リュケイオンの心学魔法
スヒロン
第1話 1+1=?
郵便受けが、乾いた音を立てた。
来た、来た!
火円は、ベッドから飛び起きてその中身を取りにいく。
十五歳で、もう180㎝ある巨体をしならせながら、階段を降りていく。
玄関を開けて、犬が吠えるのをよそ眼に郵便受けを開ける。
「来た、来た」
毎日百回上体起こしで鍛えている腕が震える。
試験の手ごたえはあったはずだ。
『共和政府・辞令』と書かれた封筒を開ける。
「藤間火円君・おめでとう!
君の“学力”は、【鍵の船】への乗員となる訓練を受けるために十分な成績でした。
五科目国英理数社、合わせて780点で現在“心学偏差値”は67、我々の心学訓練を受けてもらい、心学兵器の扱いを学んでもらうに十分です。
従って、このたび人類と地球を救うために、みんなと一緒にさらなる勉強を頑張ってもらいたいと思い、この合格通知を出したのです。
【リュケイオンの学び舎】と名付けた我々の校舎には、憎きエイリアンを倒すため、心学魔法を学ぼうとする素晴らしい生徒たちが待っています。
共和政府一同、君が人類と世界を救う日を心待ちにしています。
火円くん。アインシュタインは1+1の答えを導き出すまでに何年もかかったという。君が、このリュケイオンで自身の答えを出すために、我々もサポートします。
リュケイオン校長 町田・ジェルジェソン・真白」
「やった……やったあああ!」
火円は吠えていた。
ペットの犬も吠えていた。
「お兄ちゃん!? ひょっとして・・・?」
妹の神花(しんか)が二階の窓から顔を覗かせている。
小動物みたいに、丸っこい顔立ちだ。
「オメデトウ! 合格だったんだね!」
神花は長袖のシャツを着たまま寝ていたようだ。
「ああ、兄ちゃん世界を救ってくるからな」
火円は言った。
「もう、ほとんど全滅してるんでしょ?」
神花はそう言う。
「だってニュースの人は言ってるじゃん。世界の人口は、0.1%くらいになったよって」
「残り0.1%の都市と人類を守ってくるから、しばらくいい子にしてろよ」
「・・・無茶しないでね、危なくなったらかえってきて・・・」
神花は不安そうだ。
「大丈夫だって、鍛えてるんだから!」
火円はそう言った。
そうだ・・・俺は人類を救うんだ。
それくらいしないと。
人類を救うってことくらいしないと、到底許されないようなことを、五年前にやったんだから。
「受かったの?」
氷のような視線で見てくるのは母さんだ。
玄関付近で立っている。
「そうだね。俺は、心学兵になるよ」
「うん、あんたは勉強とか体育だけは得意だからね」
「・・・来週の頭から、行ってくるね」
火円はそう言った。
「そう言わず、今日にでも出発したらどう?」
母さんはそう言う。
「お母さん!」
神花が窓を挟んで怒る。
「そんな言い方・・・お兄ちゃんは頑張ったんだよ?」
潤んでくる瞳。
火円は手を握りしめた。
「じゃあ、今から荷造りするね・・・」
「うん、そうしなさい」
「何言ってるの、お兄ちゃん! そんなすぐなんて駄目だよっ。みんなにお別れとか言わなきゃ・・・サッカー部の友達とか」
「いいだろ、別に。もう行くよ・・・俺は、ここにいない方がいいんだ」
と、火円は言った。
「もうっ、バカっ! 二人とも大嫌い!」
神花がそう言った。
あの日以来、俺はよく神花から「嫌い」と言われる。
それだけのことをしたんだ。
仕方ないんだ。
エイリアンと戦いたかったし、魔法もカッコよさそうだ。
オマケに成績も上げれるのがリュケイオンだ。
けれど、火円はとにかくこの家から離れたかったのだ。
アインシュタイン、あんたは1+1=を解くまでにどれだけ悩んだんだい?
俺は今から、悩みから少し離れることにするよ。
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