教室ではぼっちな僕だけど、たゆんたゆんな美少女先輩の餌付けに成功したので勝ち組確定ですヾ(≧∇≦*)/

タカテン

第1話:先輩の餌付けに成功したっ!

「好きです、春巻さん! 俺と付き合ってください!!」


 昼休みの屋上。

 ご飯を食べてる僕の前で、突然繰り広げられる告白劇。

 男の横顔はトマトみたいに真っ赤で。

 女の子は春のそよ風にゆるふわな髪をふわふわ腰のあたりで揺らしながら、愛嬌のある美少女然とした大きな瞳を驚きの色に染める。

 大きくて目立つ自分の胸に女の子が手を置いた。心臓に落ち着いてと言わんばかりに。

 それでもそわそわした気持ちは抑えきれないようで、きょろきょろと周りを見渡し、ようやく僕の存在に気付く。


 そして女の子は口元をキラリと光らせた。

 

 ☆ ☆ ☆

 

 キーンコーンカーンコーン。

 四時限目の終わりを知らせる鐘が鳴って先生が出て行くと、教室は一気に開放的な空気で満たされた。

 楽しそうにおしゃべりしながら食堂へ向かう者たちがいる。弁当箱と椅子を持ち寄ってグループを形成する奴らがいる。

 そんな中、僕はただひとり無言で鞄を持って立ち上がると、いつもの如く静かに教室を出て行った。

 

 そうですよ、ぼっち飯ですよ!

 ぼっち飯の何が悪い!?

 

『親の仕事の関係で関西からやって来ました。よろしくお願いしますー』


 それは入学初日のこと。この日の為に頑張って身に付けた標準語で自己紹介した僕に、クラスメイト達の反応は過酷すぎた。

 すなわち「関西人らしい面白いネタやってくださーい」という無茶ぶりだ。

 この際だからはっきり言う! 

 関西人だからと言って、みんながみんな鉄板ギャグを持っていると思うなよ、この東京人たちめ!

 おかげで初日から「関西人のくせにつまらない奴」というレッテルを貼られ、あれから一週間たった今も友達ひとり出来やしない。

 

 ああ、友達が欲しいなぁ。

 休み時間にはくだらない話をくっちゃべったり、放課後には一緒に街へ遊びに行くような、気の置けない間柄の友達が欲しい。

 さらにはそれが可愛い女の子で、おっぱいが大きかったりしたらもう最高だ!

 

 ……と、叶わぬ夢を見ていても空しいだけなので、昼食を摂りにいつもの場所へと向かった。

 ぼっち飯と言えば便所飯だけど、あれはまだぼっち生活一週間の僕には難易度が高すぎるのでパス。

 なのでもっぱら利用するのは、屋上へ繋がる扉の前だ。

 ほら、今日も誰もいない絶好のぼっち飯スポット……ん?

 

 見ると屋上への扉がうっすらと開いている。いつもは鍵がかけられているのに何故?


 まぁその理由を深く考えることもなく、僕は屋上へ出てみた。

 おおっ、結構見晴らしがいい!

 僕の通う高校は、東京は練馬にある。一応は東京二十三区のひとつではあるものの、都会らしい高層ビルはなく、そのほとんどが小さな民家が密集している地域だ。

 だからこうして屋上へ登ると、遥か西には富士山が、東には池袋のビルの山々が見えた。


 うん、いいね。今日の昼ご飯はここに決定!

 でもその前にひとつ、日頃のうっ憤を晴らす為にも叫んでおくか。

 

「東京都民とか言ってるけど、練馬区民なんてほとんど埼玉県民じゃねぇか!」


 と、その時だ。

 いきなり背後でがちゃりと扉が開いて、見知らぬ男の人が屋上へ出てきた!

 やばい、今のを聞かれた!?

