ダークエルフ、ルーン(10) アシ戦争、ぼっぱつ

31、アシ戦争、ぼっぱつ


 それは恐ろしい光景であった。

 川一面に、とかげ。

 青緑、青緑、青緑、黒。青緑、青緑、黒。

 青緑、青緑、青緑・・・・・・・・・とかげ、とかげ、とかげ、とかげ。

 幅3間(5.4m)ほどの川に6列縦隊で、うじゃうじゃうじゃうじゃと、とかげが遡って(さかのぼって)来おる。

 

 『アシ』と呼ばれる、二足歩行の小型ドラゴン。

 身の丈6尺、しっぽ入れて9尺(2.7m)ちょい。

 三角形のドラゴン面(づら)にツノおっ立て、背には翼をはためかせ。口には鋭いキバ見せて。

 青緑色したウロコ、あるいはヌメヌメと黒い皮膚、濁った水中にきらめかせ。

 ジャブジャブ、ジャブジャブ。巧みに泳ぎ、迫ってくる。

 ハイエルフの暮らす『丘の街』に。

 その数、なんと、1万以上。

 街に近づき、土手這い上がり、水門前の広場に展開す。

 細い茶色の竹槍持って、ギロリギロリと、睨んできおる。

 『にんげんだ』『うまそうだ』との、狩りの目で!


 アシ戦争の、勃発(ぼっぱつ)であった。


「敵、アシ軍団は、多数なり」

 ハイエルフの隊長。

 水門内側、ちょっと高くなった段に立って、戦闘直前の訓示をする。

 青いレザーアーマーに、革かぶと。白いタスキ。空飛ぶ魔術兵の軍服である。白いタスキは、隊長のしるし。

「とかげステーキ喰らい尽くすには、我ら、ちと、数が足らぬ」

「問題ありませぬ」番兵長が軽口叩いた。「余ったらば、干し肉にいたしまする」

「それがよろしいえ」兵士ども、笑う。「そろそろ、冬やに。よう乾きますえ」


 ハイエルフ、丘の街、水門防衛兵。

 空中警備隊長x1、隊員x2、水門番兵x3、陸軍槍兵x16。

 以上22名。

 絶望的な、戦力差であった。


「──そやに、水門は決して明け渡さぬ!」

 隊長。

 名はフォームラー。

 彼は、外人であった。出身は『荒風寺院(あらかぜじいん)』の部族。滅亡した『緑の魔術の国』の中心部族である。魔術大学を卒業後、伯父のフォームに憧れて軍に入ったが、緑の魔術の国が鬼神を怒らせ、敗戦、経済破綻。高給取りの魔術兵は大幅に縮小され、フォームラーも職を失ってしまった。

 丘の街に移住したフォームラー。嫁をもらい、子供でき、ここを故郷と思い定めた。もはや外人ではない。この戦は、彼にとっても、祖国防衛戦に他ならなかった。

 そのフォームラー隊長。

 力強く、宣言をした。

「我ら、この水門を守り、本隊展開の時間を稼ぐ!

