気になるあの子がやっていた不思議なこと
蒼井青葉
第1話 目撃
儚いものと言えば、と聞かれてあなたは何を思い浮かべるだろうか。
触れたらすぐに溶けてしまう雪、届かない夢、人生、そして—
叶うことのない片思い。
これらは一般的に儚いものだとされており、儚いからこそ美しいと思う人もいるはずだ。
けれど、俺は美しいものだとは思ったことはない。
俺は片思いに苦しんでいる。苦しみを伴うものを美しいとは思わない。
❀❀❀
昼休み。俺、
いや、別に寂しくなんかないからな。マジで。あと、別にいじめられてるとかそういうわけでもない。ただ目立たないように心掛けているからだ。
自然と、ある人の方に目がいった。彼女も一人で黙々と食べており、じーっと誰かを見つめていた。すっげえ視線。ゴゴゴとかいう効果音が聞こえてきそうだ。
彼女、
花藤さんは昼食こそ一人で食べているものの決してぼっちというわけではない。他クラスの生徒だっただろうか。その人と親し気に話しているところを見たことがある。部活には所属していないが運動は結構できるらしい。女子たちが話しているのを聞いたことがある。特段目立っている生徒というわけではないが、俺の目から見ると正直に言ってすごく、美人だと思う。紫っぽい黒髪はさらっさらで光り輝いているし、足長いし、眼大きいし。
何でそんなに花藤さんのことを知っているのかって?
そんなの決まっているだろ。
「やっぱり綺麗だな・・・・・花藤さん」
俺が片思いしている相手だからだ。知るわけないよな・・・
正直、ほとんど一目惚れだったと思う。この2年1組の教室で初めて彼女を見た時から気づけば目を奪われていた。
どうしてこんなに気になるのだろう。
どうしてこんなに目がいってしまうのだろう。
どうしてこんなに彼女のことばかり頭に浮かぶのだろう。
そんなことを考えた結果、「あ、これ恋だわ」という結論に至ったのだ。単純な思考回路だな、と思わず笑ってしまった。
俺は彼女から目を逸らし、窓の外を見た。俺みたいなやつが女子をじっと見てると変態に思われるからな。ばれないようにやらないと。まぁ、どう気を付けたって目がいっちゃうんだけど。
仕方ない、恋だから!
はぁ、とため息をついた。今日で何回目だろうか。最近、やたらとため息が漏れる。窓の外はペンキを塗りたくったようなどんよりとした曇り空が広がっており、いっそう暗い気分になる。
それにしても、花藤さんは誰のことを見ているのだろうか。
彼女の視線の先、教室の中央に目を向けるとそこには5人ほどの男女がグループを作っていた。中でもとりわけ目立っていたのは黒髪短髪で長身の男子、
花車は端的に言ってイケメンであり、女子に大人気。おまけに性格もいいときた。あいつがいると俺の存在なんてかすんで見えなくなってしまう。地味に俺と同じ中学出身だがあまり接点はない。
そして光田は男子に大人気のアイドル的存在。明るい性格でクラスを和ませてくれる。さらにコミュ力も高い。
なぜこんなにも不平等なのだろうか・・・
俺なんてまだましなのは顔(多分)と勉強くらいだ。あくまでましなだけでそこまでいいというわけではない。絶対そうだと思う。
ふたりの他にもそこそこ目立つ生徒たちが集まっており、昼休みだけでなく短い休み時間でも彼らはグループを作っている。花藤さんは彼らを見ていることは確かなのだが具体的にどこを見ているのかはやはりここからは分からない。かといって近づいて視線の先を探るのはなぁ・・・
無理だ。
うーん、女子がじっと見つめる相手っていうとどういう人物だろうか。
・・・・・・・・・・・片思いの相手・・・・・恋敵・・・・
なんで恋愛関連のことしか思いつかないんでしょうね。俺が絶賛片思い中だからでしょうか。
って、もし片思いの相手だとしたらヤバいな。いや、恋敵をじっと見つめていてもそれはそれでヤバいと思うけど。
もし、そうだとしたら花藤さんには好きな人がいるということになる。
うわぁぁぁぁ、考えただけで死にたくなる!!
だから考えないようにした俺だった。
❀❀❀
放課後。いつものようにさっさと帰り支度を整え、教室を出た。花藤さんとどうにかして接点を持ちたいなと思いつつもなかなか踏み出せない。俺は心の奥底で怯えているのだ。
昇降口で靴を履き替え、外に出ると天気は今にも雨が降り出しそうだった。
「さっさと帰ろう」
駐輪場から自転車に乗り、校門を抜けた。この学校の生徒のほとんどは自転車通学だ。自宅から自転車に乗って来るか、最寄りの駅から自転車に乗って来るかのどちらかだ。
学校近くにある坂を下り、少しいったところの交差点で赤信号に捕まった。
くそ、さっさと帰りたいのに。
「ん・・・・・?」
ふとポケットを触ってみると違和感があった。ないのである。感触が。
「やべぇ、机にスマホ忘れてきた・・・・!!」
気づいた瞬間、即座に学校へ向けて自転車を走らせていた。雨が降る前に帰りたいのに。こういうときに限ってツイてないんだよな、俺って。
坂を全速力で上り、校門を抜けて駐輪場で自転車を停めたときには息がかなり上がっていた。
校庭にいる生徒はまばらで、おそらくほとんどの生徒が部活を始めているのだろう。俺はその中を走り抜け、昇降口で靴を履き替えて階段を上った。何で2年生の教室は4階にあるんだろうな。階段上るだけで疲れる。まぁ、1年生は5階にあるんだけど。
4階にたどり着き、静かな廊下を進み、2年1組の教室に入ろうとしたが中から誰かの話し声が聞こえてきて咄嗟に身を伏せた。恐る恐る中を窺ってみると—
「どうしたの、水樹?話って」
「う、うん・・・・・・・・」
花車大輝と花藤さんのふたりだけが何やら話をしているところだった。
え、話?何だろ。もしかして告白とか?だったら俺、今すぐここから去らないと。
と思ったものの好奇心が俺をこの場に留めた。心なしか心臓の音がいつもより早く聞こえる。俺は息をのみながら再び様子を窺ってみた。
「あ、あのね・・・・・」
「うん・・・・・・・・」
次の瞬間俺は不思議な光景を目の当たりにするのだった。
「ごめんっ!!」
「・・・え?うわっ!!」
なんと花藤さんが手に持っていたらしい瓶の中身を振りまいて花車とともにバサッと被ったのだ。二人の周囲に砂煙のようなものができて彼らを包み込んだ。
は?何やってるんだ・・・?
彼女の謎の行動に疑問が浮かぶばかりだった。なおも彼らの様子を窺ってみると—
「けほっ、けほっ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「は、花車くん・・・・?大丈夫・・・?」
煙が晴れて二人の様子が見えるようになった。ぼーっと何も言わないまま突っ立ている花車に対し花藤さんが声をかけると、彼はとんでもないことを言い出したのだった。
「俺・・・・・花藤さんの事、好きだわ」
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