう。かかってこい。」
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