 四半刻(30分)耐えよ! さすれば、本隊は到着、我らは勝利を手にするであろう!」

「おう!」「おう!」「とかげステーキ!」「とかげステーキ!」

「槍兵! 水門左右の影より、格子に取りつく敵を突け!」

「は!」

「空警。我らは、司祭さま到着まで待機。怪我をすな」

「は!」

「番兵、門上、クレーンの影にて、投石準備。番兵長は敵の動きを監視し、我らに伝えよ」

「は!」

 番兵長、早速、報告してくる。

「敵、水門広場に展開を完了しましたえ」

「了解」

 隊長は、槍兵を見た。

 槍兵はすでに水門左右に8人ずつ分かれ、盾かまえ槍かまえ、隊列を整えておる。

「槍兵は、あまり深く突かぬように。槍を失わぬことを第一とせよ。

 やつらに太陽の司祭は居らぬ。仕留めずとも、戦場復帰はできぬゆえ」

「は!」

「フォームラー隊長! 敵、前進開始!」

「よろしい!」

 青レザー着たフォームラー隊長、声を張り上げる。

「水門防衛の勇士諸君! とかげステーキが待っておるえ!」

「おお!」


「しゅるしゅるしゅる・・・」

 アシども。

 水門前広場に上陸しておった、4~5百人が、一斉に声を上げた。

 その音、まるで、冬を前に吹き荒れる嵐のごとし。寒々しい音であった。

 そうして、戦端を切ってきた。

「投げ槍!」番兵長の警告。「投げ槍、来まする!」

 ひゅん、ひゅん、ひゅん・・・槍が飛んでくる。

 水門から見て、第2列・3列目に当たるアシどもが、槍を投げつけてきたんである。

 その数、およそ100本。細い竹槍は、ひょろひょろと頼りなく飛び、水門の壁にぶつかった。

 水門の壁は高さ2尋(3.6m)。投げ槍が簡単に越せる高さではないが、何割かは飛び越して、こっちに落ちてきた。

「ふむ」

 隊長、上を見て、冷静に避ける。兵士らは盾をかざして防いでおる。

 ハイエルフ、ノーダメージ。だが盾をかざすなどしたため、動きは止まってしまう。

 そこに、第一列のアシどもが突撃してきた。


 ばしゃーん、ばしゃーん! ばっしゃばっしゃばっしゃばっしゃ・・・!


 いったん上陸した水門前広場から、ふたたび川へ。

 そして、水門の丸太格子へと、殺到!

 アシ、俊敏! 陸上でも水中でも、左右にくねるその図体、意外なほどに高速!

 番兵投石するも、アシ50に対し番兵3。到底防げぬ。あっちゅう間に、水門の丸太格子に取りつかれた。

「とかげどもめ!」「水門は通さぬ!」「串刺しえ!」「死なすえ!」

 ハイエルフ槍兵、丸太格子を守るべく、槍突き出して応戦す!

 水門の格子は、幅3間。

 その左右1間ずつで、格子を挟んでの槍の突き合いが始まった。

 ここは盾持ち固い地面に立つハイエルフが有利である。アシどもの竹槍を青銅のシールドではじき、返す槍でドラゴン面を突き刺して、次々にアシを脱落させてゆく。こちらが傷つくことはほとんどない。だが、たまに突き刺さった槍が抜けず、倒れるアシごと流されてしまうことがあった。フォームラー隊長が懸念した(けねんした)のはこれであった。

 そして、中央の1間にも問題があった。

 ハイエルフの槍が届かぬ中央のスペース。そこで。

 アシの1人、ギザギザの歯ついた棍棒もて、ぎこぎこぎこと格子をこすりはじめた!

