第21話 暴かれるアーサーの現実


「このバカ息子がー!!」

息子がぁぁーーがぁぁーーぁぁー・・・


伯爵の怒りの声がホールに反響している。


突然学長と共に現れたと思ったら、息子を怒鳴りつけた伯爵を、皆が驚愕の目で見ていた。

驚き過ぎて腰を抜かしそうになっている、息子のアーサー以外は。


伯爵、温和で紳士的なイメージだったけど、怒ると怖いのね。


コホンと短く咳払いをし、学長が一旦自分へと注意を促す。

怒鳴っていた伯爵が学長へ一礼し、申し訳なさそうに一歩後ろへ下がった。


今度は一体何が始まるのだろうかと、再び緊張感が漂った。

劇が始まってから状況が二転三転していて、全然気が休まらない。

皆が楽しめる余興になるはずだったのに。


「諸君、卒業おめでとう。今の劇、私達も影から見させてもらっていたよ。」


後ろで頷く伯爵に、更に顔色が悪くなるアーサー。

少しはやらかした自覚があるらしい。


「卒業式典でも話はしたから、今日はお祝いと、これから貴族社会で生きていくだろう諸君に、その心構えを簡単に話そうと思う。今の劇を踏まえながらね。」


卒業生が姿勢を正し、学長の話へと耳を傾けていた。


学長は完璧なタイミングで出てきてくれたわ。

ドタバタな雰囲気も一時的に落ち着いたし。

まあ、まだこれから波乱がありそうだけどね、特にアーサー。


「私が諸君に伝えたいのは、貴族として、いや、人として当然のことで、このような門出に改まって言う必要もないことなのだが。」


そこで学長はチラッとアーサーの方を見た。


はい、きっとわかっていないのは彼だけだと思います。


「一つ、婚約とは家同士の決め事であり、当人で勝手に結ぶことも破棄することも出来ない上、たとえ政略だとしてもお互いを思いやり、尊重しなければならない。」


常識中の常識だった。

今更こんな注意をしなければいけない学長が気の毒だが、婚約破棄の劇だった為、致し方ない。


「二つ、嘘で他人を貶めるなど言語道断。しかし、そういう窮地に立たされた時ほど、普段の行いがものを言う。親身になって助けてくれる者は生涯の宝となるであろう。」


確かに今回、突如エリザベスによる断罪で、私は生徒会のメンバーや、友人達に助けられ、結果、会場の皆が味方になってくれた。

それはとても心強く、断罪されそうになっても不安を覚えずに居られたのは、皆のおかげだ。


「最後に。学院では貴族内の身分差は、比較的緩いものであったが、これから社交の場に出ていくと、厳しい身分差に直面することだろう。自分の爵位に誇りを持つことは大事であるが、学院で共に学んだ時間、さきほどの劇を共に楽しみ、同じエンディングを選び、この会場で一体感を得たことを忘れずにいて欲しい。きっと身分差を越えたそのつながりが、後々大きな糧となるだろう。卒業、おめでとう!!」


会場を見回し、フッと微笑んだ学長に、大きな歓声が沸いた。


学長!

あんな行き当たりばったりの劇だったのに、感動的な教訓をありがとうございます!!

なんとなく会場がいい雰囲気になりました。


学長が満足そうに頷きながら、もう一度自分に注意を向ける為に右手を軽く上げた。

会場が静まると、再び話し出す。


「さて、祝辞は終わったが、私には学長としての務めがまだ残っている。」


務め?

皆が不思議そうに顔を見合わせた。

私もクロードと首を傾げる。


学長はアーサーとエリザベスの方を見やった。


エリザベス、あなたまだ帰ってなかったのね。

確かに、エンディングが私とクロードのパターンだったから、アーサーとのワンチャンはまだ残ってるかも知れないけど。

でもあれだけ二人で揉めてたし、ないか。


などとぼんやりと考えていると、学長の低い声が響いた。


「アーサー君、なぜ君がここに居るのかな?君は卒業生ではないよね?」


「は?」


アーサーから間抜けな声が出た。

伯爵がこめかみを押さえている。


ん?どういうこと?

アーサーは同級生のはずだけど。


「君は単位が足りてないから、卒業は出来ないよ。通知は渡してあるはずだがね。」


アーサーが初耳だとばかりに目を見開き、ショックで片膝を付いている。


「嘘でしょー、あの節操なし男と同級生になっちゃうのー?最悪なんですけどー。」


現在2年生のセレンの声が聞こえ、私は吹き出さずにはいられなかった。


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