第9話

あれから一週間が経った。

俺は毎日、Fランクゲートに挑んでいる。

Dランクなら同じくレイドに入り、Dランクゲート以上のゲートに行くべきだと思う。

でも、その前にもっと今の自分の力を知る必要があると思った。

身一つでゲートに挑む以上、今の自分の力を知り、技術を磨いてからでなければ同じレイドのメンバーに迷惑が掛かる。

迷惑を掛ければ危険に晒してしまう恐れもある。


しかし、一向に進展はなかった。

吸収した魔力による身体強化。

最大威力の攻撃は一度だけ。

そして、魔力の保持時間は最大時から3分程で全ての魔力がなくなってしまう。

これはどうやっても時間を伸ばす方法に至っていない。

俺がこの力に目覚めた時、自己治癒を行なっていたと言われているがその力は発揮できずにいた。

傷を負えば痛く、血は流れる。

治る速度は今までとなんら変わりはない。


クソッ!


どこか焦っている気がした。

おそらく、目の前で高城ハンターの強さを見てしまったから。

俺が憧れる強さはそこにあるが届きそうにないほどとても遠く感じてしまったから。

これまでの2年が我慢の2年だっただけあって余計にもしかしたら、ここでまた何年も止まってしまうのかいう不安が募る。


「ふぅー」っと一息吐いた。

焦っても仕方がないと気持ちを落ち着かせた。

確実に成長はしている。

体つきも自分で実感する程良くなった。

そして、もうすぐこのゲートの終盤。

集中力を切らせば危険だ。


それに今日は絶対に怪我をするわけにはいかなかった。

道門さんに退院の報告と昇級した事を報告すると今すぐにでも祝わせてくれと言わんばかりに予定を聞いてきた。

そして、今日が日和さんとのスケジュールも合い食事にする事になっている。


気を引き締めよう。



***


「やあー、霜崎君がとうとうDランクか!

めでたい!実にめでたいぞ!!

それに、この一週間で霜崎君はあどけなさが抜けて一回りも二回りも男らしくなって!」


食事会が始まってから1時間。

道門さんは出来上がっていた。

最初は生き残った事を祝い、そのまま四人も死んでしまった話からしんみりとした空気に。

そこから、しんみりとした空気を変えようと日和さんが俺の退院祝いと昇級に話を振ってからは道門さんは酒を飲み倒した。


もう、何杯目だろうか。

ハンターだからなのか倒れる気配がないと思っていたが唐突に机の上に倒れる。


「もう、道門さん!

飲み過ぎは体に悪いですよ。

まあ、私が解毒すればいいんですけど。」


顔を真っ赤にしゃっくりをして完全に伸びてしまっているが回復魔法をかけ始めると段々と血色が元に戻っていく。


「うぅぅん……。」

うめき声を上げている。

魔法でも少しの間は目を覚ましそうにない。


「霜崎さん、本当にみちがえましたね。」

魔法をかけつつ、俺の顔を覗き込むように見てくる。


「そうですか?」


「全体的に筋肉もそうですが顔も何だか男の子から大人の男性になったと言うか……。

なにか、この一週間特別な事されました?」


「いえ、これと言っては……。」


D級になってから変わったことといえばFランクゲートを毎日一つ閉じているくらいだ。

これは、DやC級の人達が大手企業の目に止まって欲しくてよくやる事だ。

それほど珍しいことではない。


しかし、日和さんは疑いの目を向けている。

一応話したほうがいいのかと水を一杯飲む。


「うぅん?」

そこで、うめき声を上げて道門さんが目を覚ました。


「すまない。

すっかり酔いが回ってしまっていた。」


「もう飲むのをやめてくださいね。

少しですがアルコールを残して気持ちのいい程度の酔いは残しておきましたので。」


「ああ、丁度いい酔いだ。

危なく話しておきたい事を忘れていた。」


店員が持ってきた冷水を一口。

話しておきたいことと前置きを置いてから少しの間、グラスの中で揺れる水面を眺めている。


「すまない、日和さん。

酔いを完全に覚まさせてくれないだろうか。」


日和さんは不思議な顔をしたがすぐに回復魔法をかけた。

顔の赤みは完全に消えた。

目には力強さが戻っていた。

そして、ダンッ!っという音が響き、道門さんは机に両手を着き頭を深々と下げる。


「真っ先に逃げてしまった、レイドのメンバーをどうか許してあげてほしい!」


……それを意外な言葉とは思わなかった。

道門さんならいつかはそう言うだろうと思っていたから。


「あれは私の責任だ。

君達を見捨てて人達だが悪い人達ではないんだ。信じられないと思うがどうか、どうか許して欲しい。」


言われなくてもわかっている。

あの人達はあの一瞬は確かに俺達の事を見捨てた。

でも、あのレイドメンバーはその前までは何度も助けてもらった人達だ。

モンスターを狩った結果でそうなっただけかもしれないが。

規格外の事が起きなければ今もきっと上手くレイドをやり、そこに俺も加わらせてもらっていたと思う。


「……見捨てた事実は変わりません。」


机の上に出ていた手は震え、日和さんの顔は青く血色が悪くなっていた。

きっと、あの時の事を思い出している。


「でも、今までの思い出や感謝の気持ちがなくなったわけではありません。

ただ、許すかどうかはあの時絶対に助かった私が決める事じゃないので。」


そして、俺の顔を見た。

話の流れで俺達を俺を見捨てた人達を許すか許さないかの選択権は俺にあるのだと思った。


「……俺は…。」

許さないかったらどうにかなるのかはわからない。

逆に許して何がどうなるのかも。

ただ、もし仮にもう一度あのメンバーでゲートに入って、安心してゲートを閉じられるか。

……とてもじゃないができないと思った。


だんまりしているとカランッと氷が溶け、形を変えグラスを鳴らした。


でも、わかっている。

もし、俺が今の力があってどうしようもないその先が死しかない状況で逃げられる状況に直面したら逃げてしまうと思う。

あの人達は悪くない。


「あの人達はまだハンターを続けるんですか?」


「ああ、やめるとは一人も聞いていない。」


「そうですか。

なら、もう一度あの人達とゲートに入る機会を作ってくれませんか?」


「ああ、それは構わないが……。」


許すか許さないか。

多分、今本人達が目の前にいない以上決めようがない。

何度も助けてくれた恩人である事に変わりはないし、見捨てた事実も変わらない。

理解したくはないが理解できてしまう行動。

感謝と怒りが同時に湧き出す不思議な感情。

どちらを選んでも答えを変えてしまう気がした。


「俺は守られるだけの存在じゃなくなりました。だから、背中を任せて一緒に戦って決めたいと思います。」

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