第2話 訪問者

鍋の中も皿の中もシチューはカラになり、リゼとセティアは洗った皿を片付け、アクスは暖炉の火を調節していた

その時、外でガタガタと大きな物音がした

ハッとしたように三人は顔を見合わせる

外には何者かの気配...

なんだろう?

この家は人里離れ、花畑と草原に囲まれた土地でめったに人はやって来ない

来るとしたら?

父、ライドの異常を知らせる通達屋?

果たしてこんな夜更けに来るか?

迷い人か?

三日前に二km先の牧場を襲ったらしい狼の群れか?

ひょっとしたら、敵軍の兵士が?

いろいろと考えを巡らす間にも音はどんどん激しくなって行った。

この家に居るのは三人、男である自分が二人を守らなければならないと咄嗟に判断したアクスは、暖炉の脇に掛けてあった剣を手に取ると両手でしっかりと握り、セティアとリゼを庇うように二人の前に立った

ガタガタ

ドンドン

音は激しく大きくなって行った

緊張が走る

ガタッ

バーーーン!!

ドアが豪快に開かれた


「ジャジャーーン!!」

「たっだいま〜っ、マイハニー、マイチルドレンたち♡」

「!」

バカでかい声と共に戸口に立って居たのはひとりの大男

力強い筋肉の付いたたくましい肉体

ブラウン色の髪は、無造作に束ねられていた

セティアと同じブルーの瞳、日焼けのせいで浅黒くなった肌、左腕には大きな古傷

それは、セティアの父、リゼの夫である男

ライドだった


一同呆然と立ち尽くす


二年ぶりにライドは帰って来た


「おーう!母ちゃんの若い頃に似てきたなぁー」

ライドはガハハと笑いながらセティアに声をかける

感動の再会も何もあったもんじゃない

「帰って来るなら、連絡くれれば良かったのに〜」

セティアが口を尖らせて呟く

せっかくの料理もたった今平らげてしまった

「おまえらを驚かせてやろうと思ってなぁー」

ガハハと笑いながらセティアの肩をバシバシと叩く

「痛いよーお父さん」

眉をしかめながらも、久々の父親の帰宅に喜びを隠せないセティア

敵が襲って来るかもしれないと緊張していたアクスは、やっと安堵し持っていた剣を床に投げ捨てると、ライドに食ってかかる

「ライドのバカヤロー」

力いっぱい体当たりをするが、まだ小柄なアクスの体では、ライドの大きな体は、ピクリとも動かない

「おっ」

「大きくなったなぁーアクス、極悪人から女、子供を守ろうとするなんて上出来だ。カッコよかったぞ」

アクスを優しく包み込む

そして、アクスのシルバーグレイ色の髪の毛を大きな手でくしゃくしゃにした

まるで本当の親子のように仲の良い二人

ライドの笑顔に緊張していた空気が一気に和む

無神経に大笑いしていたライドだが、ふと一点を見つめて微笑する

そこには突然帰宅したライドの無事な姿を見つめ、涙を瞳いっぱいに浮かべていたリゼがいた

ライドはリゼに近づき、コハク色の長い髪に触れて額を寄せて優しく声を掛けた

「ただいま」


「そうか、今日はアクスの誕生日だったな」

「男らしくなったはずだ」

ライドとアクスは男同士で二人きりで暖炉の前で語り合っている

リゼとセティアは、もうベッドの中でスヤスヤと寝息を立てている

「十三歳か、、、似てきたな、父さんに、、、お前の親父にそっくりだ」

そう言って、ライドの大きな手はアクスの頭にポンと置かれた

アクスは本当の両親の事などこれっぽっちも知らない

どんな人間だったのか、なぜライドは父を知っているのか、二人はどんな関係だったのか興味を持たなかったのは、ライドもリゼも本当の親のように接してくれていたからだ

「十三年か、、、」

ライドはパチパチと燃える暖炉の日を見つめながら懐かしそうに目を細め、左腕の古い傷跡に手を当てた

その横顔は何故かとても悲しそうだった

「お前が十六になる頃には、国も落ちついて戦争なんかしなくても良い世の中になっていればいいのにな、、、」

切なげにライドは呟く

その十日後にライドは再び戦場へ向かった

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