天邪鬼
今回の使用単語
「つりがね。てぃっしゅ。いただきます」
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一体どれだけの時間が経ったんだろう。真っ暗な闇の中に閉じ込められると、時間の感覚がなくなる。
僕は友達と悪ふざけで近所のお寺の釣鐘を鳴らして遊んでいた。「触っちゃいけない」「鳴らしちゃいけない」って言われると触りたくなるし鳴らしたくなる。それは多分、大人だって同じだ。だって昨日の夜「入ってこないで」って言ったのに、お母さんは部屋に入ってきたんだ。だから、僕は悪くない。そんなに触られたくなかったり鳴らされたくないんだったら、「触りなさい」「鳴らしなさい」って言えばいい。そしたら僕たちも「誰がやるもんか」って近付きすらしなかった。
僕が釣鐘の真下に立ち、友達は釣鐘をつく係。近くに誰もいないことを確認して、友達が縄で吊るされた木を全身を使って引いて釣鐘にぶつける。
ゴ――――ン………………
地面ごと揺れているみたいに大きな音が響いて、身体の奥の方も揺れている。ずっとやまびこしている感じでグワングワンと反響音だけが耳に届いて他の音は何も聞こえない。
だんだん音が小さくなってきたと思っていたその時、またゴ――――ンと大きな音がしたと同時に目の前が真っ暗になった。今度は確かに立っていた地面が揺れた。足の裏で揺れを感じ取れた。釣鐘が落ちた。その空洞の中に閉じ込められた。
反響音の波に身体が飲まれそうになる。音が身体を支配しているみたいだ。何にも触れられていないのにざわざわする、変な感じ。脳も揺らされて一瞬気が遠くなりそうになる。
反響音が小さくなってから「おーい!」と叫んだ。でも僕の声が跳ね返ってくるばかりで友達の声は聞こえない。壁を叩くみたいに鐘を叩いても音が反響してあのいやな感覚がするだけで何の意味もない。
僕、どうなるんだろ。どうすることもできないで中で体育座りをして考える。誰も助けてくれなかったら。小さい頃、鐘の中に閉じ込めた男の人を鐘ごと燃やして焼き殺したなんて話を聞いたことを思い出してしまった。怖い、僕、ここで死んじゃうの?
……お腹空いてきた。何かないかな、ズボンのポケットに手を突っ込む。入っていたのはハンカチとティッシュだけ。お母さんがいつも「持っていきなさい」って言うのをちゃんと聞いてたから持ってる。
ティッシュって甘いらしい。そんなこと、どこかで誰かが言ってたな。ホントかな?
「いただきます……」
……甘いような気がしなくもない。でも、口の中に食べ物じゃないものが入ると気持ち悪くて反射で吐き出したくなる。当たり前にこれじゃお腹は膨れない。
もう晩ご飯の時間くらいかな。ああ、こんなことならちゃんと言うこと聞いてれば良かった。お母さんの作ってくれるご飯、食べたいな……。
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岐阜県高山市付近だそうです。
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