 マズイことになった。練馬区民に埼玉の話は御法度。殴り殺されても文句も言えない禁忌中の禁忌だ。

 

 でも、幸いなことに男の耳には届かなかったらしい。

 逆に何故か僕を見て酷く動揺した素振りを見せた。

 ネクタイの色を見るに二年生。本来なら下級生である僕を叱りつけることはあっても、キョドることなんてないはず。

 なのに何故かばつが悪そうな表情を浮かべるばかりで、極力こちらを意識しないようにしている。

 

 何だか知らないけど、とにかく助かったみたい。

 だったらと僕は屋上の片隅に腰を下ろし、フェンスを背もたれにして昼ご飯を食べることにした。

 今日はうちの親父特製・超巨大メロンパン。どれぐらい大きいかと言うと僕の顔ぐらいある。

 味の方もなかなか。親父のポリシーである「美味くて腹いっぱい!」を見事に体現した逸品に、思い切り口を開けて齧りつく。

 

 するとまた屋上への扉が開いて、今度は女の子が出てきた。

 この展開にさすがの僕も察する。

 つまりは愛の告白か、それともさらに進んだ愛の営み(お昼ご飯を一緒に食べること。それ以上は学校なので禁止)か。

 どちらにしろぼっち飯の僕には居心地が悪すぎる。さっさと撤退しますか。

 

 齧りついていたメロンパンから口を離した。

 代わりに誰にも聞こえないぐらいの小さな声で「ふられてしまえ」だの「別れろ」だのと呪詛を吐く。 

 おまけに女の子を見れば、これまたやたらとおっぱいの目立つ子だった。あんな子と付き合えるだなんて羨ましすぎるッ! いや、交際だなんて父さん、絶対に許さんぞ!! 

 とか思っていたら……。

 

「好きです! 付き合ってください!!」


 いきなり男がなんの前触れもなく告白した!

 

 ちょ! まだ僕がいるんですけど?

 え、僕の存在に気付いてましたよね? 退散しようとする素振りも見せましたよね? なのにどうして待てないの!?

 どんだけテンパってるんスか、先輩!!

 

 突然の告白に女の子も虚を突かれたように驚いていた。

 心臓を落ち着かせるように右手で自分のおっぱいを鷲掴みにし、それでも動揺のあまりあたふたと辺りを見渡し始める。

 その視線が僕を捕らえた。

 さすがに耐え切れず僕は逆に目を背ける。


 すみません、お邪魔ですよね。

 はい、僕だってすぐに撤退しようとしたんですよ。でも、そこのテンパリ先輩がいきなり告白なんてするから逃げ遅れちゃって。

 僕だって被害者なんですよぉぉぉぉ。

 心の中でいくつもの言い訳を並べる。

 なのにいつまで経っても彼女はじっとこちらを見てくる。

 一体なんなんだ? 今からでも遅くないから早く立ち去れと訴えているのか?

 

 僕はちらりと彼女の方を覗き見する。

 思わず「あ、かわいい」と小さく声をあげた。


 長くてゆるくふわっとウェーブさせた髪を腰のあたりで揺らし、少し垂れ気味で大きく見開かれた瞳は茶目っ気たっぷりな色合いが濃い。

 鼻は小さく主張控えめ。頬はほどよくふっくら。身長は高くもなく低くもなく、おっぱいがやたらと大きいけれど太っているわけでもない。そのおっぱいを飾るリボンの色が彼女は僕の先輩だということを訴えてはいたけれど、彼女自身に先輩としての尊厳のようなものは一切感じられず、むしろ守ってあげたいという気持ちを喚起させる可愛らしさのオーラを全身に纏ったような人だった。


 そんな可愛い先輩の口がきらりと光った。

 一瞬何かは分からなかった。可愛いとは正義だと聞く。ならばかくも可愛いオーラを纏う人物なら自然と口元も光り輝くものなのかと一瞬本気で思った。

 が、マンガやアニメじゃないんだ。そんなわけがない。次々と光の粒が口元から滴り落ちるのを見て、僕は現実を理解する。


 え? もしかしてあれって涎?

 告白を受けている最中に涎ってドウイウコト?


 その困惑はすぐ大混乱へと変わった。

 あろうことか、その可愛いオーラのおっぱいでけー先輩がこちらへつかつかと早歩きで近づいてきたのだ。 

 おおっ。おっぱいの揺れ、すげー!

