第28話 泥沼デート(2/3)



(いやこれは流石に誰も騙せねーだろ、でも知らないフリしてナンパされとかないとアカン事になりそうだしなぁ……)


(いよっしッ、流石アタシ気づかれてない! 即興だったけど中々良いんじゃない? これは新たな才能発掘よねッ!!)


 二人は今、スタバの中で向かい合っていた。

 今回の為に練りに練った、完璧なお嬢様風女装コーデの勇気とは対照的に。

 真宵の方は、オタサーの姫が男の服を来ているという印象しかない。

 だが問題はそこではない、これからどうするか、である。


(プラン変更するっきゃねぇな、避けるべきはラブホ。正体ばれが確定するし、最悪の場合――修羅場かもしれん)


(もしアタシの読み通りであれば、ユーキはヤリ目ナンパ待ちだった筈。……ならラブホに誘っても断らない。一気にチェックメイトまで持っていける)


(こっちの目的がバレてるかどうか、それが問題だ。途中で偶然を装ってはぐれる……連絡先を聞かれたらアウトだし、うっかり見つかっても手間だな)


(でも今はまだギリギリ朝、ガツガツ来る男に対してコイツはどうでる? 先ずはジャブ、雰囲気作りをするべきじゃないの?)


 表面上はにこやかにコーヒーを飲んで見つめ合う二人。

 勇気は態とらしく、ふう、と満足そうなため息を出して微笑みかけた。


「これからどうします? カラオケでも? それともゲーセンで? まさか朝から秘め事なんて……少し情緒が無いって思いませんか?」


「メインディッシュの前にはオードブルを、嫌いじゃないぜそういうの。オレもいきなりヤるより、手順を踏んだ方が好みなんだ」


「うふふっ、気が合いますわね私達。――そうそう、なんてお呼びすればよろしくて?」


「ま、――マヨ。ダチからはそう呼ばれてる」


「あくまで本名は明かさないと、ええ良いでしょう。そっちの方が一夜限りという雰囲気が出ますわ。……私の事はハルと」


 マヨとハル、勇気は彼女の安直なネーミングに。

 真宵は、友人の名の一部を借りるという強かさに目を見張る。


(おいおいおい真宵さんよぉ……、いや俺だからスルーすっけどさぁ)


(躊躇い無く親友の名前を借りたわねコイツ、中々やるッ)


 だがツッコミを入れる暇などない、駆け引きはもう始まってるのだ。

 真宵は手始めに無難な提案を、出方を見るつもりである。


「先ずは親睦を深める意味でもさ、ゲーセンで遊ぶ? それとも君みたいにお嬢様っぽい子は図書館の方とか好きかな」


「それでも良いですが、ここは映画館なんてどうでしょう。そしたらお昼にちょっと遅い時間ぐらいになりますし」


「感想を言い合いながらランチ、それからの予定はその時でもって感じかな?」


「ええ、お付き合いくださるなら。――貴男好みの下着を選んだり、大人の玩具を一緒に買ってくださっても良いことよ? ええ、もちろん映画の後で、という事ですが」


「煽ってくるねぇ、これは期待しちゃっても良いか?」


 そうと決まればと、二人は席を立つ。


(はぁ~~~~?? マジキモいんですけどコイツ!? よくそんなビッチな台詞が次々と出てくるわね。…………ま、まさかッ、ユーキの好みはお嬢様風ビッチなワケ!?)


(ありがとう春樹、そして太志……。おまえ等から借りたお嬢様系AVとビッチギャル系AV、正直好みじゃなかったが見ておいてよかったぜっ!!)


(――――帰ったら、そっちの方向で攻めた方が手玉に取れるのかしら。試す価値はあるわね)


(しかし、いかにもマネキンから揃えたって感じの適当さだなコイツの服。……それとも、こんな格好が好みなのか? 色的に好みじゃないが、後で買うかなぁ)


 各自、情報収集と今後の対策に余念がなく。

 それはそれとして、歩いて数分もかからずに映画館である。

 二人は場内に貼ってある上映作品のポスターを眺めながら、仲良く思案中。


(しかし上手くハマったな、初デートは映画館はお決まりだが。――だが今の状況、ナンパからの映画館は悪手っ、逃げてくださいって言ってるようなもんだぜ!!)