「のこぎり!」兵士が叫ぶ。「ドラゴン歯ののこぎりを使うておりまする!」

 ぎこぎこぎこぎこ。

 アシ、手に持っとるのは、びっしりと牙が生えた棍棒。牙はアシどもの鋭い牙である。原始的な、のこぎりであった。

 太い丸太に、じわじわとキズが入ってゆく。だがその速度、早いものではない。水の中の作業だし、道具も劣悪なので。

「のこぎりは放置! 槍兵、そのまま左右を牽制せよ。中央は、空警がやる」

 フォームラー隊長。

 そう命じはしたものの。

 『撃て』の命令、出すことできなんだ。

「──あとは、司祭待ちやに」


32、水門のたたかい


 フォームラー隊長率いる空中警備隊の魔術兵には、ひとつ、重大な制限があった。

 『マナ切れ』である。


 マナとは、ルーン魔術師たちが呪文を使うために必要な、不思議な力である。

 目に見えず手でも触れず、それでいて、足りなくなれば呪文が使えなくなる。

 マナ。この世のありとあらゆるところにある。人間の中にもあるし、木や石の中にもある。

 そして、マナは『減る』ということはないが、移動することはある。

 神々や巨人が動くと、それにつられてマナが動く。

 人間が呪文を使ったときには、マナは吹き散らされてしまうという。

 呪文を撃てば撃つほど、魔術師の中のマナが吹き散らされ、ついには呪文が発動できんようになる。

 これが『マナ切れ』である。


「つまり、魔力が減るということだろう?」と、思われたあなた。

 全然ちがいます。

 『減る』とは『なくなる』ということ。

 『飛んでく』とは『どっかにある』ということだ。

 なくなったものはどうにもならん。しかし、飛んでっただけなら、集めてくればよいのだ。


 ハイエルフの社会には、それができる専門家がいらっしゃった。

 マナを呼び集めることのできる、神々のしもべが。


「隊長! 遅参、申し訳ございませぬ!」

 白いローブを翻し(ひるがえし)、ハイエルフの女が走ってきた。

 明るい灰色の髪を短く切った、清冽なる印象の女である。

 白いローブに、お日さま色のブレストプレート(胸甲)をしておる。盾も、額の鉢金も、お日さま色である。

「太陽神殿の司祭ハナ、および、従者2名!

 水門防衛、お手伝いいたしまする」

「司祭さま。御協力、感謝いたしまする」

 隊長、礼をする。

「早速ですが、マナ招集をお願いいたしますえ」


 そう。

 この太陽の司祭こそ、マナを招集できる、隊長が待ち望んだ助っ人なのであった!


「敵の投げ槍が降ってきますゆえ、ご注意を」

「はい! 従者、盾かまえ!」

 ハナ司祭にくっついてきたのは、やはりハイエルフの従者2人。

 いずれも娘(?)だが、重武装である。かぶと、手甲、足甲、盾、そして小剣と長剣の2本を装備。

 さっと盾を上方にかざし、ちょうど降ってきた槍1本、問題なくはらいのける。

 白い手。

 司祭が、秋の空に輝く太陽へと、その手をかざした。

「天の女神の裳裾(もすそ)になびく、清き御霊のましましたまえ・・・」

 ハイエルフらしい、若々しい声で。

 祝詞(のりと)を捧げる。

「しゅるしゅる!」

 格子のアシどもが、声を上げた。

 なにかを唱えているということは、ドラゴンにもわかるんである。警報を送ったんであろう。

 後方のアシが、即座に反応した。

 ひゅん、ひゅん・・・槍を投げてくる。

 従者2人、盾かざす。ノーダメージ。

「清き御霊の・・・」ハナ司祭、投げ槍無視して、祝詞をつづける。「ましましたまえ・・・」

 きらきら、きらきら。

 彼女の周囲に、目にも眩い光が、輝き始めた。

「あなたたちも加わって」ハナ司祭が短く命じ、すぐ祝詞を再開した。

「はい!」

 従者2人も、盾をかざしたまま、祝詞。「天の女神の・・・」「裳裾になびく・・・」

 きらきらきらきら。

 目にも眩い光、司祭と従者の周囲に、満ちてゆく。

 彼女ら3人の姿が見えんほど、光が集まった──そのあたりで。

 フォームラー隊長が動く。

 隊長。腰の小物入れに手を突っ込み、ジャラッとなにかを掴み取った。

 ばっ! 掴んだものを空中にばらまく!

 ちゃりーんちゃりーんちゃりーん。

 銀色に輝くコイン、地面に散らばる!

 それは──銀貨!

「空警! 盾を配れ! 格子防衛隊に、2枚ずつ!」

「は!」

 部下の魔術兵2人、飛ぶ!

 槍兵の頭上を飛び越して、背後に着地。即、詠唱開始!

「銀の還元、変形──盾となれ! 『銀貨の盾』!」

 司祭を包む光、わずかに減少!

 代わりに、隊長がばらまいた銀貨、ふわりと宙に浮かんで、ぐにょーんと伸びる!

 銀貨が──まあるい円盤となって、宙を飛ぶ!

 アシと槍突っつき合う、槍兵どもに!

 空飛ぶ円盤、まとわりつく!

 アシども。

 なんじゃそれ? という顔する。

 して、円盤を突く!

 かきーん。円盤、アシの槍を弾き返す!

 アシども。

 なんだと!? という顔する。

 して、円盤を避けて、突く!

 かきーん。円盤、素早く飛んで、アシの槍を弾き返す!

「盾来た!」「盾来たえ!」「これで二人力(ににんりき)!」

 槍兵ども、よろこぶ!


 銀貨の盾!

 その名の通り、銀貨から生まれる魔法の盾である!

 この盾に守られたものは、なーんもせんでも守ってもらえる! オートガードの盾!

