第21話 茉莉花さんの乱入

「そっか~ サムにも色々あるんだね~」


陽向に言われ、益々申し訳ない気持ちになった。


陽向こそ、辛い目に遭っているのに、

前向きに明るく生きている。


きっと光のサポートが素晴らしいのだろう。


僕にもジュンがいてくれたら……


否応なしに彼の事を思い起こさせる。


「なぁ、もしかしてお前も良いところの坊ちゃんで

お家騒動に巻き込まれたとか言う口なのか?


俺らみたいにお見合い、お見合い、お見合いみたいな?」


そう仁に言われ、

彼の顔を見上げた。


“何だろう? 仁から感じるこのバイブは……”


初めて仁に会ったときから、

僕には彼から感じる何かがあった。


先ず、最初から彼はキラキラとしていた。


それに仁に触れたときに、静電気にも似たような、

まるで雷にでも打たれたような電撃を受けた事は……


僕が仁の質問に躊躇していると、


「あら〜 そう言うことだったら、

仁がお相手してあげれば?


悪い虫も良けれて良いんじゃない?


日頃から寄ってくる虫がうるさいって言ってたでしょう?


それに、その間そのジュンちゃんも探してあげれば!


ほら! ウィン、ウィンじゃない!


私ってあったま良い~」


と背後から茉莉花さんが声をかけてきたので、

僕たち四人は怪談話でもしていたかのように


「ギャー!」


と悲鳴を上げて驚いた。


“え?! この人、一体どこから湧いて出たの?!


マジシャン?!”


そうドギマギとしていると、


「しーっ、声を下げて!

セキュリティーがきちゃうわよ!」


と言う茉莉花さんのセリフに、

陽向は苦笑いしながら頭をかいていたけど、

後の二人は


“ムッキ~ッ!”


としたように静かに茉莉花さんを睨みつけていた。


「ほら、ほら、若人よ。

人類皆兄弟!

困った事があったら助けあわないとね!」


と何のこっちゃみたいなセリフで彼女はこの場を仕切り出した。


どこから持ってきたのかペンとメモを取り出すと、


「それで、それで?


ジュン君っていう意外に分かっている事は?」


と早速メモを取り始め、

僕は何が何だか訳が分からなくなり陽向の方を向いた。


何故陽向の方を向いたのか分からないけど、

きっと彼は僕の戸惑いを分かってくれると思ったからだろう。


僕が陽向に目をやると、陽向は陽向で、


”でしょう?“


とでも言う様に僕に目配せをしていた。


“フ~ッ、そいう言う事か……”


何となく察して、僕もクスッと笑うと、

メモを一生懸命取る茉莉花さんに

色々と覚えてる限りの情報を提供した。


「先ず彼はジュンという名前。


恐らく光たちと同級か、

一つ上か下くらい。


二人は兄弟かわからないけど、

血縁なのは確実。


どちらも彼女は甥と呼んでいたから。


彼女はボストンから東京に引っ越して、

甥達は近くに住んでいると言っていた。


だから彼らの家族はこの東京に住んでいる」


僕が持っている情報はそんなもんだ。


「うーん、これだけじゃねえ〜


彼女の名前は忘れちゃったのよね?


家族の名字とか覚えてる? 他には何かないの?」


そう茉莉花さんに聞かれちょっと思い出してみようとしたけど、

何も出てこない。


「僕、日本人の名前は難しくって、

名字なんてあの頃の僕には宇宙語のようで……


ジュンの名前もちゃんと発音できなくって、

何度も、何度も茉莉花さんと練習して……」


「そっか~


名字が分かってたらなんとかなったかもしれないんだけどね~


これだけだとちょっと難しいかも?!


でも浩二お祖父ちゃんや陽一お祖母ちゃんも

アメリカに住んでたことあるのよね~


彼らもボストンに住んでたから、

向こうの日本人繋がりで何かわかるかもしれないけど、

その方の写真か何かないの?


お祖父ちゃんに見せれば何かわかるかも?!」


茉莉花さんにそう尋ねられ、


「あ、僕、彼らの写真があります!


僕のマンションにあるんだけど……


彼らの写真ではあまり役には立たないかな?」


そういうと、


「いや、無いよりはましかも?!


じゃあ、俺らでちょっくら行ってみるか?」


という流れになってきたので、


「今からですか?!」


と彼等の行動力の速さにびっくりした。


「まあ、お前の事情は分かった、

恋人役が必要なこともわかった。


その事はまずは置いといても、

取り敢えずお前の家に行って、

その写真とやらを見てみるぞ」


そう仁に言われ、僕達は会場を後にした。


流石に今日のパーティーのメインである茉莉花さんは抜けられず、

示談場を踏みながら、


「ちゃんと中途報告するのよ!」


と悔しそうに念を押され、僕たちはマンションに向かった。


「此処だよ」


そう言ってマンションの前に立ち止まると、

皆で上を見上げた。


「朝に良く会うから、

近くに住んでいる事は分かってたけど、

そっか、此処に住んでいたのか〜


でもここって……」


陽向が何かを言いかけた時に

光がそれを遮った。


「ここがどうかしたの?」


少し気になって尋ねてみたけど、


「ううん、何でもない」


そう言って陽向がエントランスを潜った。


「此処ら辺って家族が多いのに、

何故シングルのサムがここ?」


恐らく陽向にとっては素朴な疑問だったのだろうけど、

僕に取っては説明難い質問だ。


でもその質問は、光の


「余り人のプライバシーに踏み入るんじゃない」


という叱責で流れたので僕に取っては良かった。

でも陽向には悪い事をした。


僕に後ろめたい事がなければ直ぐにでも答えられる質問なのに、

僕はすまない気持ちでいっぱいだった。


でも僕の彼らに済まないと思う気持ちは、

家のドアを開けるのと同時に恐怖へと変わった。

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