他人の人生は案外面白い(かもしれない)

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“漫画を読む=暇”ではない話

幼い頃から漫画を読む、という行為は日常に溶け込んでいた。

家には何かしらの漫画が必ずあったし、さらにその影響でアニマックスやキッズステーションでずっとアニメを見ていた。


兄と弟がいるが、三人とも当たり前のように所謂“オタク”である。


私が初めて買ってもらった漫画は穴久保幸作さんの「ポケットモンスター」だったと思う。主人公レッドの相棒がピッピで、ギャグ要素の強いポケモン漫画だった。

真面目に集めていたというよりは、適当な巻を買って何度も繰り返し読んで楽しんでいた。


一巻からきちんと集めだしたのはりぼんで連載していた「GALS!」。夏休みだったか冬休みだったか、田舎の親戚の家に遊びに行っていたときに近所の公園で古紙回収に出されていたりぼんを読んだ時に出会った。お小遣いやおねだりで単行本を地道に集め、毎月りぼんを購入するまでに至った。


そこからりぼんっ子になっていくわけだが、前述の通り兄がいたために家には少年漫画も溢れていた。そのせいで私は少女漫画も少年漫画も大好きな人間に育っていくことになる。もちろんそれは兄も同じである。


漫画に囲まれていた私の生活において“漫画を読む”という行為は非常に大切な時間であり、なかなか削っていけるものではない。そういうことが、伝わりにくい相手がたまにいる。


他愛もない会話の中で「昨日は漫画読んでた」などと言おうものなら「暇だったの?」と返される。私の中では予定を空けてやっとねじ込めた“漫画を読む時間”なのだが、あまり漫画を読まない人からするとそれはイコール暇な時間になってしまうのだ。あまり躍起になって言い返してもなんだか恥ずかしいし、理解もされないかと思うと心の中で諦めて己を“暇だった”人間として肯定してしまう。


何度か「私は漫画を読みたいから、休みをその時間に充てている」「漫画を読む、という予定であり暇ではない」と説明したこともあるけれど、若干引かれたり、どうでもよさそうな返答をもらうだけで双方いい思いはしない。


以前交際していた彼にも、彼が友人と出掛けていた日に「そっちは何してたの?」と聞かれたので「漫画読んでた」と答えたら「暇かよ!」と大笑いされたことがある。まるで「俺がいないと休みの日も充実させられないんだから~」と言わんばかりである。別れてしまった理由は別にあるけれど、この件はちょっと冷めた。ちなみに交際をするに至った相手なので諦めずに説明したが一切理解を得られなかった。


私にとっての“漫画を読む時間”は他の人にとっての友人と過ごす時間、ネイルサロンや美容室に行って自分磨きをする時間、釣りに行ったりスノーボードに行ったりする時間なのだ。


余談だが個人的に今年の年末年始休みは例年よりも長いため、ワンピースを読破しようと試みている。弟が集めていて途中で滞ってしまっていたものを、百巻に到達したときに本人が何かの区切りとして続きを買いそろえたらしい。ジャンプは毎週買っているが、私の脳みそでは七日間空いてしまうと前回の話を忘れてしまうことがあるため一気読み出来るのはありがたい(読み返せば「そうだった!!」となるパターン)。ちなみに登場人物が多ければ多いほど誰が誰か分からなくなってしまうし、カタカナの名前だとなおさら覚えられない。可哀想な己の脳みそを何度呪ったことか。

鬼滅の刃も、なんと錆兎が出てきたところで「人が多くなってきたな」と思って一度挫折した。単行本が数冊出たところでまとめて読んで改めて面白さを実感して感動した半面、登場人物がまったく多くなかったので我ながらドン引きした。


覚えていられないということは、何度読んでも面白さを味わえるということなので何事もポジティブに考えたい。


たまに「一回読んだのにまた読むの?」と言う人もいるがそんなことも私にとっては当然のことなので価値観や考え方の違いには驚かされる。面白いと思った話を繰り返し見たいだけだ。毎年夏になると「となりのトトロ」が見たくなるのと同じ。思わず「一回目で気付けなかった伏線を見つけることができたり、読み進めていくうちに徐々に好きになったキャラクターの初期のころの台詞や表情を改めて楽しめる」と熱弁してしまったこともある。非常に迷惑だっただろう。


電子書籍の普及のお陰で仕事の休憩中や移動時間など、これまではボーっとSNSを見ているだけだった時間にも漫画を楽しめるようになった。私にとっての“暇な時間”はどんどんなくなって行くだろう。この幸せな時間、後生大事にしていきたい。

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