幸せの黄色いきつね

羽希

幸せの黄色いきつね


-赤いきつねは、神様の御使いなんだ。


-困った者には手を差し伸べて、どんな時でも助けてくれる。

そんなヒーローなんだよ。


-神様はそんな赤いきつねをたいそう可愛がってね。

-かわいい、かわいい赤いきつねのためなら例えどんな願いでも叶えてくれたって話さ。

-そして今でも時折山頂に姿を現してはみんなを見守ってくれているんだよ。


黄色い子ぎつねのコンスケは耳と尻尾をパタパタさせてお父さん狐の話を楽しそうに聞いていました。

お父さんきつねは物知りで、いろんな物語をコンスケにお話してくれます。


コンスケはそのお話の中でもこの赤いきつねのお話が大好きでした。


「僕も大きくなったら赤いきつね様になる!」

コンスケはコンコンとお鼻を鳴らして大きな声で口にします。


お父さんきつねは微笑みコンスケの頭を撫でます。

「ああ、きっとなれるよ。そのためにはたくさん勉強しないとな」


一緒にお話を聞いていたお母さんきつねもお父さんきつねの言葉にうなづきます。

「ええ、その為には体も大事よ。しっかり食べて、よく眠るのよ」


そう言ってぺろぺろとコンスケの体を毛繕いしてくれます。

その毛繕いがとても気持ち良くて、コンスケはウトウトと眠ってしまいます。


コンスケは優しい両親に恵まれ、幸せな日々を過ごしていました。


そんな楽しい春が過ぎ、ひまわりの夏を迎え、美味しい秋をこえると、冬がやってきました。

その冬はとても厳しい寒さで食べる物もなかなか見つかりません。

コンスケはお腹がぺこぺこな日々が続きました。


「大丈夫よ!コンスケ。ほらちゃんとお食べ」

「そうだよ。お父さん達がついているから大丈夫さ」


そういうお父さんきつねとお母さんきつねはコンスケに食べ物を与えてばかりで、自分達は食べようとしません。


「お父さんもお母さんも食べないと!」

「私たちはお腹いっぱいだから大丈夫さ。さあ、ちゃんとお食べ」


そういう二人は頬はこけ、ずいぶんと痩せてしまいました。

最近では動くことも辛そうです。

元気なのはたくさん食べさせてもらったコンスケだけ。


-このままではお父さん達が倒れてしまう…元気な僕がどうにかしないと!

うんうんと考えているとコンスケはお父さんが話してくれた赤いきつね様の話を思い出しました。


そうだ!

きっと赤いきつね様なら助けてくれるはずだ!

赤いきつね様に会いに行こう!


