痛みと友達
「ほんとさー、見てるだけでムカつくよね、こいつ」
いつまでこんな理不尽な事が続くんだろう。
「無神経なんだよ。だって人の気持ちを分かったうえで、平気で裏切るんだもん」
どこで捻じれてしまったんだろう。
「だよね。人の心ってもんがないんだもんね」
どこで、おかしくなってしまったんだろう。
「だから、ちゃんとあたし達が教えてあげてんだよ。痛みってやつをね」
人の心。痛み。どちらも分かってるつもりだ。なのに、どうしてこうなってしまったんだろう。
もう使われていない旧校舎にわざわざ連れられ、古びた倉庫の中で私は後ろから羽交い絞め、両足もそれぞれ押さえつけられ、身動き一つ取れない状態だった。そして口にはガムテープを何重にも張られ、悲鳴を上げることも満足に出来ない。
自然と身体が恐怖で小刻みに震える。何に。その恐怖は目の前にいる。
「反省してる?」
そう言われ、私は反射的にこくこくと頷く。微かな希望にすがろうとする。
彼女は何も言わず。私の制服の白いシャツに指を伸ばす。身体がビクリと震える。その手は優しく優しく、上からシャツのボタンを一枚一枚外していく。
何をされる。何が始まる。ボタンが全て外れ、彼女の両手がシャツを左右に広げる。素肌が外気に触れ、私は思わず顔を背ける。
「うーわ、純白。あんたの心とは真逆だね。似合わねー」
後ろで羽交い絞めにしている女子が邪悪な笑いを含みながら私を言葉で汚していく。そんな言葉を浴びながら、今度はブラを肩からするっと外され、胸がはだけた。
「綺麗だね」
目の前の彼女が優しく微笑む。でもそれが本物の笑顔じゃない事は分かっている。
よくない事が起きる。またよくない事をされる。
怖い。怖い。怖い。恐怖に心が支配されていく。
「うーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
途端に私は叫び声とともに身体を暴れさせた。押さえつけられたずしりと重い両手両足をがむしゃらに動かそうとする。
「おい! 暴れんじゃねえよ!」
「んだよこいつ! じっとしてろよ!」
暴れだした私に驚いた周りが更に力を込めて、私の動きを封じようとする。
結局非力な私が押さえつけられている三人の力を解くことなどかなわず、結局何一つ事態を変える事など出来なかった。
「どうして暴れるの?」
ゾッとするほど柔らかな声音が耳に入り込んでくる。
「反省してたら、そんなふうに暴れないよね」
変える所か、悪化だ。
「みきこが悪いんだよ」
彼女が右手を制服のポケットに手を入れる。すっとポケットから引き抜いた手に細い針が握られている。そして何の躊躇もなく、胸の膨らみにずぶぶと差し込まれた。
「っい……!」
鋭い痛みが全身に駆け巡る。針がするっと抜かれ、胸からぷくっと血だまりが生まれ、肌をつーっと流れ落ちていく。
「痛い?」
私は力なく頷く。
やめて、もうやめて。頷きは彼女の問いにではなく、懇願によるものだった。
「私だって痛かったんだよ」
そういって彼女は私の胸の真ん中に手のひらを添える。
「ここが。この奥が」
彼女が寂しそうに俯く。こんな状況なのに、儚げな彼女の顔を見て、やっぱり綺麗だなんて思ってしまう自分がいる。
「わかって欲しいんだ。どれだけ痛かったか」
「……」
「どうやったら分かるかな。こんな針で刺しても、多分わかってもらえないよね」
そんな事はない。これ以上痛い思いはしたくない。私はぶんぶんと首を横に振る。
「どんな痛みが近いかな」
私のそんな挙動など見えていないのか。彼女は手に持つ針を胸にゆっくり、弄ぶように這わせる。針の冷たい感触がぞわぞわと神経を撫でていく。
「分かって欲しいだけなの」
針はある一点で止まった。
嘘。やだ。やだやだ。やめて。やめて。やめて。やめて!
「だって」
針は、膨らみの先端につんと当てられていた。
「みきこは友達だから」
そのまま、針は一気に押し込まれた。
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