第2話 ドクター・ディキンズ
後ろからパタパタパタと走ってくる足音が聞こえた。
「ドクター・ディキンズ!」
“あの声は……”
そう思いながら後ろを振り返ると、
「ドクター・ディキンズ、ここに居たんですね。
随分探し回ったんですよ!
所長が探していたんですが、大丈夫ですか?
顔色悪いようですが……」
と直属の部下であるスティーブが何時ものように
瓶底眼鏡をずり落としながら走って来た。
そして傍までやって来ると、
「ん? 何を見てたんですか?」
そう言って今まで僕が見ていた窓の外を覗き込んだ。
途端、
「ハハ~ン、二コルですね~。
彼女は人気があるんですよ~
ドクターも隅に置けないですね~」
そう言って何やら勘違いをしているようだ。
窓の下を見ると、
確かに研究所一の美女と言われる二コルが、
数人と戯れながらキャッキャッとしている。
「ほんとだ……
彼女たちあそこに居たんだね……
全然気付かなかったよ……」
そう言って窓の下で戯れる彼女たちをジッと見つめた。
でも僕が見ていたのは二コルでもなければ、
外の風景でもない。
只、物思いに耽っていただけだ。
スティーブは僕の肩に手をやると、
「ドクター、やっぱり疲れているようですね。
熱は無いですか?」
そう言って僕の肩に置いた手を頬に移した。
ビクッとして一歩下がると、
スティーブは笑いながら、
「ハハハ、何警戒してるんです~
ちょっと顔が熱いかチェックしただけですよ~
ん~ 熱は無いようですね」
そう言って僕の頬に伸ばした腕を引いた。
スティーブには、僕が疲れているように見えたのだろう。
「だから言ったでしょ?
僕は大丈夫ですよ!
そんなに具合悪そうに見えますか?」
ニコリと微笑んでそう答えると、
スティーブは心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
本気で僕の事を心配しているようだ。
「そうですよ!
見て下さいよ! 目の下に大きなクマが出来ていますよ?
全く、政府の関係者は私達を何だと思ってるんでしょうね!
馬車馬の如く働かせて甘い蜜を吸ってるのは
自分達だけなんですからね!
ドクターは100年に一人と言われる天才なんですから、
休める時には休ませないと、
体を壊して働けなくなったら、せっかくのダイヤが元も子も無いですよね!」
そう言われ、ドキッとして僕はスティーブの方を見た。
「どうしたんですか?
変な顔して……」
スティーブが困惑したようにして僕を見た。
「スティーブ、今……何て言った?」
もう一度聞き返した。
「え? 政府は私たちを働かせすぎってとこですか?」
スティーブが更に困惑したようにして僕を見た。
「いや、そこじゃなくて……
その後の……」
「え? ドクターが100年に一人居るか居ないかの天才ってところですか?」
と今度は不思議そうに尋ねた。
「僕が天才だなんて、一体誰がそんな事を言ったの?」
そう尋ね返すと、
「どうしたんですか?
天才って呼ばれることに抵抗があるのですか?」
とスティーブが尋ね返した。
僕は肩をすくめて見せると、
「君、それはかい被りだよ。
まあ、確かに僕はチームリーダーなんて任されてるけど、
そんな天才と言う事は無いんだよ?
出来れば、そんな言い回しはしないでいてくれたら……」
と少し言い訳がましく言ってみた。
するとスティーブは、
「ドクターって謙遜ですよね~
本当に、自分の研究の成果も、
人に取られても文句一つ言わなそうですよね!」
そう言って、拳を握ってパンチをするような仕草をして見せた。
「別に謙遜って訳じゃないけど、
ほんとにそんなことを他の人の前で言わないでよね?
全然違うんだから!」
そうお願いすると、
彼は静かに笑っていた。
「そう言えばドクターってオメガなんですよね?
凄いですよね、Ωで100年に一人の天才って……
やっぱりスパイなんかに狙われたりするんですか?!」
そう言って彼は目をキラキラとさせた。
「君、スパイ映画の見過ぎじゃ無いの?!
妄想は程々にね!
それに僕の何処にスパイに狙われる要素があるって言うの?
僕はしがない唯の冴えないモッサリな政府の研究員です〜」
そう言って誤魔化しては居たけど、
彼のセリに少しドキリとしたのは本当だ。
そんな彼の推測もあながち間違っては居なかったから。
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