コンスケはそれはいい方法だと一目散に家から飛び出しました。

そして赤いきつね様が現れるという山頂を目指します。



子供の足では山頂への道は大変険しい道です。

「とおーい!」

それでもコンスケは歩みを止めません。

「さむーい!」

雪に足を取られ厳しい寒さに震えながらも両親の事を思い足を進めました。


やがて日も暮れ体力もつき、コンスケは一休みすることにしました。

その場でうずくまって休んでしばらくすると、どこからか美味そうなスープの匂いが漂ってきます。


「お腹すいた…」

匂いに釣られてコンスケのお腹もぐーとなります。

コンスケはそのいい匂いに我慢できず、匂いのしてくる洞穴へ、てくてくと入っていきました。


洞穴を覗くと、そこにはスープをぐつぐつと煮込んでいる緑のたぬきがいました。

緑のたぬきはコンスケに気がつくと、怪訝な顔をします。


「お前さんは誰だい?オイラに何かようかい?」


「初めまして!僕コンスケ!」

「そうか。オイラはポンキチだ」


コンスケはポンキチにこれまでのことを話します。

食べ物がなくて困っている事、お父さん達が限界なこと、赤いきつね様に助けを求めにきたこと、匂いに釣られて洞穴に入ってきたこと…


ポンキチはコンスケの話を聞き、彼にスープを分けてあげると辛そうに言いました。

「オイラも力になってあげたいけど、ごめんな。オイラも今年の冬を越せるかどうかわからないんだ」


コンスケは言います。

「それなら一緒に赤いきつね様にお願いに行こうよ!きっと君の事も助けてくれるよ!赤いきつね様は誰も見捨てないんだ!」


けれどもポンキチはその話に首を振ります。

「…赤いきつねの話はオイラも聞いたことがあるよ。時を超え、山をも砕くってね。けれど、オイラはこの山にずっと住んでいるけど、赤いきつねなんて見たことがないよ」


ポンキチは赤いきつねがいないと思っているようでした。

けれでもコンスケはニコニコと笑いながらポン吉に言います。

「きつねの僕が行けばきっと大丈夫!会ってくれるよ!」


「…そうかい」

コンスケに真っ直ぐな笑顔を向けられたポン吉は頬を掻くと、コンスケの頭を撫でて答えます。


「なら、オイラの分もお願いするとしようか!山頂までの道案内はオイラに任せてくれ!」

「本当!?ありがとう!」


コンスケは優しいポン吉に会えたことに感謝しました。


次の日。

コンスケはポンキチの道案内のおかげでスイスイと山頂まで辿り着くことができました。


「ほら、コンスケ。ここが山頂だよ」

けれども、そこには赤い狐の姿はありません。


「きっと、呼び掛ければ出てきてくれるよ!」

「そうか…。なら声をかけてみないとな」


「赤いきつね様〜!」

けれども、いくら声をかけても赤いきつねは出てきません。

ポンキチは悲しい顔をしてコンスケのことを見守っていました。


コンスケは赤いきつねのことを呼び続けました。

コンスケの喉がガラガラになり、日も落ちてきても呼びかけ続けました。


もういいんじゃないか。

ポンキチがコンスケに声をかけようとします。


その時、急にピカッと目を開けていられないくらい周囲が明るくなりました。


ポン吉がおそるおそる目を開けてみると、目の前に赤いきつねが空に浮かんで立っているではないですか。驚いてポンキチは腰を抜かしてしまいます。


赤いきつねが口を開きます。

『私に何かようかね?黄色いきつねよ』

「赤いきつね様!僕、お父さんとお母さんを助けて欲しいんです!」

コンスケは事情を話します。


事情を聞いた赤いきつねはうなづくと、コンスケに声をかけます。

『わかった。力になろう。これを持っていくといい』

どこからかともなくたくさんの食料を取り出しコンスケに渡します。


「わーい!おうどんだ!!  ありがとう!赤いきつね様!」

『いいかいコンスケ。これからもお父さんとお母さんを大事にするんだよ』

「もちろん!」


今度はたぬきちにも沢山の食料を分け与えます。

『たぬきち君。君は心が真っ直ぐで優しいたぬきだ。どうかこれからもコンスケのそばにいてあげて欲しい』

「だから、オイラには『ソバ』を渡すのか。ハハっ、赤いきつね様はシャレがきいてらっしゃる。わかってる。こんないい子、ほっとけないよ」


赤いきつねは満足そうにうなづくとまた、空へと飛翔していきます。

『君たちはこれから沢山の者を幸せに、笑顔にしていくよ。そんな君たちの活躍を私はずっと遠くから見ている』


そう言うと、赤いきつねは空に溶けるように消えていきました。


「…赤いきつねは本当に居たんだなぁ」

「だから言ったでしょ!さあ、早く帰ろう!」

コンスケとぽんきちはもう一度その場で赤いきつねに感謝を言うと、山を降りていきました。




ポンキチに送ってもらったコンスケは、家に着くとすぐに心配していたお父さんきつねとお母さんきつねに抱きしめられました。


そして、コンスケが抱えているたくさんの食べ物を見て驚きます。

「僕赤いきつね様に会ったんだ!」




赤いきつねはそんなコンスケ達の様子を遠くから見守っていました。

コンスケ達は家族でうどんを食べ楽しい楽しい団欒を過ごしました。

コンスケはお父さんぎつねとお母さんぎつねに囲まれてとてもはしゃいでいます。

けれどもうどんを食べ終えると、疲れが出たのかコンスケはうとうとと眠ってしまいます。父親きつねはそんなコンスケを撫でるとコンスケを咥えお布団に連れていきます。そんなコンスケ達の様子を見届けると、赤いきつねは微笑み、立ち上がります。



『コンスケや。もういいのかい?』

神様が赤いきつねに話しかけます。

『はい、神様。私の願いを聞いてくださりありがとうございます』


「やはり、私は世界一幸せな黄色いきつねでした」

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