第13話 本番に向けて

卒業パーティーのメインイベント、余興の断罪劇の練習は順調に進んでいた。


今日も生徒会室には6人のメンバーが集まっている。



私は2年のフレディ、1年のエミールとの3人で、ヒロインであるセレンから冤罪を受けた後に、無罪を訴えていく場面を練習していた。


「アメリア様の行動は全部ここに記されている。生徒会副会長のアメリア様は忙しい。先週はこのパーティーの準備で特に忙しく、あなたに構う時間など全くなかった。」


メモ帳のような小型の冊子を高く掲げ、フレディが台詞を声高に言った。


あのメモ帳には、実際にアメリアの行動がこと細かに記されている。

配役が決まった時から、フレディがアメリアの記録を書き入れているのである。

ただの小道具なのに・・・

真面目か!!



「それにしても、いくら嫉妬にかられたからといって、教科書を破いたり、階段から突き落とそうとするなんてやり過ぎというか、そんな令嬢いるんでしょうか。」


フレディが困惑している。


うん、小説の中しかいないと思う。

少なくとも、アメリアの令嬢友達にそんな非常識な人間はいない。


「劇ですから、大袈裟くらいな方が面白くていいと思います。それに、女性は怒らせると怖いのです。」


キリッと言い放ったエミールに、


「そういうものなのか・・・」


と、おののきながら納得するフレディ。


エミール、あなた妙に悟っちゃってるけど、過去に何かあったの?

思わず不安になる。



向こうでは、コソコソとクロードがセレンに何か言っている。

と、思ったら。


「フレディ、カイル、エミール、悪いがちょっとこっちに来てくれ。」


私以外を呼んだ。


私は?


戻ってきたセレンに、


「クロードと何を話していたの?私はいいのかしら?」


と尋ねてみるが、


「演出の事でちょっとねー。アメリア様は変わらないから大丈夫。それより、婚約破棄が本当っぽく見えるように、しばらくクロード様と距離を置くっていうのはどう?」


セレンが、クスクスといたずらっぽく笑いながら私を見た。


セレンはこういう小悪魔的な表情が似合うなー。

って、そうじゃない。

なんだか誤魔化されたような気がする上、劇の為とはいえクロードと離れるのは気が進まない。


するとこちらの会話が聴こえていたのだろう。


「そんなのダメだ!だったら、セレンもアメリアの敵の役なんだから、アメリアと一緒にいられないぞ。」


「それはイヤ!」


「ただでさえ、元婚約者などと名乗る変な男がいるんだからな。」


「あ、あのアーサーとかいう男でしょー。」


「その人なら、1年の教室でも自分がアメリア様の本当の恋人だって言っていました。」


「食堂でも2年のグループに混ざって、自分がアメリア様の婚約者だったのに、公爵家の権力でクロード様にとられたとかなんとか。信じている人は少ないですけどね。」


クロードとセレンの会話に、カイルとフレディも加わる。


アーサー、3年なのに後輩に混ざって・・・

あの人は何をしたいんだか。

学院中に嘘を撒き散らして。


私がうんざりした顔をしていると、他の5人も呆れたり本気で怒ったりしている。

下手に関わらない方がいいと思って放っていたが、一度はっきり迷惑だから止めてと言うべきなのかもしれない。



暗い雰囲気に陥っていた生徒会室に、意外な人から声がかかった。


「余興の準備は順調かな?」


扉の方を見ると、学長の姿があった。


「学長!お忙しい中、お呼び立てして申し訳ありません。お願いしたいことがありまして。」


お願いしたいこと?


私達が不思議な顔をしていると、


「学長は毎年、余興の後に祝辞を述べられるだろう。どうせなら劇の終わるタイミングで出てきていただいて、劇の教訓含めた祝辞をいただこうかと思ってね。現実に引き戻す役割を兼ねて。」


なるほどね。

確かに劇がマルチエンディングのどんな終わり方をしても、会場は変な空気になってそうだから、改めてこれは架空のお話だって言ってもらえると助かるよね。

クロードと私が、本当に婚約破棄したと思われたら大変だし。


クロードが学長に詳細を伝えているのを傍で見ながら、私はいよいよ本番が近いことを実感していた。

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