 

 そして混乱する頭とおっぱいのダイナミックな動きに翻弄される僕――の手元を指差して言った。

 

「そのメロンパン、すごいねぇ。大きくてすごくおいしそー」

「は?」

「ねぇねぇ、それどこで買ったのー? 教えて欲しいなー」

「あ、えっとこれはうちの親父が作った奴で……よかったら一口食べます?」

「ほんとー!? わーい!!」


 両手を上げて無邪気に喜ぶものだから、目の前で先輩の巨大すぎるおっぱいがぽよんとスライムみたく揺れる。

 その様子を脳内ハードディスクに最高画質で録画しながら、僕は手にしていたメロンパンを差し出した。

 手にしたメロンパンに目をキラキラさせながら、齧りつく先輩……って、あ、そこは僕が食べかけのところ!

 

「うーん、おいしー!」


 慌てて止めようとしたけれど、先輩には何の問題も無いようだった。

 むしゃむしゃと頬張り、にこーと満面の笑みを浮かべる。


「すごーい、こんなに大きいのにおいしいよう、これ!」

「あ、どうも。親父も喜ぶと思います」

「いいなぁ、こんなおいしいメロンパンを作ってくれるお父さんがいるなんて、羨ましすぎるよぅ。うちのお父さんなんていつも出張で滅多に家に帰ってこないんだよ?」

「そ、そうなんスか? というか、あの、いいんですかね、あれ」


 目線を屋上の扉近くで呆然と立ち尽くす男先輩へと移す。

 その意図を汲み取ってか、食いしん坊美少女おっぱい神先輩(仮称)も振り返った。

 

「あ、ごめーん。あんず、よく知らない人には付いていっちゃいけないってお兄ちゃんに言われてるんだー」

「え、いや、でも俺、去年一年間一緒のクラスで……」

「ごめんねぇ。あたし、人の顔をなかなか覚えられなくてー。お菓子とかだったら一目見たら忘れないんだけどなぁ」


 おおう、食いしん坊美少女おっぱい神先輩、実は食いしん坊ぽんこつ美少女おっぱい神先輩(確定)だった!

 

「えっと、先輩? 知らない人に付いていってはいけないのなら、知らない人からパンを貰うのもダメなんじゃないですかね?」

「あ、そっか。それもそうだね。えっと、あたしは春巻はるまきあんず。2年C組だよ」

「僕は高梨亮たかなし・あきら。1年C組です」

「うん、たかなし君……なんかラノベの主人公みたいな名字だねぇ」

「よく言われますけど小鳥遊じゃなくて『高い』に果物の『梨』って書いて『たかなし』なんですよ」

「そうなんだ。あたしの『あんず』は平仮名なんだー。みんなからは名前の中に食べ物が二つも入っているなんてあんずらしいってよく言われるんだよ」


 あ、それ、僕も思いました!

 

「はい、これで知らない人じゃなくなったね! なのであんずはお兄ちゃんの言うことを守る良い子なのでしたー」

「ははは、そう来るんだ……」

「ところで高梨君はどうしてこんなところでお昼ご飯を食べているのかな?」

「……先輩、さっきの告白の断り方といい、結構言うことがキツいですね」

「そかな?」

「そうですよ。こんなところでぼっち飯なんて、見たら分かるでしょ?」

「ぼっち飯! それはダメだよ、高梨君。ご飯は友達と一緒に食べてこそ美味しさが倍増するんだから!」


 あんず先輩がぷぅと頬を膨らませて力説する。

 それは分かってるんですけどね、でも肝心の友達が……。

 

「よし! だったら高梨君、あんずの部活に入ろうよ!」

「へ? 部活?」

「うん! そして一緒にお昼ご飯を食べようー!」


 そう言って何故か手にした巨大メロンパンを高々と天へ掲げるあんず先輩。

 その光景を見て、なんかこんな風にドーナツを掲げて気合を入れるアニメがなかったっけと思いながら、僕はただただあんず先輩の顔――そしてやっぱりこんな時にでも自己主張が激しすぎるおっぱいを呆然と見つめていた。

 

 

 

 

 

 おまけ。

 

「あ、メロンパン返すね。ボク、メロンパンマン! ボクの顔をお食べ!」

「お食べってそれ、僕のですけど。てか、メロンパンナちゃんの存在は無視ですか、先輩!?」


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