セピア色の秘め事

樹木緑

第1話 エピローグ ~会いたい~

窓辺に座り、

揺れるカーテンの隙間からそっと外を眺めた。


暑かった夏もようやく終わり、

此処にも秋が来ようとしている。


緑から紅葉になり始めた木々からは、

早くも秋の気配がしている。


テーブルの上に置いたコーヒーカップからは

ゆっくりと湯気が立ち上がっていく。


カップをそっと取り、

立ち上がる湯気に向けてフ~っと息を吹きかけた。


その時急に突風が吹いてカーテンが少し開いた。


外は紅葉になり始めたばかりだというのに、

桜の花びらが窓の外を舞っているような錯覚に陥った。


“なんだ……風で葉が舞い落ちたのか……”


その時僕はハッとして手に取ったカップをまたテーブルに戻すと、

スッとテーブルを立った。


その足でベッドルームに歩いて行くと、

サイドテーブルに置いてある写真立てに目を落とした。


“○○君……”


僕はそう呟くと、

その写真立てを手に取った。


写真には屈託もなく笑っている少年達が

桜の木の下で仲良さそうに肩を組んで、

満面の笑みで写っている。


僕は指で彼の姿をなぞった。


僕はずっと、微笑む彼の隣で

仲良さそうに微笑むもう一人の彼が羨ましかった。


何の約束も無い……


話した事も無い……


会った事も無い……


きっと君は……僕の事を知らない。


でも、好きになったんだ……


会いたい……


一目だけでも良いから、君に会いたい……


君はどんな大人になったんだろう?


どんな顔をして笑うんだろう?


どんな声をしているんだろう?


ねぇ、知ってた?


僕、君の事、ずっと、ずっと好きなんだよ。


会いたい……、会いたい!


このセピア色の写真の中でだけ知っている君……


今どこに住んでるの?


今何をしているの?


僕の事を知らない君は、

きっとそこで沢山の人に出会い、

沢山の恋をしてきたんだろうね。


どうしたら君と会えるんだろう?


会いたい! 会いたい! 君に会いたい!


そう呟いて僕は、

セピア色の写真を握りしめた。

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