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イターーーーー!
居たよ。
居ましたよ。
しかも、小さな女の子じゃないの。小学生かしら。
なんで? どうしてこんなところに? ここ駅のトイレよ? しかも超絶汚い系。
こんな遅い時間に、お一人様? 家出するお年頃にはちょっと早くない? 最近の子供って、そんなもんなのかしら。
あらやだ、目が合っちゃった。
「えっと……、ごめんねー。声が聞こえたから、気になっちゃって。こんなところで、どうしたの? おうちの人は?」
「おねえさん、わたしが見えるの?」
ん? 『見える』って?
……あ、察し。
もしかしてコレ、そういうやつですか?
お嬢さん、そっち系の方なんすか?
あ~……はいはい。
あれね。あのぉ……、普通の人間には見えない種族、みたいな。恰好も、なんかそれっぽいしね。
白いブラウス、赤い膝丈スカート。足は……。
あちゃー。やっぱ、浮いてるわ。地面から、完全に浮いておりますわ。
「おねえさん?」
えぇーと……、こういうときって、どうしたらよろしいのかしら?
私、経験がないので、わっかりましぇええん!
誰だって、初めてのときは緊張しますものね。
ふうーん。初体験のドキドキ感って、こんな感じ? ちょっぴりお試し体験的な?
そう、ワタクシ、まだ見ぬ王子様にお会いするために、今日も完全武装で挑んだわけでございますよ。もうね、メイクとヘアに三時間かけて!
何なら先週勝負下着買いに行った時から臨戦態勢だから、こちとら一週間かけて準備してきとんじゃい!
それがねえ……。まあなんと、全員見事に大外れでございますよ。まず、顔面偏差値最底辺。幼稚園から出直して来て? てか、あの外見でよく平気で外歩けるわね。私だったら死んだほうがマシ!
あら、ユーレイの前でごめんなさいね。
「えっと……、まあ、見えるっていうか……。ええ、はい。バッチリ見えております」
あらら。そんな嬉しそうにはにかんじゃうの?
可愛いじゃないの。
「みんな、わたしのこと見えないの」
「そっ……、そう、なのね……」
うーん、おねえさんも、どっちかって言ったら見えなかったほうが良かったかなあ。ていうか私、霊感皆無のはずなんすけど。
え、なにコレ? 酔ったら見えるパターン? そういうのアリなの? 誰か教えて?
「見えないから、みんな、わたしと遊んでくれないの」
「う、うん……」
見えなかったら、かくれんぼも鬼ごっこもできないものね。ステルス鬼ごっこ、超ハードル高そうだわ。
あとほら、一緒に遊んでいたら、そのまま帰ってこれなくなるとか、そういうのない? それ系の特殊ルール込みだと、人間は遊びたくないのよねえ。
「パパも、ママも、わたしのこと見えないから、おうちに帰ってもひとりぼっちなの」
だから、駅のトイレにいるの? 何その二択。せめてファミレスにしようよ。
「えっと……、お嬢さんは、その……『花子さん』的な? やつなのかな?」
「わたし、ココだよ」
あーらまあ。ユーレイの名前も、時代とともに変化するのねえ。キラキラしちゃって。
「へえ。ココちゃんって、いうのね。可愛い名前ねぇ、ウフフ、フフ」
「おねえさんは、遊んでくれる?」
「うーん、内容によりけり、かな……」
「遊んで、くれないの……?」
きゃーっ、やめて! 私、女の子の泣き顔には弱いの!
「わかった、遊ぶ! 遊ぶから! ねっ?」
でも、アブナイ遊びはやめましょうね。
「それで、ココちゃんは、どんな遊びが好きなのかなぁ~?」
お願い、五体満足で帰れるタイプのやつにして!
