第26話 クズ令嬢、お気に入りロマンス小説の新刊が手に入らなくて憤慨する。(完結編)

「す、すいやせん。全部しゃべっちまいやした。賄賂の記録も渡しちまいまして、へへっ」


「ば、バカなのかお前は! こういうものは黙っていればバレぬものだ! なのになぜ馬鹿正直にしゃべりおったのだ!」


「いやね? 俺も最初は黙っていようと思ったんすけどね? でもこの件は裏仕事が得意な特務騎士団『ヘル・ハウンド』が動いているんですぜ? あっしだって金より命の方が大事なんすよ」


「特務騎士団『ヘル・ハウンド』だと!? 馬鹿な、この程度の案件で、王家直属の諜報部隊である特務騎士団が動くなど考えられん……! 一体どんな力が働いて――はっ、まさかセレシア侯爵家が介入したのか……! 一体なぜ!」


「だからさっきからずっと言ってるでしょ! 最新刊が読みたいからだって! いい加減に人の話を聞きないよね!」


 ほんとなんなのこいつ?

 私の話をちゃんと聞きなさいよ!


「ま、まさかそんなことで? 本来は国家機密レベルの案件に対応する王家直属の特務騎士団『ヘル・ハウンド』を、動かしたというのか……?」


「そんなことですって!? 私にとってこれ(最終巻を読むこと)は神の使命に等しいことなのよ! そんなことも分からないなんて、どこまで愚物なのよあんたはっ! もう一回幼年学校からやりなおしなさいな!」


 私は言い終わると同時に、文化庁長官を「ビシィッ!」と指さした。



「まったくだ」

「マリア様のおっしゃるとおりだ」


「文化は国家の礎。民を豊かにするにはパンだけでは足りぬ」

「パンが豊かにするのは身体だけじゃ、心を豊かにするのは文化なのじゃからな」


「つまり文化を殺すということは民の心を殺すと言うこと。ひいては国家を殺すと言うに等しい」


「文化を守ること(これ)を神の使命と仰るとは、マリア様はどれほど国と民のことを思われておるのか……」

「この若さでこの慧眼。拙者は心から感動いたしましたぞ。まさに現代の聖女と呼ぶに相応しいお方だ」


 この講演会に参加していた識者たちがなにやら言っていたんだけど。

 私は今それどころじゃなかったので、彼らが何を言っているのかは特に気にはしなかった。



「くっ、ぐっ、ぐぅ…………」


 私の断罪の言葉と、参加者たちの非難の視線に耐えられなくなったんだろう。

 ぐうの音も出なくなった文化庁長官は、その場に力なく崩れ落ちた。


 それを、


「さてと。後の話は尋問室で聞かせてもらおうか。文化庁長官、貴殿には収賄および権力濫用の嫌疑がかけられている。さあ来い。それと心しておけよ、『ヘル・ハウンド』の取り調べは苛烈だぞ?」


 今回色々と調べてくれた特務騎士団『ヘル・ハウンド』の特務騎士が、無理やり立たせて容赦なく引っ立てていった。


 その様子を眺めながら、私は晴れ晴れとした心になる。


「やったわ、これで『星海の記憶』の最終巻が読めるわね♪」



~~後日。



「見て見てアイリーン! マナシーロ=カナタニア先生からサイン入りの最終巻と、感謝のお手紙をいただいたのよ!」


 私はついさっき届けられたサイン本を、アイリーンに見せびらかした。


「あらまぁ、それは良かったではありませんか」


「ええもうほんと。今の私は人生で一番最高の気分よ! しかも今度は私をモデルにした作品を書いてくれるんですって! 信じられないわ!」


「それはそれはおめでとうございます」

「ああもう、本が出るのが今から待ち遠しいわね~♪」


「発売されたら私も読ませてもらいますね。色々と使えそうですし」

「……何に使うのよ?」


「色々は色々ですよ。それはそうとくだんの文化庁長官は、他にも似たような贈収賄事件に関与していたらしくて、厳罰に処されるそうですよ。先ほどセバスチャン様がそのようなことを言っておりました」


「この私の人生の楽しみを奪おうとしたんだもの、当然よね。ざまぁ見ろだわ」


「さらにはマリア様の世間での評判も、大いに上がっているようですよ。マリア様こそが文化の護り手だと。マリア様の評判を聞いてお父さまであらせますセレシア侯爵様もさぞやお喜びのことでしょう」


「なんでこれ(『星海の記憶』の最終巻を読もうとしただけ)で私の評判が上がるのよ?」


「またまた御謙遜を」

 アイリーンが嬉しそうににっこりと笑った。


「????」


 いやほんと何の話?


 ねぇねぇそこのあなた。

 ちょうどいいわ。


 参考程度にちょっとあなたの意見を聞かせてくれないかしら?

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