 ハイエルフ槍兵、俄然(がぜん)、有利となった!


 魔術兵2人は、続けて『銀貨の盾』を詠唱する。詠唱する。詠唱する・・・。

 盾が水門防衛の兵士に行き渡り、さらに2巡目が配られてゆく。1枚でも強いオートガード・シールドが2枚!

 その代わり、ハナ司祭と従者を包む光は、見る見るうちに薄くなってゆく。

 そう。この光こそ、マナの輝き。

 この光尽きぬ限り、ルーン魔術師に、マナ切れはない。

 これぞ、太陽の女神の偉大なわざ──マナの招集である!


「おいら、銀貨の盾に、守られて!」「おいらぁ無敵よ、盾の裏!」「おら突け、ほら突け、ドラゴンを!」

 槍兵ども、歌い出す!

「長丁場え! 油断をすな」フォームラー隊長、方針を徹底する。「倒れることなかれ! 援軍来るまで、健在であれ!」

「おお!」

 ちょっと守りゆるんだ槍兵。守りを固め、鉄壁のかまえを取り戻す。

「しゅるしゅる」「しゅるしゅる!」

 アシども、なんかわめく。『へんな盾』『突破できぬ!』とでも、伝達したか?

「──隊長! 敵、後方、動きあり!」

 水門の上、クレーンの影から投石しながら、番兵長が叫んだ。

「黒きアシ、詠唱中! ドラゴンシャーマンと思われまする」

「番兵、投石やめ! 隠れよ! シャーマンの視界に入るな!」

 隊長はそう命じて、ハナ司祭を見た。

 女司祭は『祈願』を続けておる。いちど薄くなった輝きは、ふたたび回復しつつある。

 この輝き──招集されたマナは、使い切るわけにはいかぬ。

 司祭たちが『祈願』するにも、マナは必要だからである。

 隊長は、その見極めをした。

「・・・司祭さま。一度だけ『神速』をお願いいたします」と隊長。「まずは御自身に。余ったらば、私、部下」

 ハナ司祭は祝詞唱えつつ、頭だけうなずいた。

 そして『祈願』の祝詞が終わるとすぐ、別な祝詞を唱えはじめた。

「まどろみ垂れる我らのまなこに、神の目覚めをもたらしたまえ──『神速』!」

 光の輝きが、一気に弱まった。

 『神速』の祝詞が、マナを吹き散らしたんである。

 その代わり、ハナ司祭の目と、隊長の目に、眩いきらめきが宿った。

「ありがとうございまする」

 フォームラー隊長。水門内側の階段を登る。その足の動きが速い!

 ハナ司祭は『祈願』にもどる。その詠唱が速い!

 具体的には、1.3倍ぐらい速い!

 なめらかにして、高速! これぞ太陽の祝詞『神速』! 動きがめっちゃ速くなる!

 隊長。

 水門上に姿を現わすや、大呪文の詠唱に入った。この詠唱も、むろん、高速であった!

 ──だが、しかし。

 神速の詠唱をもってしても、一手、敵の後となる。

 水門広場の、向こう岸。森のすぐ際にて。

 ヌメヌメした黒アシ。

 ドラゴンシャーマン。

 大呪文の詠唱を、完成した。

「しゅるしゅるる──グチャグチャになりなしゃい。『ジャブジャブの黒き奔流』!」

 それは、ウミ=ジャブジャブが鬼神に浴びせた、あの呪文であった!

 ぱか。

 黒アシ、口を開く。

 その口から──真っ黒な砲丸が、撃ち出される!

 砲丸。

 水門の格子へ、一直線!


 どっ・・・・・・・・・ごおおおおおん!!!


 水門の格子を直撃!

 黒き砲丸、爆散! 黒い水煙となる!

 水門激震! 爆音、市中に轟く(とどろく)!

 詠唱中のフォームラー隊長も、ぐらりと傾く。その白いタスキ、番兵長がとっさに掴み、引き戻す!

 格子外側のアシ吹っ飛ぶ!

 格子内側の槍兵吹っ飛ぶ! 『銀貨の盾』、健気に兵士をオートガードし、ばきんがきんとひしゃげて壊れる!

