秘事は睫
和響
第1話 わたくしは猫でございます
わたくしは猫でございます。小林さんという家に住んでもう10年になります。10年も住んでおりますので、いろんなことを体験して生きてきました。毎日家にいますので、小林さんちのことならば住んでいる小林家の皆様よりも誰よりも知っていると思います。
わたくしがこの小林さんちに来たのは寒い冬の日でした。山奥の農家の農具庫で生まれたわたくしはその家の人に兄弟たちと川に流されるところでした。なんてひどいことをするのでしょう人間という生き物はと思いました。でも助かりました。その隣の家の親切なご夫婦がかわいそうだからと助けてくれたのです。そのご夫婦の家にはすでにたくさんの猫が住んでいました。わたくしたちを流そうとした農家の人はそれを知っていたので川に行く前に立ち寄って
「野良猫が勝手に子ども産んで困ってる。あんたらが飼ってくれないなら、川に今から捨てに行くけどどうする?」
と聞いたのです。もちろんそんなことはかわいそうだからとご夫婦がわたくしたちを引き取ってくれました。でもたくさん猫がいてこれ以上は飼うことが難しいと思い、ご夫婦はインターネットで飼い主募集をしました。そこで出会ったのがこの小林さんだったのです。
小林さんの家には今現在人間の子どもが五人、猫がわたくしを含めて三匹、トカゲが二匹、大好きなママさんとパパさんが住んでいます。
わたくしはこの家にやってきた初めての猫でしたので、最初大丈夫かと心配しておりましたが、小林さんちのパパさんは猫が大好きで、お家を新築する際に猫専用ドアをあらかじめ取り付けていてくれましたので、わたくしは家の中と庭や近所をいつでも自由に行き来することができました。
わたくしが小林さんちにきた時はまだ人間の子どもは三人しかいませんでした。わたくしもその頃はまだ猫年齢でいうところの10歳くらいでしたので、小林さんちの人間の子どもの誰よりも大人でした。その頃の小林さんちは1歳、3歳、4歳の人間の子どもがいました。わたくしはお姉さんでいてあげなくてはと思い、小林さんちの子どもたちとよく遊んであげました。
こんな感じでわたくしは小林さんちの猫になったわけです。名前ももらいました。
「幸せがいっぱいやってきますように、福ちゃん。」
小林さんちのママさんがつけてくれました。
小林さんちでわたくしが住んでいて覗き見てしまったことを誰かに話したくなってしまい、こっそり貴方さまにお話しする実話でございます。
こっそりですので、どうぞ、他言無用でお願いいたします。
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