Regno degli aromi

金森 怜香

第1話 交通事故

昼間の交差点で、激しい音が響き渡り

そして、私の体に衝撃が走った……。


「救急車! 救急車を呼べー! 人が轢かれたぞ! 」


鳴り響くサイレンの音がする……

そうか、私は……


車に…かれたのか


頭の中は真っ黒になった。


妙なほど、ぐんぐんと下へ、

さらに下へと落ちていくような、

そんな感覚がした。


「そっか……、地獄に落ちるんだな……。

マジメに生きてたつもりだったのに」


ドスンッ! と再び体に衝撃が走る。


「いったたた……! って、ここどこー!!! 」


目を覚ますと、そこは……。


辺り一面、草原のど真ん中で、近くはお花畑がある。

地獄という感じはしないけど……、 

でも実は地獄って華やかなんだな、と感心した。


「驚いたよ! ケガはないかい? 」


知らない人が、私の顔を見つめていた。


「どうしてこんなところにすっ転がってるかは知らないが、時期に陽が落ちるよ。

一人では危ないから、うちに来て話をしようじゃないか! いいね? 」


頷くしかない。


自分の知り合いなどもいなさそうだ。

……せめて、先に来ているはずの人に会えれば良いんだけど。


年ははるかに上だけど、どんな人だったか……。

大切な人のはずが、不思議と思い出すことができない。


「そうだ、名前を聞いて良いかい? 」


「名前・・・…? そういえば……私、名前なんてあったっけ……? 思い出せない」


「まあ、落ち着きな。きっと、一時的な記憶障害だろう。

僕はロニーというんだ。この国の、高等セラピストだよ。

今日は散歩をしていただけで、何も持っていないからセラピーはできない。

けど、帰ったら少し気持ちを落ち着かせるセラピーをしてあげよう。」


「せらぴー? えっと、何するつもり……? 」


「安心しな。怖い物でもないから。さ、立てるかい? 」


「はい……。」


不安を感じつつ、とりあえずロニーの後に付いていく。


そして、記憶を呼び起こそうとしてみる。

思い出したのは、鳴り響くサイレン……。


―――― そう、私は……


資格を取るべく、本を借りに図書館に向かって歩いていたはず……! 


青信号で横断歩道を渡っていた瞬間、体に衝撃が走ったことまでは覚えている。


そして、救急車で運ばれた……らしいことまでは思い出せた。


だが、おそらく自分の名前を叫ぶ声の主と、

頭をよぎる物が何なのか、それは思い出すことはなかった―――― 


「もうすぐうちに着くからね。頑張って。」


ロニーが優しく声をかけてくれた。

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