christmas☆magic
織本紗綾
どーも、サンタです♡
(前編)
「じゃあ、明日9時な」
健吾は勝手に決めて電話を切りやがった。明日はせっかくの休み、ポテチとゲームで夜更しして昼過ぎまで寝ようと思っていたのに……。
「寝るか……」
面倒くさい、そう思いながらも布団に潜り込み寝ることにする。
幸い寝付きは良い方で仕事終わりの疲れも手伝ったのか、俺の記憶はすぐに途絶えた。
ガタン……ガチャガチャ
どのくらい眠っていただろう。頭の上、ベランダの窓の辺りで怪しげな音がする。
ドッタン!!
物凄い音に驚いて顔を上げる。瞬間、赤い何かが動体視力を超える速度で飛び込んで来た。
「うぐっっ……」
腹に衝撃を受けた俺は見事ノックアウト。
「どーも、サンタです♡ 」
へたばる俺に甲高い声が挨拶をする、何で腹の上に乗ってる……。
「あれぇ?おーい、聞こえてます〜? 」
馬乗り状態のサンタは降りる様子もなく、俺の鼻をつまんだり頬を叩いて手荒な生存確認をする。
「重い……いつまで乗ってんだ」
鈍痛の収まらない腹に力を入れて何とかサンタを跳ねのける。
「ていうかお前誰だよ、何やってんだ勝手に入ってきやがって」
急に醒まされた眠気と驚きでパニックになっている俺は、正体不明のミニスカサンタを怒鳴りつける。
それなのに。
「あれぇ〜?誰かと思ったら
目の前にいるミニスカサンタは悪びれる様子もなくニコニコと派手な笑顔を向けてくる。
なんで俺の名前……ギャルの知り合いなんていた事も無い。
「やだぁ、もしかして覚えてないの? 」
だめだ、顔だけじゃわからない、頭のてっぺんから爪先までじーっと見ながら記憶を検索。
「もしかして……
俺の記憶の片隅にうっすらと制服の女子が浮かんでくる。今、目の前にいる彼女はメイクと巻き髪、浮かれたミニスカサンタの格好で……正直、面影がないけれど、つぶらで黒目がちな瞳がかわいくて、ニコッと笑うとえくぼが出来る……彼女は確かに
「思い出してくれた? 」
「な、なんだよその格好。それに何いきなり入ってきてんだ」
その満面の笑みにうろたえながら、何とかこの意味不明な状況を説明させようと試みる。
「何って今日はクリスマスイブでしょ?はい、プレゼント! 」
箱を開けるとそこに入っていたのは俺が欲しがっていた腕時計……。
「夜更ししてる悪い子はもらえないんだからね?特別だよ」
「いや、全然わけわかんないんだけど」
「イブの夜にサンタさんがいい子の所にプレゼント配るのは知ってるでしょ?それやってるの」
「へぇ……って俺いい子かよ」
「さぁ、なんかいい事したんじゃない?名簿載ってるもん」
「名簿?」
玲奈はびっしり名前と住所の入った紙を俺に見せつける。
「一番上に書いてあるでしょ、
「マジか……」
確かにその名簿には俺の名前と住所が載っている、どうせどっかから個人情報が漏れたんだろう、クリスマスイブの夜にミニスカサンタが窓から侵入してきてプレゼントをくれるなんて、そんなうまい話聞いたこともない。俺はサンタからプレゼントをもらうほど子供でもないしな。
「じゃあこれ、請求書ね」
「は!?」
やっぱり、新手の詐欺だ。でもどうして
「冗談だってば。さぁ、時間ないから早く行こ! 」
「行くってどこに? 」
「配達に決まってるでしょ、ほら! 」
不思議な事に
「は!?何だよこれ!! 」
「面白いでしょ〜」
ソリの上でパニクる俺に笑う
不安定なソリの上、バランスが取れなくてフラフラした次の瞬間。
「わっっ!! 」
ソリが大きく傾いて落ちそうになってしまった。
「ほら、あんまり騒ぐと落ちるよ」
「落ちたらどうなんだよ、どうせベッドの上とかだろ? 」
「そんなわけないでしょ、イブの街角に真っ逆さまだって」
「ま……まじか」
喋っている間に高度はどんどん上がり、俺の家も小さくなっていく。高い所が苦手な俺はゴクリと唾を飲み込む。
