【SS】シンデレラガール

枝折(しおり)

シンデレラガール

私はごく普通の女子高生です。


スクールカーストでいえば、真ん中よりちょっと下くらいにいます。

人畜無害なので、所謂いわゆる「陽キャ」と呼ばれる人たちにいじめられることもありません。

平穏で楽しい学園生活を送っています。


私は美術部に所属しています。


部室の窓から校庭を眺めて、四季で次々と移り変わってゆく景色を背景に、運動部の人たちが練習する姿を描くのが習慣になっています。


そんな私の生活が変わったのは、超が付くほど美形の慎也君が転校してきてからです。

彼が教室に入ってきた瞬間、空気が変わるのを感じました。

女の子たちは皆、頬を染めて彼に魅入っていました。


先生は、ちょうど空席だった私の隣に慎也君を座らせました。

彼は私の目を見て「よろしく。」と言いました。

私はこんなに格好いい人に見られていること自体が恥ずかしくて、情けないことにただ頷くことしかできませんでした。


ある日、私はクラスで目立つ女の子たちの集団に呼び出されてしまいました。

彼女たちは、私が「陰キャ」の癖に慎也くんに色目をつかっていて目障りだと言うのです。


怖くて震えていたら、なんとそこに慎也くんが現れました。

「くだらねーことやってんじゃねーよ!」

何だか分からないけれど、すごく怒っています。

女の子たちは涙目になりながら去っていきました。


慎也くんは、腰が抜けてしまった私を支えて、

「大丈夫?」と優しく聞きました。


それから、続けました。

「俺、君の書く絵が好きなんだよね。

この前たまたま美術室の前で見かけたんだけどさ。

君の目には殺風景な校庭があんなに輝いて見えてるんだね。」


この事件をきっかけに、私達は急激に仲良くなりました。

しばらくして、私達は付き合い始めました。


大変なこともありました。

慎ちゃんが急にそっけなくなったときは泣きそうになったけど、私がお兄ちゃんと歩いているのを見て誤解したみたいです。


不安もついて回りました。

特に、前の学校のとっても可愛い元カノさんが慎ちゃんの前に現れて復縁を迫ったときなんて、もう捨てられるんじゃないかと思いました。


色々あったけど、私達は今も付き合っています。

今後も幸せに笑い合っていくでしょう。


きっと、ずっと、このきらきらと輝く校庭のそばで。


***


12時の鐘が鳴る。

「こんな夢みたいな話あったらいいよね~」

と笑って、あなたたちはパタンと本を閉じます。


「おなか減ったあ、お昼食べに行こ!」

なんて言いながら、日常へと帰っていきます。


待ってください。

どうか置いて行かないでください。

私もあなたたちのいる世界に連れていってください。


拭いきれない劣等感とか、取り返しのつかない後悔とか、濃密な関係を結ぶ背徳感とか、あなた達が経験するものを全部ぜんぶ、私も味わってみたいのです。


私の目に映るものを輝き一色から塗り替えられたらどんなにいいか。


安易な気持ちで私を生み出して、永遠の楽園に閉じ込めたことを私は許しません。


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