第7話 恋人になって下さい

「僕、アナタニ、一目惚れシマシタ。

ボク、サム言いマス。


ドウカ、僕ト、ケッコーンシテクダサイ!」


そう言った後で我に返った僕は


“ひ〜 なんて事言うんだ僕の口は〜


見てみろ〜


向こうもびっくりして引いてるじゃないか!


せっかく適役を見つけたのに〜


僕のばかやろー”


と頭の中で何度も反芻した。


オロオロとしていると、


「サム、頭大丈夫?


君、自分が今言った事の意味わかってる?


君の今の日本語、ちょっと変だったよ?


でも大丈夫! これから僕が正しい日本語の使い方教えてあげるから!」


そう声をかけたのは陽向だった。


僕は


“へ?”


としたような顔をして陽向の方を見ると、

陽向が心配そうに僕の顔を覗き込んできた。


きっと陽向は僕が間違った日本語を使ったんだと思っている。

彼は僕にとっては都合のいいように理解してくれたようだ。


でもまさかここで陽向に声を掛けられるとは思ってもいなかった。


“そうか……これが日本人なのか……


知らない外国人にでも優しいんだな……”


そう思っても後の祭り。


自分の発した言葉に今更後悔しても、

もう後には引けない。


僕には今すぐにでもカモフラージュが必要なのだ。


僕には一応替え玉がいる。


アメリカ軍のシールズにも匹敵するほどの身体能力を持った人物だ。

それに専門用語の質問に答えられるほどの頭脳も持ち合わせている。


だってそれはαである僕の実兄だから……


兄とは結構年が離れている為、

彼は年相応に権威のある科学者に見える。


僕みたいなペーペーとはわけが違う。


だからこれまでも僕が疑われたことは一度もない。


どちらかというと、

僕は少しドが入ったいつも実験に失敗しているような

ドジっ子にしか見えない。


だから兄は僕の身代わりとしては打って付けだ。


それに彼がそれ程の身体能力を兼ね添えていることも、

一般的には知られていない。


だからこれまでも、

色んな困難に立ち向かっては回避してきた。


最近ではそれが奴らに疑惑を持たせるようになってきた。


つまり、彼が替え玉ではないのか?

と言う事なのだ。


だから身代わりがバレるのも時間の問題だ。


何時奴らが僕の居場所を突き止めてやって来るか分からない。


僕はブルブルと頭を左右に振ると、


「僕の名前はサムで〜す!


28歳で〜す!


君に一目惚れしました〜


お名前を教えてください〜」


そう言って右手を差し出した。


すると、


「スマン、好みじゃ無いんだわ。


大体外人だろ?


範囲外だよ」


そう言って即座に断られてしまった。


でもここで引っ込むわけにはいかない。


「じゃあ、結婚はいいから、

先ずはお付き合いから?」


そう嘆願すると、


「そう言う場合、普通

お友達からお願いしますだろ?」


そう言って訂正されてしまった。


そこでハッとした。


もしかして彼も陽向達と同じように……


「もしかして君も、もう結婚してるの?!」


肝心な事を聞くのを忘れていた。


でも答えは、


「違うよ〜


佐々木君は結婚して無ければ、

恋人もいないんだよ〜」


と、そう陽向が教えてくれた。


「君、佐々木君って言うんだね」


そう嬉しそうに言うと、

佐々木君は陽向の頭をスパーンと叩いて、


「個人情報の漏洩は罰金な」


と右手を陽向の前に差し出していた。


陽向がそれを見てガブっとそれに噛みつこうとする姿に

僕はくすっと笑うと、


「ねえ、下の名前は何ていうの?」


と尋ねた。


一応


“彼”


を探している身だ。


“佐々木君は違うだろうけど、

一応訪ねておこう……”


するとまた陽向が、


「彼の名はね、仁だよ!


佐々木仁!


顔に似合わずカッコいい名だよね!」


と言って、また佐々木君にスパーンと頭を叩かれていた。


そこに光が出て来て佐々木君を諫めていたけど、


“そっか……ジンって言うのか……


彼とは違う名前だな……


やっぱり、彼を見つけるのはそう簡単には行かないか……


本命の事もあるし、断られるくらいがちょうどいい関係になれそうだな……”


などと僕はボンヤリと考えていた。


















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