第35話 GoHOME GoGINZA

銀座六丁目 午後5時50分

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


花椿通りを六丁目に向かって車を走らせた。


運転席と助手席の間のコンソールボックスの上に右手を乗せた沙羅さん、その手を上から繋ぐ俺の左手。

いつも片手でハンドル、君のてのひらサンドイッチ・・・かなり昔の歌だ、いつ聴いたんだろうな。


そんなベタな恋愛ありっこねぇって中坊の頃は思っていた。

つい最近まで思っていたかもしれない。

でも、あったんだよな。今こうしてサンドイッチどころか君の手をおにぎりのように握っている俺。

俺を変えた沙羅さんすごいよな。


俺はENDLESS RAINの通用扉の前で車を停めた。

一生モノの、忘れられない濃密な二日間だったね。

夕刻の銀座の空も悪くないよ、ほら青い空が淡いみかん色に変化してきた。


「陽司くん、最後にわがまま言っていいかしら」


珍しい、沙羅さんのおねだり。


「ん?何だろう。もちろん俺ができることなら」


「店で用を済ませてくるから、ここで待っていてくれる?」


「いいけど・・・それだけ?」


「ええ、時間を取らせてごめんなさい。車は通用扉の前なら少しだけ停めておいて大丈夫よ。陽司くんは正面の入口で待っていて欲しいの」


「え?正面ってお客さんの出入り口でしょ」


「大丈夫よ。お願い、すぐに出てくるから待ってて」


沙羅は手荷物を入れたキャリーバッグを引いて通用口に消えた。

手持ち無沙汰になった俺は沙羅さんから受け取った三本の鍵を手のひらにのせ、そっと握った。


いつか俺の部屋の鍵も渡したい。

沙羅さんは下町ワンルームのアパートの鍵でも喜んでくれるかな。

いや、それより同じ家の、同じ鍵を一本づつ持てるようになりたい。



暫くして車の窓をコツコツ叩く音がして黒木さんが会釈をするのが見えた。

俺は車を降りて挨拶をかわすと、


「お待たせしました香月さん、沙羅ママが正面エントランスまでお願いしますと」


「あ、はい、わかりました」


車を置いて店の正面へまわった。



次は最終話「あなたと見る桜色の空」です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る