魔女から手紙がやって来た! (絵本風物語)

桃もちみいか(天音葵葉)

魔女からの手紙

 ちくたくちくたくボーンボーン。

 かちかちかちかちボーンボーンボーン。


 さっちゃんは、一人でお留守番をしてました。


 今日は弟と妹がお熱を出したので、ママはこども病院に連れて行ったのです。

 弟と妹は同じ日に産まれた双子ちゃん。

 さっちゃんより、人気者です。

 注目が集まるのは双子ちゃんの弟と妹ばかりなので、さっちゃんはそう思っていました。


 小学一年生になったさっちゃんは、お利口さんでした。

 だけど、ほんとは、おうちで一人でお留守番はちょっぴり怖いんです。

 ちくたくちくたく、時計の秒針の音がお部屋に大きく聞こえます。


「早くママたち、帰ってこないかな〜」


 さっちゃんは、あいうえおの宿題も足し算の宿題もとっくに終わっちゃったので、ママの作ったおやつのクッキーを食べることにしました。


 見たくないのに、テレビをつけて。

 さくさくクッキーを食べます。

 ミルクを慎重に慎重にこぼさないように、さっちゃんのマグカップに注ぎました。

 上手にいれられたけど、誰も褒めてくれる人がいません。

 だって今、おうちにはさっちゃんが一人ですもの。


 さっちゃんはだんだん悲しくなりました。

 どんどん悲しいことを思い出します。

 幼稚園の運動会で、さっちゃんは一番のメダルがもらえませんでした。

 毎年、がんばったで賞の賞状だけです。

 小学校に上がって、さっちゃんは一番が欲しくて、図工も工作も運動も頑張りました。

 だけど、一番のメダルは他の子のものになりました。

(あーあ、あたしってなんにも一番になれないんだ)

 年長さんの弟と妹はふたりとも、さっちゃんがほしかった一番のメダルをすでに持っています。

 弟はかけっこで一番、妹はお絵描きコンクールで一番になりました。


 さっちゃんが二枚めのクッキーを食べ終わったときです。


 とつぜん、目の前に白い煙がもくもくもくう。

 あらあらびっくり、摩訶不思議。

 なかから、白い猫が現れました。


「きゃっ!」

「こんにちは。さっちゃんにお手紙です」


 さっちゃんはおどろいて、目をぱちくりぱちくり。

 白い猫さんは、大きな赤いリボンを頭につけて、かわいらしいふわりとしたワンピースを着ています。

 笑顔はニコニコ。

 後ろの二本足で器用に立っています。

 

「どなたからですか?」

「そりゃあ、魔女のおばあさんに決まっています」


 さっちゃんは、手紙をこわごわ受け取りました。

 白い猫さんはうやうやしく頭をさげて、ワンピースをお姫様みたいにちょこんとつまんで裾をわずかに上にあげました。

 ご挨拶のつもりでしょう。



【さっちゃんへ

 お友達のサンタクロースさんから、

 ティーパーティーにさそわれました。

 ぜひ、さっちゃんもいかがでしょうか。

 サンタクロースさんのおうちで、

 みんなと集合です。

 3分後にお迎えにうかがいます。


      魔女のおばあさんより】



 たしかに、さっちゃんあてのお手紙です。

 魔女のおばあさんからのお誘いのお手紙だなんて、さっちゃんには生まれて初めてでした。



 

 

 

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