第27話 クズ令嬢、歌唱コンテストの審査員をする。(前編)

 この日。

 私はお父さまが運営している『セレシア音楽文化振興財団』が毎年行う『少年・少女歌唱コンテスト』の特別審査員をするため、コンテストが行われる演劇場のVIP仕様の審査員特別席にいた。


 上位入賞者は、返済が要らない奨学金付きで王立歌唱学校に推薦入学できたり、高名な音楽家に師事できたりするので、参加者は誰も彼も必死の様子である。


 私はこういう審査員をするのが大好きだった。


 え?

 『素人の子供の歌を聞くとかマジくっそだるいんですけど……』とか思わないのかって?


 まさか!


 だって入賞して人生を切り拓くんだって、必死に頑張ってる他人の人生に。

 特にその道に優れているわけでもない私が、自由気ままに好き放題干渉できるんだよ?


 こいつらの生殺与奪の権利を私が握っているんだよ?

 そんなの最高すぎるでしょ(笑)


 というわけで、私は今日という日を心待にしていたのである。


 と言っても、ここまでは別に変な審査はしていない。

 分かる範囲でそれ相応の点数をつけていた。


 全部めちゃくちゃにしたら、嫌がらせをしたのがばれちゃうからね。

 大事なのは一番おいしい獲物を、ピンポイントで狙い撃ちすることなのだ。


 くくくっ。

 そうこうしている内に、事前に優勝候補って聞かされていた女の子が出てきたよ?


 名前はリーザと言うそうだ。


「~~~~~♪」


 ふんふん、なるほどね。


 リーザは天使みたいな可愛らしい顔で、心に染み入る大人顔負けの声で歌っていた。


 はっきり言ってメチャクチャ上手い。

 孤児院で歌っているところを偶然見い出されたらしいんだけど……なんなのこいつ?


 絶対こいつが勝つじゃん。

 もはやこいつのための歌唱コンテストじゃん。


 よし、ならばこいつを0点にしてやろう(笑)


 私は優勝候補のリーザちゃんに、100点満点で容赦なく0点をつけてやった。


「審査員って、これがあるから楽しいのよね! 今日の私は最高の気分だわ!」


 後で問題になっても、言い訳ならなんとでもできる。


 心が籠ってないとか、点をつける欄を間違えたとかね。

 私は勝ち組のスーパーセレブだから、言おうと思えばなんとでも言えるのよ。


 だいたいどうせあんたも、歌いながら自分が勝つって思ってるんでしよ?

 当然よね、もう圧倒的だものね。


 でもね残念!

 私のせいであんたは優勝争いから完全に脱落するのぉ~。


 まさかの結果発表を楽しみにしてなさいな(笑)



~~結果発表。


 リーザは事前の予想を裏切り、まさかの上位入賞圏外の4位に沈んだ(笑)

 表彰式でメダルを授与されて喜ぶ上位3人を、泣きそうな顔で眺めていたのがもう傑作だったんだから。


「さーてと。最っ高に楽しめたしそろそろ帰ろうかな」


 私は満面の笑みで審査員席を立ったんだけど。

 そんな私のところに当のリーザが、何やら文句でも言いたそうな顔をしてやってきた。


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