凶悪顔面でスイーツガチ勢の甘原君はハーフ金髪美少女レンリさんに餌付けされる。
アサブクロ
第1話 意外と可愛い
「やめてください……」
「いいじゃんかぁ、お茶くらいさぁ……奢るって言ってんじゃんか」
「っしゃあー!」
店の出口。とても長く苦しかった不安からの開放感に俺は思わず拳を高く突き上げて叫んでしまった。
「!?」
「え!?あ、
そして俺は、幸せに満ちていた。……うん。思わず叫んでしまうのも仕方ないだろう。
東京の有名なチーズケーキ店が隣の県のデカいショッピングモールで開催される東京フェアで出張販売するという事で、スイーツガチ勢の俺が見逃せるわけが無く、朝10時開店にも関わらず休日は朝10時に起きる俺が朝6時に家を出発。
だがしかし、俺が着いた朝の7時頃には店の前には結構長めの列が。
列に並んで何となくスマホをいじりながらも、ちゃんと目当てのチーズケーキは手に入れれるのか心配で仕方がなかった。
店が開店し、店員さんの案内のもとチーズケーキ店が出店している場所に進む数百人の長蛇の列。
それから並んで約1時間。不安に約4時間押し潰されそうになりながら、ようやく手に入れた……チーズケーキッッッ!!!
今から速攻で家に帰り、俺が愛飲している少しお高めの牛乳を飲みながらチーズケーキを味わいたい……
「ねぇ、甘原君!」
「ん?」
「ここで待ち合わせで良かったんだよね?!」
必死な雰囲気を漂わせて話しかけてきた金髪碧眼の美少女。その美しさからうちの学校のトップカースト勢、
後ろにはタチの悪そうなニイちゃん的な男が俺を見て「どうしよう……」と言った感じで怯えながらもヤケクソで俺にガンを飛ばしてきていた。
これは……この男から助けて欲しいということだろうか。物凄く面倒くさそうだし、正直「人違いです」とか言って立ち去りたいがそうもいかない。ここで助けなかった場合、カースト首位レベルの彼女に、ただでさえ孤立している俺みたいなやつの学校内での生活なんて簡単におびやかされる事となるだろう。だが、俺なんかが話しかけられたら学校ぐるみでいじめられないだろうか。
「あ、甘原くん!?ねっ?!」
俺の体をガクガクと涙目で揺さぶる門仲さん。ぼーっと考え込んでしまっていた。
……ここは覚悟を決めるしかないか。
「……あ、ちょっとこれ持ってて。チーズケーキが入ってるから絶対、絶対。落とさないようにね。ほんとに。絶対。……んで、さっきからガンつけてきてるお前は何だよ?あぁん?」
保冷バッグを預けてずいっと前に出る。
俺の身長は190。ちなみに顔は凶悪。今年に入って6ヶ月だが12回職質された。月2のペース。警官さんとは顔見知りだ。
そんな俺が凶悪な顔を更に凶悪にし、喋り方もヤンキーっぽくしたらめちゃくちゃ怖いだろう。多分。
「ひ、ひえっ」
「嫌がってる女に手ぇ出すなや」
男の肩にポンと手を置く。
「は、はひぃっ!」
「分かったら二度とすんなよ?」
「す、すみまへんでしたぁっ!」
男は逃げてくれた。殴り合いにならないでほんとに良かった……こういう時この顔役に立つな。前より少し好きになった。
「よし。門仲さん、それ返して」
「……あ、うん」
門仲さんからチーズケーキが入った保冷バッグを受け取る。
「ごめんね、喋ったことも無いのに女呼ばわりして」
学校で俺が門仲さんを女呼ばわりしてしまったという事が原因でただでさえ狭い学校での居場所が無くなってしまうかもしれない。何が気に触るか分からないから一応謝っておく。
「……へ?あ、い、いや、いいよ気にしないで!ヤンキーっぽい感じを出すための演技って分かってるからっ!」
「そっか。じゃね!」
早く家に帰りたい。
お詫びを済ませた俺はスタスタと早歩きで場を立ち去る。
「待たせたわねレンリ〜ってあら?」
「お、お母さん遅いよっ!」
「ごめんなさいね、ところであの人……ナンパ?」
「違うよっ!助けてくれたのっ!」
後ろからそんな会話が聞こえた。
……ナンパ扱いされてる……でも、お母さんが来てくれたなら安心だな。
保冷バッグに熱い視線を送る。
待ってろよぉ!チーズケーキちゃんっ!
―――
[門仲レンリ視点]
タチの悪そうな男にしつこくナンパされた時は死ぬかと思ったけど、甘原君のおかげで何とか助かったな……
「お礼言いそびれちゃったな……」
身長は190、顔は凶悪で猛禽類の様な目をしている。
噂では休み時間に1人、邪悪な顔でスイーツを頬張っている姿が目撃されているらしい。
イメージはデカくて怖い不良の人って感じだったけど……意外と可愛い話し方するんだ。
怖い顔でチーズケーキって言ってたな……可愛いな。確か有名なチーズケーキ店が来るとかだったっけ?チーズケーキって言ってたし。本当にスイーツが大好きなのかな。
……よし!
「どしたのなんかニヤニヤしちゃって〜」
車の中、お母さんが私をからかう様な感じでそんな事を言ってきた。
「な、なんでもないよっ!……ねぇお母さん、美味しいスイーツの作り方って知ってる?」
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