 ハナ司祭と従者も黒水かぶり、詠唱つぶされ、咳き込んだ!

 ぶっ倒れた槍兵ども、すぐさま起き上がり、槍を掴み直してかまえるも──

「あ! 格子が」「格子、1本破損!」「格子破損しましたえ! 中央、縦棒1本、破損!」

 大呪文を喰らった水門。

 格子の1本がへし折れて、穴開きとなってしもうた!


33、ハイエルフ、本気の一撃


 格子に開いた、縦棒1本分の、穴。

 長細い胴体したアシ。背のつばさ折りたたみ、へびのごとくして、穴をくぐる。

 にゅるり。ざぷーん。くぐるやいなや、汚い下水に迷わず潜る。

 にゅるり。ざぷーん。にゅるり、ざぷーん! 次々に、アシが穴をくぐり抜ける!

「アシ侵入! アシ侵入!」「防げ!」「槍が届かぬ」「川に潜りおった!」「うぬう! 見えぬ。どこえ」

「やむを得ぬ! かくなる上は、川に降りて──」

「降りてはならぬ!」番兵長、叫ぶ。「敵、シャーマン、詠唱中! 次弾来るえ、川には入るな!」

 番兵長の見る先。

 先ほどとは別の、第二のドラゴンシャーマン!

 その『ジャブジャブの黒き奔流』──水門上のクレーンを、狙っておった!


 だが、今度はフォームラー隊長が先んじた。

 水門を襲った砲丸にも揺るがず続けた詠唱。

 必殺の大呪文を、まさにその第二ドラゴンシャーマンめがけて、解放する。

「岩石、破断、爆破──砕け散れ! 『岩魔弾(がんまだん)』!」


 水門前広場の地面がめくれた。

 濡れた土をこぼしながら、岩が、浮かび上がる。

 人間ほどもある岩が、1つ、2つ、3つ、4つ・・・

 バキン! その岩が、割れる。バキン、バキン、バキン・・・細かく砕けて、人間の頭部ほどの岩石となる。

 その、岩石が。

 敵陣めがけて、殺到!

 大呪文詠唱中の、ヌメヌメの黒アシ・ドラゴンシャーマン。

 回避の余裕は、なかった。


 ど! ご! ご! ごぉぉん・・・!


 地鳴りと爆音が、またしても水門を揺るがした。

 奇しくも、この岩魔弾もまた、鬼神がドラゴンに浴びせられた呪文であった。

 ・・・あ、ジャブジャブではありませんよ。黄色の竜だ(1章の真ん中らへん、「赤猿の旅」でのことです)。

 フォームラー隊長の岩魔弾は、敵を打ち据えるだけではなかった。

 ド派手に、爆発をした。

 土巻き上がり、破片飛び散り、周辺の木々にガスガスと突き刺さる。

 水門の上にまで、バラバラと小石や土くれが飛んで来おる。

 爆心地のアシども、木っ端微塵(こっぱみじん)。

 ドラゴンシャーマン、跡形もなし。

 恐るべき威力!

 この一発をもって、ドラゴンシャーマンは全滅。

 恐るべき『ジャブジャブの黒き奔流』、二度と飛んで来ることはなかった──


 ・・・余談ですが。

 これほどの威力を叩き出せる『祈願』。

 なぜ『緑の魔術の国』は、鬼神相手に使わなかったのか? と、疑問に思われた方がいらっしゃるかも知れぬ。

 それはですね。太陽の神殿の方針なのだ。

「外国における争いに、太陽の神殿は参加も協力もしない」というのだ。

 あの『緑の魔術の国』ですら、太陽の神殿を操ることはできなかったというわけなのです。


 ──まさに、祖国防衛なればこその一撃。

 ハイエルフの、本気の一撃であった。


 しかし、水門はすでに穴開き、アシの侵入を許しておる。

 アシども。大呪文にはびびったが、すぐ気を取り直し、ジャブジャブと水を蹴立てて突入して来おる。

 ハナ司祭と従者は『祈願』を続けるが、『神速』と『岩魔弾』で飛んだマナ、集め直すには、時間がかかる。


 援軍、いまだ、影も形もなし。

 水門防衛は、劣勢のままであった。

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