第24話 星空プール

ニューヨーク バー 午後10時25分

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「大丈夫かしら」


「大丈夫だよ、和中がついてるんだし」


バーのエントランスで沙羅は眉を寄せた。

香月はルームカードでチェックして沙羅の背に腕を回して促す。


二人は夕食のダイニングで偶然に会った港東署の同僚カップル、和中と前沢はるかと4人で今までラウンジバーにいた。


前沢と沙羅さんの希望で食事の後、少しだけの約束でバーで酒とおしゃべりを楽しんでいたのだ。


沙羅さんは仕事柄、政財界人、芸能、業界人の知人が多い。

知己も幅広く深いので会話のネタが途切れることがなく盛り上がる。


それに何と言っても聞き上手で褒め上手だ。

和中たちはあっという間に沙羅さんの魔法にかけられて会話は弾むわ、酒はすすむわ、夜景は綺麗だわ、沙羅さんは綺麗だわであっという間に2時間が経ってしまった。


やがて前沢がほろ酔いを通り越して口数が少なくなった(したたかに酔った&眠い)のに和中が焦りだし、先に部屋へ戻ったため我々も席を立つことにしたのだ。


沙羅さんは前沢のドリンクを軽い酒に変えられなかったことを自分の責任のように後悔してショボンとしている。


「途中で軽いものをすすめておくべきだったのに・・・」


「勧めたけど前沢君が言うこと聞かなかったからね」


「私の責任だわ・・・」


「沙羅さんは悪くないよ」


全くもう、一度へこむと復活に時間がかかる人なんだよね・・・俺もしょぼんとしちゃいそうだよ。



俺はジャケットのポケットにしまった小箱を親指で触って確かめる。

これ、渡せなかったなぁ ───。


このまま部屋に戻るのもちょっと、と思った俺。

事前の確認でこのホテルには豪華な屋内プールがある事を思い出した。


「沙羅さん、少しだけ歩かない?」


「どこへいくの?」


「きれいなところ」


エレベーターで部屋のある50階を通過して47階へ降りる。

手を引いて長い廊下を歩いているうちに沙羅の手のひらの力が抜けてきて、落ち着きを取り戻しているようだ。


「─── まぁ、なんて綺麗」


プールの扉が開いている。

泳いでいる人はいないが見渡せる。

天井までガラス張りの美術館のような構内はアーチ状の造りだ。

そしてここからも星が見える。


ほの暗いダウンライトとプール底のライトとが共鳴しあっていて幻想的だ。

ゆらゆら揺れる水面を沙羅が目を細めて見つめている。

良かった、すっかり落ち着いたようだな・・・

その時、内ポケットのスマホが震えた。

──和中か。


「沙羅さん」


「あ、はい」


「和中からLINE。ほら見て」


そこには赤いバラの花束を抱いたはるかと照れくさそうな和中の笑顔の写メに


《 先程はありがとうございました。

またご一緒させてください。

沙羅さんとお話ししたいです。 》


のメッセージ。


「まぁ、はるかさん元気になったのね。良かった・・・」


「安心した?」


「ええ、私からのお詫びも伝えてね」


「わかった。ね、沙羅さんこっちおいで」


沙羅がそばに行くと香月はスマホカメラを内側に向け、プールを背景にカシャ、そして数文字打ち込んで送信。


《 無理させるなよ。

沙羅さんもお大事にってさ》


プールを背景にした二人の画像も添付した。


「さ、俺たちも部屋に戻ろうか」


「そうね」


沙羅の気持ちが晴れて良かった。


二人は手を繋いでエレベーターホールへと向かった。



次話は「ふたつ星」です。

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