第20話 アイドルはミニスカが命(後)



(どんなポーズでも!? 過激なやつでもっ!? こ、コイツ何を考えてるっ!?)


 罠だ、これは罠だ、迂闊であった、まったくの奇襲だ。


(逆手に取られたっ、一見機嫌がいいからウッカリ言った言葉に聞こえるだろう。――だが俺は騙されないぞっ、これはハニトラっ!! 変なポーズを指定した瞬間、ちょっとスカート持ち上げてとか言った瞬間! 最悪、俺は社会的に殺されるっ!!)


(…………え、何この反応? 何か変な誤解されてる?)


(考えろ……、この状況を乗り越える方法をっ、いや考えるまでもない、これで終わりにすれば良いんだ。満足したって言えばそれで終わりだ!)


(――――むぅ、拒否られると悔しいわね。なんか負けた気がする)


 勇気が次の言葉を出そうとした瞬間、真宵は勇気の右腕に抱きついて。


「ね、アンタって恋人っぽいコトしたいんでしょ? じゃあ丁度良いじゃない。アイドル同然のアタシと今だけはイチャイチャしましょうよ」


「っ!? は!? お、お前――――」


「…………アタシとじゃ、イヤ?」


「上目遣いとボディタッチはズルいんじゃいっ!! イエスっ、勿論答えはイエス!! ~~~~ああああああああああああっ、イエスって言ってしまったぁっ!!」


「あははっ、バカねユーキ。吐いた唾は飲めないわよッ!! これからアンタはアタシとイチャイチャするのよッ!!」


「畜生っ! 畜生っ! 俺のバカ!! 真宵に魅力に理性が負けたっ!!」


 ころっと見事に転がった勇気の姿に、真宵はとても満足である。

 ならば次は、言葉通りイチャイチャするべきだ。


(ククッ、バカね裏なんて無いってのに……)


(ちっ、言ったもんは仕方ねぇ!! こうなれば逆手に取ってやる!!)


(なんてコトを考えてるに違いないわ、でもね――)


 視線が交わる、火花が散ったような錯覚を勇気は覚えた。

 しかして真宵は笑顔で彼の背後に回り、膝かっくんをくりだした。

 次の瞬間、彼視界はぐらりと揺れて。


「ほわっ!?」


「いえーい、ユーキ討ち取ったりぃ!」


「なんで押し倒したっ!? なんで馬乗りになった!!」


「え? 踏みつけにされた方が良かった?」


「これの何処がイチャイチャなんだよっ!?」


「それはね――こうするよっ!! ほーらアンタの様なオス豚はこうされるのがお似合いよ!! くすぐられて笑い死になさいっ!」


「あひゃひゃひゃひゃひゃっ!? お、お前っ!? はははははっ、や、やめろぉ!? ドM以外はご褒美じぇねぇよ!!」


 どこでこんなテクニックを覚えたのか、真宵は的確に勇気をくすぐって。


「うーん、流石はユーチューブ。男をくすぐるツボって本当なのねぇ……」


「なんでそんなのある――――あははははははっ、ま、マジでっ、マジで止め――はははははははっ!!」


「うっわ、楽しい、これスッゴく楽しいわ……」


(ふおおおおおおおおおおおっ、殺されるっ!? このままだと笑い死ぬぅ!?)


 危機的状況に勇気の灰色の頭脳がフル回転を始める、活路はどこだ、どうすればこの状況を脱出する事が出来る、と。


(力任せに、いやダメだ今は加減が出来んっ! まともに話せないから言葉じゃ止められないし――)


 方法はある、たった一つ。

 でもそれは、可能な限りやりたくない。


(……俺もコイツをくすぐるっ!! だがそうするとコイツの体に触れる事になるっ!!)


 端的に言えば、女の子の体を遠慮なく触るという事で。

 ともすれば、変なところを触ってしまうかもしれない。

 だが、――背に腹は代えられない。


「お返しだっ! お前も笑えええええええええっ! はははっ、あっはっはっはっはっ!!」


「あはははははははッ、ちょッ、それッ、アンタ反則――――あはははははははははッ!!」


 もはや上下が入れ替わったり、横になったり無法地帯。

 わき腹をくすぐられたら、わき腹を。

 足の裏をくすぐられたら、足の裏を。

 首筋なら首筋を、背中なら背中を、太股なら太股を。

 そして。


「ひゃんッ!?」


「――――…………むにっ? むにって何だ…………んんっ!?」


「あ、アンタねぇッ!! それは反則でしょッ! いったい何時まで揉んでるのよバカぁッ!!」


「うわらばっ!?」


 びたーん、と軽快な音と共に勇気の頬に衝撃が走った。

 然もあらん、彼がくすぐった。

 もとい、勢い余って揉んでしまったのは真宵の臀部。

 そんな事をすれば、流石に彼女としても我に返る。


「~~~~ッ、もう!! これでお終い!! 今のは水に流してあげるから忘れなさいッ、いいわねッ!!」


「お、おう……」


「うううッ、手をワキワキさせて反芻するなぁッ!!」


 勇気から座布団一枚分離れた距離で、顔を真っ赤にして恥ずかしがる真宵に姿を。

 勇気は呆然としながら、こくこくと頷いて。


(や、やわっこかったぁアアアアアアアアアアアアアっ!?)


 忘れろと言われたところで、はいそうですか、と素直に忘れられる訳が無い。

 彼女はミニスカートの後ろを押さえながら、瞳を潤ませて勇気を睨む。

 その姿がまた、彼の心の琴線を震わせて。


「…………お前、何処まで可愛いんだ?」


「ばかッ! ばかばかばかばかッ!! ホントばかねアンタっ!!」


「はははー、すまんすまん、マジですまん。だからその拳は甘んじて受けるけど、力が入って無さ過ぎてマジで可愛いだけなんだが??」


 羞恥のあまり彼をポカスカ殴り始めた真宵であったが、二人は気付かなかった。

 彼女のアイドル衣装が、今まさに分解しそうになっている事を。

 そうだ、その衣装は裁縫素人である勇気の作品。

 つまり、色んなところが雑であり。


「――――あ」


「は? 何よその顔、また何か…………、あれ? ちょっとスースーする様な…………~~~~ッ!? ちゃ、ちゃんと作りなさいよバカッ!! というか見るなッ、あっち向けぇッ!!」


 刹那、スカートが落ち、ブレザーも半壊。

 それに気付いた真宵は、必死に下着を隠そうと、服の位置を維持しようと格闘を始める。

 結果、とてつもなくチラリズムに溢れたフェティッシュな光景が勇気の眼前に広がって。


「――――千円、いや一万円払おう。だから写真撮っていいか?」


「良いわけあるかボケぇッ!! せめてガムテが洗濯バサミ持って来てよッ!!」


「悪いつい本音が、というか後ろ向いてるからそのまま着替えて来いよ。…………うん、すまんかった」


「…………ばか、後で直しておきなさいよね」


 そうして、真宵のアイドル衣装初体験は終わった。

 彼女がいつもの芋ジャージに着替え終わるのを、勇気は激しい気恥ずかしさに襲われながら待っていたが。


(うん? 英雄兄さんからメッセージ? ――――――はいいいいいいいいいっ!? 真宵にモデルの話だってぇっ!?)


 予想外過ぎる話に、目を白黒させたのだった。



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