World of Fairy tale 〜童話世界での軌跡〜
眼鏡 純
序章『童話の世界』
1話 とある世界の一幕
とある小さな村から、阿鼻叫喚が響き渡る。家々は破壊され、人々は血を流して倒れている。正に地獄絵図だ。
村を襲うのは、赤い体に頭から生える2本の角が特徴的な魔物─『鬼』である。鬼達を武器を片手に村人を襲い、金品や食料を強奪している。
「はぁ…!はぁ…!」
そして今、運良く村から逃げ出せた着物を着た女性が、必死に森の中を走っている。しかし、その後ろからは2体の鬼が棍棒を構えて追ってきている状態である。鬼達の方が足が速い為、距離はどんどんと縮まっていく。
「あっ…!」
迫る鬼に気を取られていた女性は、足元の木の根に足を引っ掛けてしまい、転んでしまった。それにより鬼と女性の距離が一気に縮まり、鬼達は棍棒を構えた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
尻餅状態の女性が悲鳴を上げたその時、女性の背後から疾風の如く駆ける1つの影が、鬼が棍棒で攻撃する前に、女性の隣を通り過ぎた。そして瞬く間に2体の鬼は影に切り刻まれ、その姿を消滅させた。
年齢25歳、身長185cm、黒色と赤色を基調とした甲冑を身に纏い、その上から背中に桃のマークが描かれた白色と桃色を基調とする陣羽織を羽織り、長い黒髪をポニーテールのように束ね、額には正面に陣羽織と同じ桃のマークが描かれた鉢巻を巻く影の正体であるこの男は、座り込む女性の方に振り向くと、スッと手を差し出す。女性が差し出された手を握ると、男は優しく女性を立たせる。
「動けるか?」
桃色の瞳にジッと見詰められ、女性は少し頬を赤らめつつも頷く。
「ならばゆっくりでいい、村へ戻れ。」
「えっ!?ですが村には鬼達が…!」
「案ずるな。その鬼は今から我々が殲滅する。」
そう告げると、甲冑の男は村の方に体を向き直すと、自身の部下のある3匹に指示を叫ぶ。
「『
「おー!」
「合点っす!」
「了解です!」
甲冑の男の指示と同時に、『剣を横に咥える犬』、『棍を持つ猿』、『弓を背負う雉』がどこからともなく現れ、村へと向かう。そして鬼達を次々に倒していく。そこに甲冑の男も加わり、瞬く間に鬼達を殲滅した。
「……終わったか。」
鬼の全滅を確認した甲冑の男は右耳に付けていた小型通信機を起動させる。
「こちら『
凛太郎と名乗った甲冑の男が通信相手に現場報告をする。
「そうですか…死者が出てしまったのですね…。医療部隊はすぐに向かわせます。『桃太郎』さん達は医療部隊が到着後、速やかに帰還をお願いします。」
通信相手は美しい声に悲しみを込めつつ、凛太郎に指示をする。
「了解。」
凛太郎は短く返事をすると通信を切る。
「桃のアニキ、取り敢えず怪我人は全員村の中央に集まってもらったぜ。」
凛太郎へ報告しに来たのは、銀色基調の派手な服を身に纏い、服と同様派手な装飾がされた棍をクルクルと回す猿─『
「分かった。医療部隊が到着次第、我々は帰還する。」
「りょーかい。犬っころと雉花にも伝えておくっす。」
月猿はそう言い残し、もう2匹の元へと向かっていった。そして数分後、医療班が乗る飛行型救急車が到着した。そして村人の治療が始まると、凛太郎の元に、体の側面に鞘に納めた小刀を装着し、柴犬ほどの大きさの真っ白な犬─『
「きび団子小隊、集結しました。」
『きび団子小隊』とは、犬雪、月猿、雉花の3匹を合わせての総称である。名前の由来はまた後の機会で。
「よし、帰還するぞ。」
凛太郎達は村を後にして、本拠地へと帰還した。
凛太郎達が歩くのは、芸術の如く美しい竹林であった。気持ちの良いそよ風が優しく竹の葉を揺らす光景は、正に絶景と言っても過言ではないだろう。そんな竹林の中で、凛太郎達は円形型に少し開けた広間のような場所に到着する。
すると凛太郎達に反応し、直径2メートルほどの巨大な竹が円形型広間の中央から生えてきた。そして2メートルほど伸びると、側面に竹の外見には全く似つかわしくない、SF映画に出てきそうな機械的な扉が出現し、横スライド式で開いた。中も機械的な構造で、エレベーターとなっている。凛太郎達が中央に立つと、エレベーターが下へ動き始める。同時に竹も地面へと潜り、空いた穴も綺麗に塞がって、中央広間には何も起きなかった状態となった。
竹エレベーターで地下へと降りた凛太郎達。扉が開き、目の前に広がるは研究施設の如く無機質な光景…ではなく、晴天な空に太陽が昇り、左右に美しい庭園が広がる和風渡り廊下であった。庭園の灯籠に岩、草花や小川に至るまで全て人工物であり、晴天の空や昇る太陽は天井が映し出す映像となっている。それを踏まえていたとしても、外と錯覚するほどの見事な光景である。
渡り廊下は資料室や食堂など様々な部屋に続いており、凛太郎達はその中から松竹梅の絵が描かれた大きな襖の部屋へと向かう。そして襖の前に到着すると自動的に襖が開いた。中は司令室になっており、和風構造には変わりないが、部屋の奥には巨大モニターがあったり、オペレーター達の前にはパソコンが設置されていたりと、近代的な装置もしっかりと搭載している。
「桃川凛太郎及びきび団子小隊、帰還した。」
凛太郎の声に反応して振り向いたのは、年齢19歳、身長155cm、軽量化し、動きやすさを重視した十二単を身に纏い、根元が濃く、髪先が薄くなるようなグラデーションがかかった緑色のストレートヘアに琥珀色の瞳をもつ少女──『かぐや』である。
「お帰りなさい、桃太郎さん、きび団子小隊の皆様。」
出迎えた少女の美しい声は、凛太郎が村で通信した相手と同じ声であった。因みに『桃太郎』というのは、凛太郎の愛称である。
「他の者達も出撃中か?」
凛太郎が尋ねると、かぐやが頷く。
「はい。ですが桃太郎さんとほぼ同じタイミングで通信があったので、もうじき戻られます。」
かぐやが回答した時、『他の者達』の1人が丁度帰還してきた。
「おーっす!『
年齢18歳、身長165cm、白色短髪に赤色の瞳をもち、黄緑色と薄茶色を基調としたパーカーとミディアムパンツを身に纏う活発そうな見た目の少年が、後頭部に両手を回しながらニッと笑う。
「お帰りなさい、火千さん。」
かぐやがニコッと微笑んで出迎えの言葉を送る。
「あれ?『レッドフード』は?」
火千が誰かを探すように辺りを見渡す。
「赤ずきんさんも任務に出られています。もう戻られ──あ、噂をすれば…」
かぐやの視線移動に釣られるように、凛太郎達も同じ方向に視線を向けた。するとそこには、赤色の頭巾を被る少女が1人立っていた。見知らぬ青年を肩に担いで。──そして一言。
「……拾った。」
「………。ええええええええええええ!?」
少女の一言に、一斉に声を上げて驚く凛太郎達であった。
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