第22話 真実新聞の隠蔽
この時代になると新聞の人気はがた落ちだ。
手軽にネットで情報を収集し、その情報が本当なのかを探さない人も増えた。
そんな中で輝夜は新聞を契約している、字面がぎっちり並ぶのも好きだし、あの紙質も匂いもたまらない。料理や他のことにも使える便利さもある。
輝夜にとって、新聞は憧れのものでもあった。持ってるだけでかっこいいと感じる。
読んでるだけでも頭が良く見える気がした。
ある日新聞を読んでいると、おかしな記事を見かけた。
『◎月×日、都内某所にて佐幸輝夜さんが暴漢に遭い――』
輝夜の具体的な死亡記事が載っている。
これは面妖だ、過去の日付なのにやたら具体的である。
見た様子だと被害にあいそうな場所もあっている。
こういう怪しい物はだいたい、未来のことを書くものだと思った輝夜は不思議に感じ、小首傾げて唸り。新聞をじーっと睨み付けて新聞に顔を寄せた。
新聞に顔を寄せていると、吉野がやってきて入ってくるなり新聞を取り上げた。
読むなり、苛立った様子で新聞会社を確認する。
「違う新聞社だ」
「え? 本当だ、いつもとってるところじゃない」
「これはまたいつものだな、輝夜。俺たちのような者がそばにきてるな」
「何で過去のことなんだろうね、私は死んだ覚えはないんだ」
それもそうだ、その過去は市松が一世一代たる望みをかけて、なかったことにしている。
あの日から吉野は市松を、きちんと認めていた。
気に食わない奴ではあるが、ちゃんと輝夜や、自分の根底にあるものより他者を優先し大事にするときは大事にしてくれるのだと判った。
自己犠牲精神とまではいかないが、ただ一人相手でも自分より他人を優先する奴は信頼出来る。しかもきっとあの男にとって命より大事な望みが叶う瞬間を棄てたという事実。
それは、大事にしよう守ろうという意思がある。
大事にしたいと思っている人は、吉野と一致しているのだ。
少なくとも輝夜については、始まりの出会いや目的はどうであれ。
だから。そうこの新聞は、市松のほんの少しあった情けや温情。何より勇気のいる覚悟を全て笑い飛ばす悪質なものを感じる。
激しい嫌悪感を強く抱く吉野は、新聞をソファーに放り捨てた。
「馬鹿にされるのはなるほど、嫌だな。人が選択した決死の答えを、軽んじられてるみたいで」
「吉野? 覚えがあるのか」
「いいや、何でも。何でも無いんだ、とにかくこの新聞はまがい物だ、気にしなくていい」
「本当に? 君は時折何かを一人で抱え込んで追い詰まっていくからなあ心配だよ」
「俺より自分の心配してよ。……あの狐にそれを見せてはならないよ、きっと心配する」
「吉野、あいつが心配するたまかい?」
「きっと泣くほどに」
本当に過去で輝夜がいなくなり泣いていたのだけれど、それはあの男のなした出来事に免じてプライドを崩さないよう守ってやろうと、口を噤んで冗談にした吉野。
吉野に輝夜はふうんと頷き、新聞を手に取り逆さまにする。
するとどうだ、字面の並びが不思議な動きをし始めた。
『お前の生命は偽物だ。お前は一度死んだ身だ』
そんな文字が大きく描かれた、新聞の文字でなされて作られていた。
後ろから覗き込んだ吉野はさっと青ざめてからかっとなり、新聞を引き裂き破いた。
「……吉野」
「まやかしだ! こんなの信じるな!」
滅多に見ない吉野の激高に輝夜は瞬き、言葉を噤んだ。
*
あれからずっと新聞は送られ続けている。
輝夜は夜はどうしても眠くなるし抗えない。そんな深夜に新聞を届けようとする男がいた。
男がポストに投函しようとした刹那、殺気の強い鬼が血管をびきびきに浮き出した腕で、男の腕を捉えて新聞を止めた。
ふしゅーふしゅーと鬼気迫る血走った眼差しを持つ吉野の気迫に、男は怯える。それでも気丈さを忘れないように気持ちを落ち着けようとし、吉野の鋭い眼光を見れば男は足がすくむ。
「何をしているんだ、お前は何者だ、事と次第によっては食うぞ」
「…あちしは真実のジャーナリストですよ! 駄目ですよ、いんちきは! 鬼神様、えこひいきは駄目です。死んだならきちんと地獄か天国行き、それが人の世でしょう」
「五月蠅い、あの人の問題に訳知り顔で口を出すな」
「とはいってもねえ、あ! そうだ、ついでにこのまま取材しちゃおうかな! 一度死んだ気持ちはどうですって」
「……どうやら、俺は舐められているらしい。お前は、少しやりすぎた。鬼は一番怒らせちゃいけないぜ……それに俺の好きな人間じゃないから、いとも簡単に食えるんだ――」
「へ? ま、まさか……」
「いただきます」
吉野は唇に弧を描くと、牙をむき出しにし口を大きく開けた。
数刻後、起きてきた輝夜は無機質な顔で吉野に気付くと、笑いかけた。
吉野は口元を何か布で拭っている様子で、どうしたのだろうと小首傾げる。
「新聞きたかい? あの変なの」
「大丈夫、追い返したよ。もうこない。絶対にもう来ないよ」
吉野はそのまま気付かれないように、男の骨と衣服を急速に風化させ土塊にし、輝夜がやってくる頃合いには綺麗さっぱりあの男はそれこそなかったことにされた。塵となったから輝夜も気付かない。
「もう心配要らないよ、永遠に」
吉野はうっとりと目を細め輝夜に、蕩けた顔で笑いかけた。
――貴方にさえ嫌われなければ良い。だから、貴方を狙う者、すべて……殺していく。
だって自分は鬼だから。
吉野は、自分が腐っても神の末端であることを、忘却していた。
暴走しつつ、あった。それは、神の肩入れ。
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