(映画館を提案してきた、そして今のユーキはビッチお嬢様、なら考えられるのは――暗闇でのボディタッチ攻撃!! なんて卑劣な奴なのッ!? 焦らすだけ焦らして男の興奮を誘いつつ思うがままに誘導するッ)


(となれば逃げやすいように、派手で熱中できそうなものを選ばないとな)


(……ボディタッチは不味いわね、でもユーキだってやり返されたら困る……いえ違うわ、服の上から触っても大丈夫なように偽装してる筈。つまりコッチが不利。ならここはコイツが好きそうなアクション系で)


 その時であった、勇気の目がとあるポスターに釘付けになる。


「あ、これ見たい」


「どれどれ? 子犬が人間より巨大になる話?」


「実は私、動物系好きなんですわ。ね、ね、これにしましょ?」


「お、おう。君がそれで良いなら……」


 二人はチケットを買い中に入ると、ポップコーンとコーラで準備万端で上映開始を待つ。


(――――はうあっ!? 完璧に素で選んでたっ!? いやでも楽しみだなぁ、実は好きなんだよねコレ系の映画)


(くッ、どういうつもりなのユーキ! こんな、こんな可愛いの間違いないのを選ぶだなんて…………)


(早く始まらないかなぁ、そうだ家帰ったらネトフリで俺のお勧めを真宵と一緒に見るのもいいな)


(惑わされないで、感動系を選んだって事はボディタッチで攻めてくる線は薄い。――まさか動物好きアピールで可愛さを演出ッ!? そ、そうなのね!? 可愛い一面を持つビッチというギャップで男を堕とす、あえて性的に攻めないッ、完全に男を手玉に取る気なんだわッ!!)


 全くの誤解である、だが真宵の思考は加速して。


(…………負けられない、コイツには負けられないッ!! ならば反撃ッ、体に触らせず、触らず、なら――――手を繋ぐ、可愛いアピールに乗ってやるわ!! そして徹底的にこの映画の内容を把握して、終わった後でアタシの感想でアンタを論破してやるッ)


 そう燃え上がる真宵であったが、いざ始まると。


(…………ふむふむ、結構面白いわねこれ)


 と、釘付けになり。


(か、可愛いッ!? これは可愛い!?)


 となり、最終的には。


(な、なんて良い話なのおおおおおおおおッ、わんちゃん可愛いし、家族愛が、愛が~~~~ッ、おろろろおおおおおおおおおおおおおおん!!)


 とボロボロ涙をこぼす始末、そして隣でも。


(くぅ~~、良い話だなぁ。俺、こういうの弱いんだよ涙が出ちゃうぜ…………ああ、なんで犬と人間の絆って尊いんだあああああああああああああっ!!)


 同じく、滂沱の涙を流す勇気の姿が。

 もはや当初の目的も忘れ、胸一杯の二人は映画館を出ながら意気投合する。


「ううっ、良かったですわ。まさかこんなに感動するとは…………」


「オレ、犬を飼いたくなったよ。そうだこれからペットショップに行かないか!」


「とても良い提案ですわっ! 今すぐ行きましょう!!」


 その後、二人はペットの話題で盛り上がり。

 気づけば夜、夕食も終わり自然と手を繋いで公園を歩いていて。


(ああ、楽しかったなぁ。後は…………うん? 後は? あ、あれっ!? 今日はフツーにデート楽しんでないっ!? あっるぇ~~??)


(じゃあそろそろ帰る――じゃ、なぁぁぁぁいッ!! なに普通に楽しんでるのよッ!? はッ、まさかこれもコイツのモテ女テクニックッ!? 術中にかかっていたと言うのッ!? なんでこうなってるのよおおおおおおおおおおおおッ!?)


 二人は我に返って、心の中で盛大に首を傾げたのであった。


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