「
「うん、平気」
隣の
「着いたよ、届けてきて」
「俺が? 」
「もちろん。ピンクのカーテンの部屋に2番の箱を置いてきてね♡ 」
「わかったよ……行ってくりゃいいんだろ」
「これ全部配るのか? 」
「もちろん!イブのサンタは忙しいんだからね!このままだと徹夜かな〜」
こんなの今のスピードで配りきれるわけない。徹夜なんてまっぴらごめん、俺は帰って少しでも寝るんだ。
「ピンクのカーテンだな」
無駄話をやめて屋根に降り立つ。
「起こしちゃだめだからね、絶対だよ」
背中に
「はぁ〜、こんなん無理だろ、あと何件あんだよ」
「ちびっこ達に喜んでもらうためでしょ、文句言わないの」
「そもそも何で俺がサンタやらなきゃなんないんだよ、いきなり連れ出されて文句言うなって言われても無理だろ」
「バイト代なら受け取ったでしょ、はい、次で10軒目ね」
文句を言いながらもソリが止まると条件反射でプレゼントを置きに行く俺……本当に、何やってんだ。
「バイト代なんか受け取ってないからな」
ソリに乗り込むと同時に反論する。
「今何時? 」
「はぁ? 話そらすなよ」
「その腕にはまってるものは何かなぁ〜」
「げ!? なんでさっきの腕時計はまってんだよ! 俺、はめた覚え……」
「で、何時なの? 」
「えっと2時半だ」
「もうそんな時間!? 悪いけどちょっと飛ばすね」
「わっ!!おい!いくら何でも飛ばしすぎだろ」
「びっくりしたの? おもしろ〜い」
キャハハと高い声ではしゃぐ
「何見てんの? 着いたよ」
「あ…あぁ」
また袋からプレゼントを出してちびっ子の枕元に向かう。戻って来てふと
「おかえり」
「こんなん置いてあった」
手紙とクッキーの包みを差し出す。
「手紙と……クッキー? 」
「あぁ。さんたさんありがとうたべてね、だって」
「なんか可愛いね」
ふふっと微笑む
つるんとした柔らかそうなほっぺた、石鹸の様ないい匂い……俺の鼓動が速まる。
「手紙はサンタさんに渡すとして……これは食べちゃおっか」
身体を離してクッキーを差し出してくる
男の一人ぐらい、いるよな……。
何でもない素振りでクッキーを受け取る俺は、どうしても横目で
「おいし」
長い袖からちょこんと手を出してクッキーをモグモグする姿はリスみたいだ。
「これ……掛けとけよ」
なぜか袋の下にあった俺の毛布を寒そうな足に置くと、
「どうしたのこれ? 」
「持って乗ってたらしい。寒いんだろ? 」
「ありがと……優しいんだね」
「だいたい、なんでこんな寒いのにミニスカなんだよ」
「これは……ボスの好みかな? 」
「ボス? 変態か、そいつは」
「あはははっ、変態なんかじゃないよ。優しいおじいちゃんサンタだもん」
「じいちゃんでもサンタでもミニスカ好きなんて変態だろ。で、
「命令なんかじゃないって、ちゃんとバイトしてんの」
「へぇ〜、じゃあなんかプレゼント貰ったんだ」
「まぁ……そんなとこ。さぁ、話してると遅くなっちゃう、行ってきて」
「わかったから、暖かくしとけよ」
「わ、わかったってば……そういうとこ、全然変わってないんだから」
プレゼントを持って降りる背後から彼女の声が聴こえる。全然変わってない……その言葉だけが脳内で反響する。
変わってない……か。
さっきからずっと考えていた、
いつの事だっただろう、あいつといたのは。
あの制服は……中学、いや高校の頃だっただろうか。
ブルーのカーテンを開けて静かに室内へ進む。ぐっすり眠る男の子のベッド脇には大きな靴下がぶら下がっている。
靴下には入らない大きな袋をその前に置くと、またかわいいお土産を見つけた。
「ありがとな、かわいいサンタが喜ぶよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます