第56話 思い出の味

私は、シーナさんの説が正しいのなら……。

アローニへと迷い込んできたのは、アロマセラピーに興味があったから、とようやく思い出せた。


そして、その日の夕飯後。

母が出してくれたのは……。

「楓香、これ好きでしょう? 食べる?」


そうだった。

ゆかりご飯のおにぎりだ。

素朴だけれども、私はこれが大好きだった。


「うん、食べる!」

私は喜んでゆかりご飯のおにぎりを頬張った。

「由佳はこれでしょう?」

由佳はゆかりではなく昆布のおにぎりを渡される。


「うん、私はこっちが良い!」

由佳は前から昆布のおにぎり大好きだった。

一緒におにぎりを頬張る。


真ん中あたりまで食べ進めると、ほんのり甘い味がする。

「あ、これはちみつ梅?」

「そうよ。梅は疲労回復に良いっていうけど、二人ともすっぱい梅よりはちみつ梅の方が好きだから、今日はそれを入れてみたの」

「嬉しいなぁ」

由佳は無心でおにぎりを頬張っていた。


母がそっとお茶を淹れてくれた。

ほのかに、変わった香りがする。

「梅昆布茶よ」

「わぁ!合うね」


私はゆかりのおにぎりと梅昆布茶を楽しむ。

由佳はお茶に気付いているのか、気付いていないのか……。

お茶を口にせず、ただただ黙々と昆布のおにぎりを頬張っていた。

「むぐっ!」

「あ!由佳、お茶!」

急いで食べようとしてむせそうになった由佳にお茶を飲ませる。


「ありがと、姉さん……」

「そんなに慌てて食べなくても良いんだからさ。落ち着いて食べなよ」

私も苦笑いするしかない。


「おかわりならあるんだけどね」

「あ、ちょうだい!」

「私も!」


私と由佳、二人でおにぎりを2つ、ペロッと食べてしまった。

夕飯の後だというのに。


そして、台所を片付けてから部屋で私は本を読みふけった。

アロマセラピー検定の本だ。


本格的に受験し、いくつか資格を取りたいな。

私はいつしかそう思うようになった。


その日を境に、母は夜食として様々な味のおにぎりを作って差し入れてくれた。

ある日はゆかり、ある日は昆布、ある日は梅……。

なぜだろう、といつも思う。

母が作ってくれたおにぎりは、なぜか一番好きだった。


アロマセラピー検定は、なぜだか日にちがなかなか合わない。

「うーん、今年に限って……」

「学校のテスト期間、そればっかりはねぇ」

由佳はもはや慰めなのか同情なのか、という声で言う。

「うん……、仕方ないんだけどね」

私は苦笑いして答えた。


それから数年経ってしまった。

私は翌週に控えた検定勉強の追い込みで、図書館に向かっていた。

横断歩道を渡っていた。

その時に、信号無視をした車が……。

私の体を跳ね上げた。


私はハッとして体を起こす。

汗で体はべたべたになっていた。

「大丈夫!?」

その声の主は……。

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