雪どけ

今回の使用単語

「まかせる。てつだう。ゆきよけ」


 朝、冷たい空気で目が覚めた。身体を起こし窓の外を見る。真っ白。結露かと思ってどれだけ拭いても真っ白。それもそのはず。これは外に降り積もった雪だ。


「うわぁ〜、こんなに積もったの久々だなぁ」


 唖然として凍ったみたいに固まってる僕をよそに、彼女はなんでもない様子で零点の答案が返されたときみたいな顔をしている。……僕ならそれでも同じような顔をしただろうけど。

 つまり、彼女はこの光景に慣れている。雪国出身、何よりここは彼女の実家だ。僕は彼女の両親のもとへ挨拶に来た。昨晩のうちに何も問題なす済ませることができ、胸を撫で下ろして夜を明かした矢先にこの豪雪。あとは帰るだけと完全に気を抜いていたから、一気に背筋が伸びた。


「こんなの、どうすれば……」

「雪除けちゃわないとねぇ。この量の雪かきはかなり大変だよ」


 やはり平気そうだ。恐らく、いや確実に玄関はこの雪の中だ。除けてしまわないと帰れない。彼女と彼女の両親と僕、この中で一番体力があって腕力もあるのは恐らく僕だ。僕が頑張るしかない。


「よし、僕が雪かきするよ」

「え? 大丈夫?」

「大丈夫、任せて」

「それじゃあ……任せるね」


 彼女に雪かきの道具の在処を聞いて取り掛かることにした。両親にも「任せてください」と勢いで大口を叩いてしまった手前、頑張らないといけない。

 二階の窓から外へ出た、こんなの初めてだ。ずぼっとふくらはぎの真ん中辺りまで足が埋まる。これ、下手したら身体ごと雪に飲み込まれるのでは? 急に不安になって一度足を抜き部屋の中に戻った。


「やっぱり、あたしも手伝うよ」


 そうはいかない。ぐっと握り締めた拳と細い腕を胸の前で構えているけど、そんな腕で雪かきなんてさせられない。第一、女の子に力仕事を任せる男なんて格好悪すぎる。


「いや、大丈夫だよ」

「多分大丈夫じゃないよ。雪かき慣れてないでしょ? あたしに任せてっ」


 そう言って彼女は僕の持っていたスコップを奪い取り、慣れた手つきで雪をどけていく。一掬い分でもそれなりの重量があるはずなのに、それを感じさせない手際の良さ。みるみるうちに雪はどかされて、あっという間に玄関が使えるようになった。


「すごい……」

「まあ、雪かきは昔からあたしの担当だったからねぇ」


 えへへ、と体育祭の障害物競走で一位を獲ったときと同じような笑顔を向けられる。発揮できた数少ない得意分野に胸を張っているんだ。しかしながら、僕は長い間彼女を侮っていたらしい。


「やっぱり僕は君が好きだ」

「え〜? 何、急にどうしたの?」

「そう思っただけだよ」

「ふ〜ん?」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

埼玉県毛呂山町付近だそうです。

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