「みんな、わたしが見えないの」
うん、それはさっきも聞いたかな。
「でもね、パパはお酒をたくさん飲んだ時だけ、わたしが見えるの」
あらー。やっぱりそういうパターン、アリなんすか。へえ。勉強になります。
まあ、明日になったらアルコールと一緒に全部すっ飛んじゃってるかもしんないけどね! テヘッ。反省モンキーィ♪
「パパは、お酒飲んだら、わたしをぶつの。その時だけ、わたしが見えるの」
「……へ?」
「でもママには、見えないの。パパにぶたれて、痛くて、助けてって言っても、ママには見えないし、聞こえないの」
あの、それって……。
いや、でもこの子、浮いてるもんね? 浮いて……あれ?
あれれ?
あ、なんだ。よく見たら、便器に腰掛けているだけじゃない。
そりゃ、足浮くわ。
フタが閉まってるっぽいから……最中ってわけじゃ、ないわよね? それは大丈夫か、うん。
あらあ、フタに座っても割れる心配ないのね? 若いって羨ましいわぁ。
なるほど。そういうことか。『見えない』っていうのは、無視されてるって意味なのね。ネグレクトってやつ? おまけに父親はDV……。こんな小さいのに、かわいそうに。
みんな、大変よねえ。
……そうなのよ。私もさあ、今日は大変だったんだから。聞いてよ~。聞いてくださいよお~!
よりにもよって、一番キモい豚男がゾッコン私に惚れちゃってさあ! まあそりゃね、わからなくはないわよ。こんなに美しいんですから。
でもその、ブタちゃんが! 身の程知らずにも! グイグイブヒブヒ来るわけですよ。アイツもしかして、私のことお持ち帰りする気だったんじゃないかしら? 冗談じゃないわよ、フザけんな!
……で、こっちも言ってやりましたよ、本当のことを。そしたらアイツ、涙目なっちゃって。フッ、ざまあ。
まあ、ちょっと言い過ぎたかもしんないけど。
あのブタ、最後なんかブーブー言ってた気がするんだけど……。何だっけ? 何て言ってた?
まあ、いいわ。
ああーっ、ムカつく! 思い出しても腹立つわ!
「だから、ね……」
「ごめっ……タンマ! ちょっと待って」
キターーーーー!
うわ、急に来た。吐く。これ絶対吐くやつ。
でもこの子の前で盛大にやるわけにもいかないし。とりあえず、隣へGOよ!
なんか深刻なお話の最中なのに、ゴメンね!
そうだったわ、私このためにわざわざ、こんな世界の果てかこの世の終わりみたいな壮絶穴場スポットまで足を運んできたんじゃないの。
「うえっ、うぉえっ、うおええええーっ!」
……あれ?
絶対吐くと思ったのに、何も出てこない。なんだろう、なんか気持ち悪いなあ。胃のあたりが、こう、ムカムカするんだけど。
「おねえさん?」
「あー、ダイジョブダイジョブ。ちょっと気持ちわ――」
ん? ナニコレ?
便器の陰に……。
え、これって……もしかして……、もしかしなくても、包丁!?
しかも、血……?
え、待って。どうしてこんなところに? こんなものが? なんで? え、ちょっ……、パニック!!
落ち着け、私。いや落ち着いてる場合じゃないってば!
どうして? ここ、駅のトイレよ、トイレの個室。なんで包丁が落ちてるの? しかも、ち、血の付いた包丁って!
ああ、そっか! そっか、わかった。
駅前の肉屋のおばちゃんが、豚を
「おねえさん、どうしたの」
薄い壁越しに、ココちゃんの声がする。
赤いスカート……。赤いのは、全体だった?
最初、グラデーションかとも思ったのよね。照明の加減もあると思うんだけど。
ひえーん。どうしよう、知りたくないよう……。
だって、この世には知らないほうが良いこともあるじゃない? ……なんて、言ってる場合じゃない!
確かめないと。
「ううん。大丈夫よ、ココちゃん。それで、えっと……。何の話だっけ? パパにぶたれて、ママには、見えなくて……?」
「だからね、ママに教えてあげたの。……わたしは、ココだよって」
赤色が、さっきよりくすんで見える。
色は、腰の下あたりまで。このスカート、もともとは、ベージュ色だ。
「ママね、さっき初めてわたしのこと見たの。まっ赤になって、ごめんね、ごめんね、って」
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