第10話

道門さんの活動停止期間が明けた。

レイド11人のうち4人が死んだ。

そして、残りの全員がこの場にいた。

ゲートのランクはEランク。

なんでもない、最底辺のランクより一つランクが上がっただけの底辺ゲート。


いつもなら和気藹々とした声が飛び交い、冗談が絶えないような場所が今日は誰も声を発さない、ただ淡々と手と足を動かしてモンスターを倒していた。

肉が裂け、潰れる音が嫌に耳によく聞こえて、脳の奥底で音が残る。

一つ戦闘が終われば地面を蹴る音と布や鎧が擦れる音だけが鼓膜を揺らす。


言葉をどこかで掛けようと思いながらも気づけばゲートは終盤を迎えていた。

この空気では、連帯を崩しかねない。

また、あの惨劇が起きてしまいそうで心がざわつく。


「霜崎君、見違えるほどに強くなったな。」


そう思っているとやはり道門さんが会話をし始め出した。

本当にこの人は凄い。

必要だと思った時にそれをしてくれる。


「D級……いや、もっと上の強さに見えるぞ。

戦い初めから、今の終盤で強さが違う。

本気を出していなかったのかね?」


「いえ、そう言うわけではないんですけど俺の力はスロースターターのようで。」


戦いが長期戦になればなるほど強くなる。

足も腕力も強く、速くなる。

しかし、この一ヶ月弱で新たに分かったのは身体能力が上がっても体力が続かなればそれだけ動きが鈍くなるという事だ。

当たり前のことだが力を身につけて浮き足立って情けない事に気づけなかった。


序盤は本気を出せず、戦いが長引き過ぎれば扱いきれずに持て余す。

それがこの力のリスク。

本気で戦えるのは中盤戦。


「身体強化系統にあるあるだな。

体が温まるまで時間が掛かってしまう。

次からは事前に体を温めてきなさい。」


「はい、気をつけます。」


そう言ったもののどうしたものかと。

適当なFランクゲートを回ってから来ると言うのもあるがそれでもEランクに近いFランクゲートに当たってしまうとバテてしまう。


体力トレーニングでランニングを始め、魔力を扱う素の体を鍛えるための筋トレを試しているがまだ一ヶ月も経っていないから効果は実感できずにいる。


「ふぅーっ……--。」


そう、息を吐いた。

強くならなくてはいけない。

Fランクゲートじゃ、強くなれない。

もっと上のゲートに行かなくてはならない。

しかし、このEランクゲートでも強くなっている実感はしなかった。


「さあ、皆んな。

そろそろこのゲートの終わりだ。

気づいていると思うがあの先にボスがいる。

だから、作戦を立てよう。

烏野君にボスを見てきてもらった。」


道門さんの横で一人の青年がお辞儀する。

烏野ハンターはE級で身体強化系統の中でも身体能力に加え、視力の強化が優れている。

暗闇でも、かなり遠方まで見えるとか。


ボスは獣人種の狼型。

速度とパワーに加えて、優れた嗅覚。

不意打ちはまず出来ないモンスター。


……まずいな。

まずいと言うのはモンスターのことではなく身に纏っている魔力の事。

作戦を伝える為にゆっくり歩きながらボスの下に向かっているがその間にどんどん魔力がなくなっている。


作戦を伝える声が響く中、そちらに気が逸れてしまう。

しかし、今回はE級で連帯なしで勝てる相手ではない。

自分の能力の事を言うという選択肢はあるが作戦を練る時間を短縮、急かす結果になって危険が及ぶかもしれない。


「それで、囮役を……」


囮役と言う単語だけが耳に届いた。

最も危険が多い役。

しかし、最もモンスターと長時間接近できる役だ。

それに今回は日和さんのサポートもある。


周りも誰もやりたそうにしていない。

普段やっている道門さんに加え、いつも順番にやっている雰囲気だったが今回はそんなノリはなく、誰かがやってくれると言い出すのを待っている。

顔色から前回の戦いを思い出してしまったいるからだ。


「……俺やります。」

自分の能力の特性と日和さんのサポートがあり、この空気なら誰も反対しないとそう思った時にはやると言っていた。


「いいのか?」


確かに危険である。

それに俺はこの力を身につけてからFランクゲートしか行っていない。

Eランクゲートの強さを肌で知らない。

でも、それを知るチャンスだ。

経験を重ねるチャンス。


「はい。」

言葉を吐くのと同時に覚悟は決まった。


「日和さん、サポートお願いします。」

しかし、その覚悟も日和さんありきだ。

日和さんがいなければまず言い出せない。


日和さんありきである事を察してしまったのか日和さんの眉間にシワがよる。


「回復魔法って疲れるんですよ。

他人の身体強化も自分のと勝手が違ってとーっても疲れる事知ってますか?」


愚痴を溢す。

当たり前だ。

いくら強くなっても日和さんの中の俺はまだF級でどうしようもなく弱い人間のはずだ。

これまでの道のりもずっと怪我をしていないかどうかを確認するほどだった。


しかも、ボス戦は単純なサポートではない。

最前列で大きな怪我を負えば瞬時の回復作業に取り掛からなければいけない。

一瞬でも遅れれば連帯が崩れる。

そして、今回が初めて最前列で戦う人間で多くの怪我をするかもしれない人間だ。

日和さんが考えている多大な負荷を思えば怒るのも無理はない。


「でも、任せてください。」

しかし、ニコッと笑って見せ胸を張りそこに拳を当てた。


「手足の二、三本もげてとれてもあっという間にくっつけてあげますから!」


「……二、三本もげないよう頑張ります。」

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